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上野水香 <br>Photo: Mizuho Hasegawa

2022/09/07(水)Vol.453

上野水香、「ラ・バヤデール」を語る
2022/09/07(水)
2022年09月07日号
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インタビュー
バレエ
東京バレエ団

上野水香
Photo: Mizuho Hasegawa

上野水香、「ラ・バヤデール」を語る

10月に東京バレエ団が上演する『ラ・バヤデール』は、伝説的スター、ナタリア・マカロワが振付・演出を手がけ、世界的に人気を得ている古典の名ヴァージョンです。2009年の東京バレエ団初演以来、ヒロイン・ニキヤを演じてきた上野水香が、本作との出会いからマカロワの指導、舞台の積み重ねを通して実感した、その魅力と見どころ、公演への想いを語ります。

マカロワ版「ラ・バヤデール」にはマカロワ自身の独特の踊り方が反映されていると思う。

――上野さんがこの作品との出会ったのはいつのことでしたか。

上野水香:1992年に、英国ロイヤル・バレエ団によるマカロワ版『ラ・バヤデール』の映像が発売されて、それを見たのが最初です。『ラ・バヤデール』といえば、幻想の場である「影の王国」の抜粋を観ることはあっても、全幕を通して観るチャンスはそれまでなかったので、衝撃的というか、なんて面白いバレエなんだろうと思って何度も何度も繰り返し見ていました。無駄を省いたスピーディーな展開に、音楽をとても効果的に使った振付も素晴らしい。ジョン・ランチベリーによる編曲もとても現代的で、物語の世界に自然と入っていくことができました。

――ロイヤルの映像のニキヤ役はアルティナイ・アスィルムラートワでした。どのような印象を持たれましたか。

上野:映像から感じたのは、ニキヤという女性の強さです。ニキヤは恋敵のガムザッティに恋人を奪われて殺された儚い女性と捉えられがちだけれど、それは違うと思います。バヤデール(神殿の踊り子)という地位の低い女性でありながら、身分や財産といったものを全て超越した人間力を持った女性。そんなニキヤの強さがあるからこそ、最終的に神の怒りによる神殿崩壊を招くほどのドラマが成り立つ。マカロワ版には、そんな説得力があります。
ロイヤルの映像ではイレク・ムハメドフがソロルを演じていますが、あんなに強そうで威厳のある戦士なのに、ニキヤが現れた瞬間にメロメロ(笑)。なんて人間的なんだろうと思います。それを踊りで表現してしまうなんて、すごいことですよね。

上野水香
Photo: Mizuho Hasegawa

――2009年のバレエ団初演の際には、マカロワ自身から指導を受けられました。

上野:マカロワさんご自身の踊りは『白鳥の湖』を映像で見ていましたが、それは誰のものとも違う、彼女ならではの踊りでした。とくに背中や首の使い方が独特で、ほかではありえないほど素敵です。そういった彼女の踊りが、ニキヤにも強く反映されていると思いました。
例えば、冒頭の登場の場面、それから第1幕3場の"スネーク"──ソロルとガムザッティの婚約式で踊るニキヤが、花籠に隠された蛇にかまれて死に至る場面の踊りなどに、マカロワさんならではの要素がいっぱい含まれているのがわかります。具体的にいうと、一連の動きの中の、途切れない粘りというか、濃厚なものがある。その濃厚さはどこから来ているのかというと、動きに対する"レジスト"(抵抗)。それが必要なのだと言われていました。こうして手を前に出すとしても、ただスッと出すのではなく、何かに抵抗されているのをぐぐぐっと押し戻すように出す。それを、安っぽくなく、いやらしくなく見せるためには、絶対的な芯と風格が必要なのだと思います。 いっぽうで、第2幕の「影の王国」では、クラシック・バレエの本当にピュアな部分が必要で、少しでもラインを崩そうものなら、絶対に許されませんでした。厳しかったですね。

ニキヤを踊る上野水香
Photo: Kiyonori Hasegawa

――終幕のソロルとガムザッティの婚礼の場で、亡霊となったニキヤがソロル、ガムザッティ、ラジャと踊るパ・ド・カトルも、マカロワ版ならではの踊りですね。

上野:この場面でのニキヤは、ただただ純粋に好きな人を連れていきたいだけ。演じる方によっても違うかもしれませんが、決してガムザッティからソロルを奪ってやろうとか、彼女に恨みがあって出てきたわけではないように思うんです。そう考えると、いろいろと腑に落ちるところがあります。
このパ・ド・カトルの描写に加え、それに続く神殿崩壊を復活させることで、マカロワ版は人間同士のドラマをしっかりと描き出した。素晴らしい作品だと思います。

『ラ・バヤデール』東京バレエ団シュツットガルト公演より
上野水香、柄本弾
Photo: Ulrich Beuttenmueller

―― 10月の公演でもニキヤを演じられます。いまの思いをお聞かせください。

上野:これまで幾度も演じてきた役柄ですが、いまの私がどんなニキヤを演じることができるのか、自分自身、とても楽しみにしているんです。リハーサルを通して、より演技をクリアにし、皆さんにより深くドラマの中に入っていただけるよう取り組んでいきたい。ぜひ、期待していただきたいと思います。

ニキヤを踊る上野水香
Photo: Kiyonori Hasegawa

インタビュー・文:加藤智子(フリーライター)

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東京バレエ団初演

「ラ・バヤデール」 全3幕

公演日

2022年
10月12日(水)18:30 
10月13日(木)13:00 
10月14日(金)13:00 
10月15日(土)14:00 
10月16日(日)14:00 

会場:東京文化会館(上野)

予定される出演者

ニキヤ: 上野 水香(10/12、10/16)
秋山 瑛(10/13、10/15)
中島 映理子(10/14)
ソロル: 柄本 弾(10/12、10/16)
秋元 康臣(10/13、10/15)
宮川 新大(10/14)
ガムザッティ: 伝田 陽美(10/12、10/16)
二瓶 加奈子(10/13、10/15)
三雲 友里加(10/14)

指揮:フィリップ・エリス
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

入場料[税込]

S=¥13,000 A=¥11,000 B=¥9,000
C=¥7,000 D=¥5,000 E=¥3,000
U25シート=¥1,500
※ペア割引あり(S、A、B席)
※親子割引きあり(S、A、B席)

[平日マチネ料金]
10/13(木)13:00
S=¥10,000 A=¥8,000 B=¥6,000
C=¥4,000 D=¥3,000 E=¥2,000
U25シート=¥1,500