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Photo: Alice Blangero

2022/09/07(水)Vol.453

モナコ公国モンテカルロ・バレエ団「じゃじゃ馬馴らし」
バレエになったショスタコーヴィチ
2022/09/07(水)
2022年09月07日号
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バレエ

Photo: Alice Blangero

モナコ公国モンテカルロ・バレエ団「じゃじゃ馬馴らし」
バレエになったショスタコーヴィチ

モナコ公国モンテカルロ・バレエ団日本公演を前に、今回は「じゃじゃ馬馴らし」の音楽に焦点をあててみます。題して"バレエになったショスタコーヴィチ"。コロナで鬱屈していた気分を解放できるその音楽は、いまの世の中の雰囲気にぴったり。振付家マイヨーの才気に魅せられ、ショスタコーヴィチの音楽にハマってしまうかも!?

「じゃじゃ馬馴らし」の音楽は大部分が映画音楽から!

ジャン=クリストフ・マイヨーにはシェイクスピアの戯曲を題材とする「ロミオとジュリエット」や「夏の夜の夢」がありますが、いずれも音楽の上に洗練された振付を施して卓越した舞台を実現しています。今回マイヨーとモンテカルロ・バレエ団が持ってくる「じゃじゃ馬馴らし」もシェイクスピアによる作品ではあるのですが、音楽の使い方の点で、前記2作品と異なるのです。というのも、「ロミオ~」はプロコフィエフの"バレエ音楽"ほぼそのままに、「夏の夜の夢」もメンデルスゾーンの同名の劇音楽に振付けたものに対し、「じゃじゃ馬馴らし」の場合は、終始ショスタコーヴィチの音楽で統一されているとはいえ、大部分が彼の映画音楽(!)からとられているのです。

マイヨー自身、ソヴィエトの大作曲家ショスタコーヴィチの音楽に原作の〈じゃじゃ馬ならし〉の本質を見出したそうですが、これ、マイヨーの慧眼と呼ぶしかありません。なぜならショスタコーヴィチの音楽の特質として、早いテンポのきびきびとした部分はコミカルな喜劇に絶妙にマッチし、また対照的に緩徐的な音楽が意外にもロマンティックな雰囲気を醸し出すからです。ショスタコーヴィチの旋律は概ね、4小節構造をとっており、リズムも明確で覚えやすい。同時代のストラヴィンスキーが「春の祭典」や「アゴン」でのように変拍子を好んだのとは対照的で、観客にそのシンプルさゆえのダイナミズムを体感させるのです。

ここでマイヨーが「じゃじゃ馬馴らし」で使っている音楽をリストアップしてみましょう。映画音楽では、「呼応計画」(1932年)、同「ハムレット」(1964年)、同「女ひとり」(1931年)、同「馬あぶ」(1955年)、同「ソフィア・ペロフスカヤ」(1967年)、同「偉大なる市民」(1937年-1939年)など。これに加えてオペレッタ『モスクワ・チェリョームシキ』から、純器楽曲では交響曲第3番第3楽章、弦楽四重奏曲第8番第3、4楽章、そして「タヒチ・トロット(二人でお茶を)」。なかにはふつうのコンサートでも演奏される作品も含まれますが、ほとんどが聴く機会が少ないものばかり。いわばショスタコの秘曲オンパレード、マイヨー、かなりマニアックですね。

プロモーションビデオでは、オペレッタ『モスクワ・チェリョームシキ』からのポルカ、ギャロップの後、パ・ド・ドゥの映像では映画「偉大なる市民」の葬送行進曲が使われている

劇中、とくに印象深い場面と音楽の例をあげてみると、第1幕でのビアンカとルーセンショーのパ・ド・ドゥ、これは「馬あぶ」からの"ロマンス"で、ヴァイオリンのソロ曲としても知られています。抒情とのびやかな旋律美に満ちていて、ショスタコーヴィチ独特のペシミズムやアイロニーとは別世界の音楽です。そしてなんといっても見せ場&聴かせどころなのが、第2幕冒頭からの一連のシーン、金目当ての求婚者ペトルーチオが強情なキャタリーナを征服(=じゃじゃ馬馴らし)する場面。
エロスすら漂うクライマックスですが、ここでは「偉大なる市民」の"葬送行進曲"、映画「女ひとり」、弦楽四重奏曲第8番(弦楽合奏版)第3~4楽章が切れ目なく用いられ、2人のもつれあいが見事に音楽と溶け込みます。ちなみにこの場面の音楽はハ短調が基調となっていて、曲の配置はまるでオペラのような周到さです。一夜明け、ペトルーチオの手により新たな自分に目覚めたキャタリーナの心情を、またもや「女ひとり」の緩やかなハーモニーが鮮やかに描き出すことになります。

Photos: Alice Blangero

ほぼラストでは、ペトルーチオとキャタリーナの真のカップル誕生の場面で鳴りわたる「二人でお茶を」に皆さんはマイヨーの天才的な音楽センスを感じることでしょう。シェイクスピアとショスタコーヴィチの芸術がマイヨーの中で時空を超えて出会いドラマとして見事に昇華する瞬間です。

このバレエを観終わったとき、皆さんはダンサーの動きの美しさだけでなく、ショスタコ-ヴィチの音楽自体にも興味を持たれるのではないでしょうか。これを機に交響曲や弦楽四重奏曲など聴いてみてください。チャイコフスキーやプロコフィエフ同様に沼にハマること請け合いです。

城間 勉(音楽ライター)

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モナコ公国 モンテカルロ・バレエ団 2022年日本公演
「じゃじゃ馬馴らし」

公演日

2022年
11月11日(金)19:00
11月12日(土)13:00
11月12日(土)17:00
11月13日(日)13:00

会場:東京文化会館(上野)

配役はモンテカルロ・バレエ団の方針により、
公演当日に発表。

入場料[税込]

S=¥17,000 A=¥15,000 B=¥13,000
C=¥10,000 D=¥7,000 E=¥5,000
U25シート=¥2,000
※特別ペア割引あり[S,A,B席]
※親子割引あり[S,A,B席]