10月に東京バレエ団が上演する古典名作『ラ・バヤデール』は、インドを舞台に舞姫ニキヤと戦士ソロルを軸に描かれる愛のドラマです。ナタリア・マカロワの演出・振付による人気ヴァージョン4年ぶりの上演にあたって初めてニキヤに挑む秋山瑛は、今春プリンシパルに昇進しました。昇進前後の心境の変化や『ラ・バヤデール』への想いを語ります。
――プリンシパルに昇進されて何か変化はありますか?
秋山瑛:舞台への向き合い方に大きく変わりはありませんが、より一層責任を感じています。踊るのが2回目、3回目の作品も増えたので、表現をさらに深めてお見せしたいです。今までは役を体現できるのかどうかが心配で少し不安もありました。でも「自分はこのように踊りたい」ということを出さないと、お客様に伝わるものは少ないと思います。悩んだ状態のまま舞台に出ることを止めてから、気持ちが少し楽になり、吹っ切れてきました。
――ステップアップになったとご自身で感じられている舞台は何でしょうか?
秋山:初めて全幕主演した『くるみ割り人形』(2019年初演)は思い出深い大切な作品です。(金森)穣さんの『かぐや姫』第1幕(2021年世界初演)でかぐや姫を踊った時もそうでしたが、新制作に立ち会えて大きな経験になりました。(芸術監督で改訂演出/振付の斎藤)友佳理さんが「演出の部分でこうしたいのだけど、マーシャの気持ちとしてはどう?」というふうに聞いてくださり、皆で話し合いながら創っていきました。クランコ版の『ロミオとジュリエット』(2022年)のジュリエットは本当に難しかったです。大きなリフトや複雑な組み物が入っている中で気持ちを自由に表現するのも難しかったですし、逆にただ歩くだけといった踊り以外の演技についても考えさせられました。
――このたびマカロワ版『ラ・バヤデール』の主役ニキヤを初めて踊ります。この作品に初出演されたのは2017年4月のシュツットガルト州立劇場公演ですね。その後、同年6月~7月の東京公演に出られ、2018年10月にはオマーンのマスカットでのツアーにも参加されました。この作品について、どのような印象をお持ちですか?
秋山:観るのも踊るのも好きです。装置や衣裳も素晴らしく、音楽も大好きです。踊りにも物語の展開にも引き込まれます。登場人物皆のキャラクターがくっきりとしていますよね。1つの場面にさまざまなストーリーが渦巻いているのがおもしろいですし、どの役にもやりがいがあります。これまでに「影の王国」のソリスト(第1ヴァリエーション)とコール・ド・バレエ、それに8人の巫女をはじめたくさんの役をやりました。オマーン公演ではニキヤのアンダースタディに入っていたので、その時はマカロワの助手を務めるオルガ(・エヴレイノフ)先生にも教わりました。
「ラ・バヤデール」リハーサルより
Photo: Shoko Matsuhashi
――ニキヤ役を踊ることへの想いをお聞かせください、
秋山:私が踊ってきた役の中で一番大人の女性だと思います。ソロルはもちろん自分に対しても純粋で、正直で、芯がしっかりしている強い女性なので、ニキヤの人物像をきっちりと語っていきたいです。「影の王国」はソロルの夢の中(幻影)なので、バレリーナでいるというよりも空気に溶けている、雲のようなイメージがあると教わりました。そうしたことを意識するのとしないのとでは自分の気持ちも違うし、多分見え方も違うと思います。役柄の中身と、自分がこう見えているだろうと思ってやっていることと、実際に見えていることのギャップを埋めていきたいです。ソロルの(秋元)康臣さんは素敵で、一緒に踊ることができるのは幸せです。『ジゼル』(2021年)でも康臣さんと踊りましたが、サポートも演技も任せていればそのまま引っ張っていってくださるので、私も自分のニキヤ像を考えて踊りたいです。
――今回、アメリカン・バレエ・シアターで活躍したフリオ・ボッカさんが振付指導を務めます。リハーサルからどのようなことを感じていますか?
秋山:フリオさんはずっと大好きなダンサーなので、指導していただけて本当にうれしいです。一緒にクラスを受けていたり教えてくださったりする時のちょっとした動きもすべて美しくて、いつも見とれてしまいます。テクニックだけでなく、パ・ド・ドゥの組み方、振り返り方や小さな動きに至るまで丁寧に教えてくださり、何気ない振付にもその時の役柄の気持ちや意味が込められていることを説明していただいています。リハーサルの時間以外にも横で練習しているとアドバイスをくださったり、できないところもいろいろアイデアを出して助けていただいたりしています。
「ラ・バヤデール」リハーサルより。秋元康臣と
Photo: Shoko Matsuhashi
――『ラ・バヤデール』の後も多くの公演を控えています。先日、来年7月の『ジゼル』オーストラリア公演が発表されました。金森穣さんの『かぐや姫』第2幕、第3幕の予定もあります。今後に向けての抱負をお話しください。
秋山:いろいろな作品を踊っていきたいですね。穣さんやフリオさんも含めて教わったことをすべて吸収して体現できるように毎日集中してリハーサルに臨みたいです。指導してくださる方との出会い、それによる自分自身の変化が楽しみです。これからも「分からない」と思ったことでも、とりあえず全部やってみる。自分の考え方や踊り方を壊すこと・変えることを恐れずに全部吸収できる柔軟な人でいたいです。人間としてもダンサーとしても深みのある存在になりたいですね。
インタビュー・文:高橋森彦(舞台評論家)
2022年
10月12日(水)18:30
10月13日(木)13:00
10月14日(金)13:00
10月15日(土)14:00
10月16日(日)14:00
会場:東京文化会館(上野)
ニキヤ: | 上野 水香(10/12、10/16) 秋山 瑛(10/13、10/15) 中島 映理子(10/14) |
ソロル: | 柄本 弾(10/12、10/16) 秋元 康臣(10/13、10/15) 宮川 新大(10/14) |
ガムザッティ: | 伝田 陽美(10/12、10/16) 二瓶 加奈子(10/13、10/15) 三雲 友里加(10/14) |
指揮:フィリップ・エリス
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
S=¥13,000 A=¥11,000 B=¥9,000
C=¥7,000 D=¥5,000 E=¥3,000
U25シート=¥1,500
※ペア割引あり(S、A、B席)
※親子割引きあり(S、A、B席)
[平日マチネ料金]
10/13(木)13:00
S=¥10,000 A=¥8,000 B=¥6,000
C=¥4,000 D=¥3,000 E=¥2,000
U25シート=¥1,500