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2022/09/21(水)Vol.454

2023年ローマ歌劇場日本公演
イタリア・オペラといえばコレ!『椿姫』『トスカ』
2022/09/21(水)
2022年09月21日号
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オペラ

2023年ローマ歌劇場日本公演
イタリア・オペラといえばコレ!『椿姫』『トスカ』

2023年ローマ歌劇場日本公演の速報発表からはや1週間。オペラ・ファンの方々にとって、コロナ禍で"失われた"3年間の喪失感と寂しさは、期待と喜びへと変わっているのではないでしょうか。〈オペラ・フェスティバル〉の特別企画として7月から開催している〈旬の名歌手シリーズ〉に来場された方々から、「久々に本当に愉しんだ」「こんなコンサートが聴きたかった」等々盛り上がりの声が寄せられたことに、日本のファンの皆さまがいかに"本物"を求めていたかがうかがわれます。以前から、来日したアーティストたちは、日本の観客の鑑賞眼の高さについて、口を揃えていましたが、それがはっきりと証明される機会ともなりました。 そうした日本のファンの皆さまにとって4年ぶりとなるNBSの海外歌劇場引越公演への期待は、コロナ前より大きなものになっているのでは。NBSでは、そうした皆さまの期待に応えるために、イタリア・オペラといえばコレ!という2作を用意しました。
それではローマ歌劇場ならではの『椿姫』と『トスカ』の魅力をご紹介!

「こんな『椿姫』が観たかった」の声再び !!

ローマ歌劇場2018年日本公演でも大きな話題をさらった『椿姫』。すでに映画監督として世界を舞台とした活躍が知られていたソフィア・コッポラのオペラ演出デビューであること、またローマで創業し世界最高峰に君臨するファッションブランドの創始者にしてデザイナーのヴァレンティノ・ガラヴァーニが衣裳デザインを手がけること、さらに舞台美術に映画界では何度もアカデミー賞にノミネートされているアート・ディレクター、ネイサン・クロウリーが起用されたことなどから、オペラ界だけでなく、映画やファッションといった異なるジャンルからも大反響を得ました。
欧米ではオペラの演出を映画監督が手がけたり、異ジャンルの手法が取り入れられたりすることは珍しくはありません。ただ、それらのなかには新奇性や強いインパクトを狙うあまり、オペラ本来の芸術性や魅力がないがしろにされてしまうという逆効果も生まれてしまうことを問題視する向きもありました。その点、ソフィア・コッポラによる『椿姫』は、映画で培った視覚的な美しさを追求しながら作品の真実に迫ることに成功しています。コッポラは、映画製作においても早い段階から音楽について考えるとのこと。「音楽が私のシナリオ・ライティングと映画へのアプローチを形作っていきます」と語っています。前回日本公演でヴィオレッタ役を演じたフランチェスカ・ドットは、「コッポラの指示から感じた女性特有のきめ細かさは、貴重な経験だった」と語っています。
ソフィア・コッポラはオペラ『椿姫』を「美に満ち溢れている」と言います。それは、単に目に見えるものに止まらず、素晴らしい音楽に乗せられてヴィオレッタという魅惑的な女性のストーリーが展開していくことのすべてをあらわしています。「こんな『椿姫』を観たかった!」という声が再び沸き起こるにちがいありません。

ソフィア・コッポラ演出『椿姫』(ローマ歌劇場 2018 年日本公演より)
Photo: Kiyonori Hasegawa

この『トスカ』が観られるのは日本だけ!

ローマと『トスカ』にはほかにはない結びつきがあります。オペラの舞台となっているのはローマであり、オペラの初演もローマで果たされたのですから。1900年1月14日、現在のローマ歌劇場の前身であるコスタンツィ劇場で初演されました。聴衆の熱狂的な歓迎を受けた大成功以来、ローマ歌劇場にとって『トスカ』は数あるオペラ作品のなかでも特別な意味をもつ一作となっています。
特別さを表すエピソードを一つご紹介しましょう。初演から100年に当たる2000年1月14日、ローマ歌劇場では記念公演が行われました。しかし、実際のところ、当時財政的に芳しくなかった劇場としては、特別公演の企画はしていませんでした。そこで立ち上がったのが演出家のフランコ・ゼッフィレッリ。「お金無いって!? 関係ありません。とにかくやらなければなりません‼︎」と。その結果、彼の声のもとにプラシド・ドミンゴ指揮、ルチアーノ・パヴァロッティがカヴァラドッシ役というスペシャル・パフォーマンスが行われ、さらにこの模様はテレビで生中継されたのです。
今回の日本公演で上演されるのもゼッフィレッリ演出ですが、これはそれから8年後の2008年、プッチーニ生誕150年を祝してつくられたプロダクションです。ゼッフィレッリ演出のオペラは、壮大にして圧倒的な迫力をもつことが特徴ですが、その壮大ななかに張り巡らされた細部へのこだわりがあります。大衆の一人ひとりにもちゃんと名前があると感じさせる動きをさせることができるのです。
オペラの舞台となる第1幕のサンタンドレア・デッラ・ヴァッレ教会、第2幕のファルネーゼ宮殿、第3幕のサンタンジェロ城はいずれもローマに実在します。観光で訪れた方もいらっしゃるのでは。ゼッフィレッリの舞台には、それらが見事に再現されます。
ローマ歌劇場では、2022/2023シーズンにフランコ・ゼッフィレッリの生誕100年に因んで彼が演出した『道化師』の上演が予定されていますが、『トスカ』の上演は日本公演のみ。ローマっ子たちの羨む声が聞こえてきそうです。

フランコ・ゼッフィレッリ演出『トスカ』
Photo: Teatro dell'Opera di Roma