2022年11月1日、ローマ歌劇場は新音楽監督ミケーレ・マリオッティのシーズンがスタートします。マリオッティの任命は2021年に発表され、今年7月には就任期間4年間を見据えた意欲的なシーズン・プログラムの発表などが注目されました。すでにミラノのスカラ座、パリ・オペラ座、ウィーン国立歌劇場、ロンドンの英国ロイヤル・オペラ、バイエルン国立歌劇場、メトロポリタン・オペラなど、イタリアおよび世界の主要な劇場やフェスティバルで活躍している指揮者マリオッティですが、2023年日本公演を控え、彼自身がローマ歌劇場で目指すものを探っていきましょう。
「ローマ歌劇場が、私たちの現在の社会を反映する劇場でありたいと考えていることを嬉しく感じています。パンデミックによって私たちが経験した間に、個人個人の生活や習慣が大きく変わりました。そのなかで私たちは新しい試みに慣れたり、想像を絶する状況で音楽をつくることも行っています。ローマ歌劇場と私の(就任による)新しいオープニングが、私たちの好奇心を反映し、研究への欲求とさらなる新しい試みに変わることを願っています」と、2021年6月の任命発表の際のマリオッティ。
それから約1年後の2022年7月、いよいよマリオッティ音楽監督による2022/2023シーズンのプログラムが発表されました。このとき、本シーズンに新音楽監督が指揮する演目が発表されたのは当然のことながら、さらに、マリオッティの在任期間となる3シーズン先までの開幕演目が発表されたのは異例のこと。ローマ歌劇場のフランチェスコ・ジャンブローネ総裁は4つのオープニング演目を発表したことについて、「ローマ歌劇場はさまざまな分野や歴史的時代からの観点をもつ重要な演目と、新しい現在のビジョンを与えることができる強力なアーティストを組み合わせることによって、今後数年を見据えています」と明言。そして「これらにはマリオッティ音楽監督の強力な貢献があります」と続けています。劇場と音楽監督が双方に強い信頼を寄せ合っている関係は、上演の質を大きく向上させるために不可欠。今後への期待が膨らみます。
2021年6月、ミケーレ・マリオッティのローマ歌劇場音楽監督決定が報じられた
マリオッティがシーズン開幕に振るのはプーランク作曲『カルメル派修道女の対話』。来たる11月27日のシーズン開幕は1880年にコスタンツィ劇場でオペラ・シーズンがスタートした日です。マリオッティはこのオペラについて「今日、ニュースではあらゆる種類の暴力、特に最も弱い人々に対する暴力が報道されています。私たちの国でさえ、強制された宗教を受け入れない人々への"狂信"という攻撃も.....。劇場というところは、こうした問題を長い間語ってきました。"狂信"は宗教的ではなく政治的であるという『カルメル派修道女の対話』などの作品を通じて、私たちの現在を振り返りたいと思う」と語っています。マリオッティは、音楽を学ぶ傍ら、ヒューマニズムについても修めたとのこと。深い視点がうかがわれます。
ミケーレ・マリオッティは1979年ペーザロ生まれ。ロッシーニ・オペラ・フェスティバルの創設者ジャンフランコ・マリオッティを父に持ち、ペスカーラのアカデミーで指揮をドナート・レンツェッティに師事、ロッシーニ音楽院では作曲を学びました。2005年のサレルノでのオペラ・デビューから3年後にはボローニャ歌劇場の首席指揮者に迎えられました。2011年には同歌劇場とともに来日し、『清教徒』と『カルメン』を指揮。この後数年のうちに来日の機会があった同年代のダニエーレ・ルスティオーニ(1983年生まれ、2014年初来日)、アンドレア・バッティストーニ(1987年生まれ、2012年初来日)とともに"イタリア若手指揮者三羽がらす"と称されたことも。ほかの二人が来日を重ねる一方、コロナ禍で実現しなかったこともありますが、マリオッティが日本で指揮をするのは2011年以来のこと。2023年ローマ歌劇場日本公演は、指揮者マリオッティの才能があらためて示される最高の機会となるはず!