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Photo: Kiran West

2022/10/19(水)Vol.456

ノイマイヤーの芸術監督としての最後の来日(1)
ハンブルク・バレエ団日本公演〈ジョン・ノイマイヤーの世界〉
2022/10/19(水)
2022年10月19日号
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バレエ

Photo: Kiran West

ノイマイヤーの芸術監督としての最後の来日(1)
ハンブルク・バレエ団日本公演〈ジョン・ノイマイヤーの世界〉

バレエ界の巨匠振付家ジョン・ノイマイヤー率いるハンブルク・バレエ団の5年ぶり9度目の来日(2023年3月)は、ノイマイヤーの在任50周年記念であるとともに、彼の芸術監督としての最後の日本公演という特別なものになります。「質・量ともに見る人を圧倒する」その創作の中から今回選ばれた二つの演目について、舞踊評論家の新藤弘子さんに2回にわたって解説していただきます。

ノイマイヤー自身が抜粋し、構成した、特別なアンソロジー

来年3月、再びハンブルク・バレエ団の公演を見られる喜びと、ジョン・ノイマイヤーがこのシーズンを限りに芸術監督の座を去るという事実を目の前にして、心がさざ波立つのを感じる。この公演が、1986年の初回から数えてわずか・・・9度目の来日公演であることにも、改めて驚く。ノイマイヤーとハンブルク・バレエ団から日本の観客が受け取ったものの豊かさは、数字の印象を遥かに超えている、と思うからだ。

2023年は、ノイマイヤーがハンブルク・バレエ団の芸術監督に就任してから50周年の記念の年。その間生み出された作品は、質・量ともに見る人を圧倒する。『マーラー交響曲第3番』『マタイ受難曲』など、豊かな情感と磨き抜かれたダンサーの動きが際立つシンフォニック・バレエ。『幻想〜「白鳥の湖」のように』『眠れる森の美女』に代表される、古典バレエへのオマージュと斬新な解釈が溶け合う作品。そして『オテロ』『ニジンスキー』『人魚姫』『リリオムー回転木馬』など、繊細で時に痛ましい人の心の機微を、選びぬいた音楽と振付、洗練された照明、美術とともに舞踊化した演劇的な作品の数々。中でもデュマの小説を原作とする『椿姫』は、バレエという表現手法をフルに使って主人公マルグリットの心情を描ききり、世界の観客を魅了した。日本でもハンブルク・バレエ団やパリ・オペラ座バレエ団による全幕上演のほか、名だたるスター・ダンサーによるパ・ド・ドゥが幾度も踊られてきたことは言うまでもない。

『椿姫』より
Photo: Kiran West

〈ジョン・ノイマイヤーの世界〉は、そんなノイマイヤーの膨大かつ多岐にわたる作品群から、振付家自身が抜粋し、構成した、特別なアンソロジーである。しかもノイマイヤー自ら舞台に上がり、人生とダンス、創作への思いなどを、その穏やかな声と言葉で直に観客に語りかける。彼が芸術監督としてハンブルク・バレエ団を率いる最後の日本公演に、これほどふさわしい演目もないだろう。

『ニジンスキー』より
Photo: Kiran West

純粋なダンスへの愛に圧倒される時間が、再び訪れる

2016年、2018年の日本公演で上演された際の興奮は、いまもはっきり思い出される。冒頭、マイクを手にしたノイマイヤーの声が響く。「私の世界はダンス」......。ここから観客の目の前に、彼の代表作のハイライトが、万華鏡のように繰り広げられてゆく。子どもの頃きいた音楽に連なる、晴れやかな『キャンディード序曲』。『アイ・ガット・リズム』では、ジーン・ケリーの時代を思わせるシルクハットの男女が軽快にタップを踏む。そして『くるみ割り人形』。初めてトウ・シューズを履く12歳のマリーは、憧れていたバレエの世界に足を踏み入れた少年ノイマイヤーの分身だ。

過去2回の上演では、10数作品からのハイライト・シーンが登場。『ニジンスキー』『椿姫』など、名作中の名作からとられた場面がその核を担う中で、とりわけ終盤の『マーラー交響曲第3番』は秀逸というほかない。詳述は避けるけれど、ダンスという永遠の芸術に魅せられた魂そのものを見るようで、深く心を打たれる。傑作のハイライトから生まれた新たな傑作ともいうべき〈ジョン・ノイマイヤーの世界〉だが、今回は「Edition 2023」として、内容をアップデート。この稿を書いている時点では、今回が全幕日本初演となる『シルヴィア』、コロナ禍の最中に創られた『ゴースト・ライト』からの場面が加わる予定だ。

ジョン・ノイマイヤー
Photo: Kiran West

出演ダンサーの顔ぶれ、更新された作品の全容など、ノイマイヤーとハンブルク・バレエ団に関心のある人なら、いまから思いを巡らせずにはいられないだろう。確かなのは、創作への驚異的な熱量と力量、そして純粋なダンスへの愛に圧倒される時間が、再び訪れるということだ。従来のファン必見の公演であるのはもちろん、新たな観客にとっては、ノイマイヤー自身が率いるバレエ団の踊りで、その芸術と情熱を体感する最初で最後のチャンスとなる。誰にとっても、これを見ない理由がない。

新藤弘子(舞踊評論家)

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ハンブルク・バレエ団2023年日本公演
〈ジョン・ノイマイヤーの世界 Edition2023〉
「シルヴィア」

公演日

〈ジョン・ノイマイヤーの世界 Edition2023〉
2023年
3月2日(木)19:00
3月3日(金)19:00
3月4日(土)14:00
3月5日(日)14:00

会場:東京文化会館
*音楽は特別録音による音源を使用

「シルヴィア」
2023年
3月10日(木)19:00
3月11日(金)13:30
3月11日(土)18:00
3月12日(日)14:00

会場:東京文化会館
・指揮:マルクス・レティネン
・演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
*配役については公式サイトをご覧ください。

入場料[税込]

S=¥24,000 A=¥21,000 B=¥19,000
C=¥15,000 D=¥11,000 E=¥8,000
U25シート=¥4,000
*2演目セット券[S,A,B席]あり
*ペア割引[S,A,B席]あり
*親子割引[S,A,B席]あり