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金森穣  <br>Photo: Shoko Matsuhashi

2022/12/21(水)Vol.460

2023年4月初演! 
金森穣、「かぐや姫」(第2幕)のクリエーションを語る
2022/12/21(水)
2022年12月21日号
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東京バレエ団

金森穣
Photo: Shoko Matsuhashi

2023年4月初演! 
金森穣、「かぐや姫」(第2幕)のクリエーションを語る

10月の公開リハーサルレポートで既報の通り、金森穣振付、東京バレエ団「かぐや姫」第2幕のクリエーションが、来年4月の〈上野の森バレエホリデイ〉での上演に向けて進行中です。宮廷に場を移して新たな展開を迎えるドラマや演出・振付について、「バレエ・チャンネル」編集長の阿部さや子さんが金森氏にインタビュー。

新たに登場する「影姫」とかぐや姫は、たがいに相映し合う鏡のような存在

――『かぐや姫』は全3幕を3年がかりで完成させていくというビッグ・プロジェクトですが、2021年11月に世界初演された第1幕に続き、第2幕は2022年4月下旬、〈上野の森バレエホリデイ〉期間中に上演されることが発表されました。

金森:このように長く間を空けながらのクリエーションは僕自身も初めてです。集中して一気に作れない難しさはありますが、第1幕をいったん上演したからこそ見えたものを反映してその先を作れるのは大きなメリット。第2幕は早速かなりイメージが変わりますよ。第1幕をご覧になった方はきっと驚くと思います。

――どのように変わるのでしょうか!?

金森:衣裳や美術を完全に刷新します。第1幕は具象と抽象の中間をいくようなデザインで、どちらかといえば具象寄りでした。しかし今回はそれらの具象性を削ぎ落とし、ぐっとシンプルに抽象化しようと考えています。人物像や場面を衣裳や美術で説明するのではなく、あくまでも光と動きと音楽で見せていこうと。

――抽象化しようと考えたのはなぜですか?

金森:当初、私はこの作品を子どもが観ても楽しめる紙芝居のような作品にしようと思っていました。しかし第1幕が完成して感じたのは、ドビュッシーの音楽がそこにあれば、過剰な説明は要らないということ。むしろ具象が過ぎることによって、舞踊や音楽が既に有している力をかえって弱めているのかもしれないと気づいたのです。また当然のことながら、2幕、3幕と進むにつれて物語は深くなっていきます。その時にあまり具象的に攻め過ぎると、おそらく説明過多になってしまうでしょう。とはいえあまり抽象化しすぎても「この人物は誰?」となりますから(笑)、今はそのバランスを探っているところです。

「かぐや姫」第1幕(2021年初演の舞台)より。
欲に目のくらんだ育ての親の翁によって、かぐや姫(秋山瑛)は初恋の道児(柄本弾)と引き裂かれて都に連れていかれる。
Photo: Shoko Matsuhashi

――第1幕は、かぐや姫が生まれ、美しく成長し、道児と出会って恋を知り、しかしその美しさゆえに帝から命が下り、都へと連れて行かれるところまででした。第2幕はどのような展開になりますか?

金森:宮廷に入ったかぐや姫がどのように孤独を深め、周りに翻弄されていくか。そしてかぐや姫が来たことで、宮廷側の人々の意識やバランスも変容していく。そうした人間模様を中心に描く幕になります。新たに登場する主な人物は、かぐや姫に惹かれていく帝、帝の正室の影姫、4人の大臣、側室たち、かぐやの教育係の秋見など。宮廷の頂点は帝であり、その大奥には影姫が君臨しているわけですが、かぐや姫が現れたことにより、帝の寵愛も大臣たちの関心も一気に彼女へと移ってしまいます。あたかも月の引力が潮汐や人間の血流に影響を及ぼすように、嫉妬心や欲望など様々な感情が宮廷人たちのなかに引き起こされるのです。

――ドラマの予感がします......! とりわけ影姫は重要な鍵を握りそうですね。

金森:影姫は「竹取物語」には出てこない、私が完全に創作した人物です。かぐや姫と影姫は、名が示す通り"光とその影"。かぐやが光れば光るほど、影姫の影は濃くなっていきます。ふたりは相映し合う鏡のように、お互いがお互いを存在たらしめる。そのような対比関係を描きます。

リハーサルより。
左から井関佐和子(演出助手)、秋山瑛(かぐや姫)、岡崎隼也(黒子)、金森穣
Photo: Shoko Matsuhashi

――第1幕のラストシーンで切なく引き裂かれてしまったかぐやの初恋の人、道児は登場するのでしょうか?

金森:第2幕にもワンシーンだけ村の場面があり、そこに登場します。誰よりも働き者だった道児が、かぐやが去って気力を失い、村人たちにいっそう虐げられている。かぐやが宮廷で孤独な時、道児もまた村で孤独なのです。ついに道児は宮廷にかぐやを迎えに行き、一緒に逃げようとします。その結末は......ここではまだ伏せておきましょう(笑)

――切ない予感しかしませんが......。そして第1幕に続き、かぐや姫の育ての親である翁も登場するそうですね。少し欲深だけれどもそこはかとなくユーモラスなキャラクターで、昨年の第1幕上演時に同役を任された故飯田宗孝さん(当時の東京バレエ団団長)の味のある演技も心に残ります。

金森:あれが飯田先生の最後の舞台になり、とても淋しく残念に思っています。しかし出演していただけて本当に嬉しかった。翁は一見滑稽ですが、最も人間的で、だからこそ毒もある人物です。かぐや姫を溺愛するいっぽうで、彼女を自分が成り上がるための道具として利用するのだから。ただ、その愚かさも彼の純朴さゆえであり、必ずしも"悪人"と断じられる存在ではありません。

宮廷にも村の風景にもふさわしい楽曲をドビュッシーの中に見つけられたから、『かぐや姫』の構想に確信が持てた

――振付のこともぜひ聞かせてください。第1幕では女性群舞が時に海となったり竹藪になったりと、とても印象的に用いられていました。第2幕にも群舞のシーンはありますか?

金森:もちろんありますよ。まずは男性だけの群舞。何しろベジャール作品をレパートリーとする東京バレエ団ですからね。男性群舞は絶対に作りたかった要素のひとつです。その後には侍女たちの女性群舞が続き、村人たちの群舞もあり。また舞踊の構成という意味では、第2幕の序盤には影姫と彼女にへつらう四大臣のパ・ド・サンクが出てきますし、かぐや姫と影姫と帝の三角関係はパ・ド・トロワで描きます。全3幕が完成した暁には、パ・ド・カトルなども含めてほぼ全ての構成(踊りの種類)が出揃うことになるでしょう。

リハーサルより。
第2幕に新たに登場するヒロイン"影姫"は、宮廷に君臨する帝の正室(中央、金子仁美)
Photo: Shoko Matsuhashi
リハーサルより。
第2幕では大臣たちをはじめとする宮廷人たちの男性群舞と女性群舞が迫力の展開を見せる。
Photo: Shoko Matsuhashi

――そして音楽について。宮廷と村という極めて対照的な世界が描かれるとのことですが、どちらもドビュッシーの音楽で表現されるのでしょうか?

金森:全てドビュッシーです。むしろ、宮廷にも村の風景にもふさわしい楽曲をドビュッシーの中に見つけられたから、この『かぐや姫』の構想に確信が持てたともいえます。彼の音楽は聴けば聴くほど多様であり、コンテンポラリーの匂いがする。そしてよく知られているように、ドビュッシーは東洋音楽やジャポニズムに刺激を受けた作曲家です。そのためでしょうか、彼の楽曲に響くフルートが、まるで尺八の音に聞こえることもあります。

――上演を楽しみにしているみなさんにメッセージを。

金森:全3幕を通して、かぐや姫は人々の心に何かを問いかけます。愛とは、孤独とは、生きるとは――かぐや姫と出会い、人生のひとときを共に生きることにより、登場人物たちの中で何かが変わっていく。そして彼女が去った後、人々の心に残ったその記憶は夢だったのか、それとも幻だったのか。そのシンボルとしての「月」が、全てを見つめているのです。

インタビュー・文:阿部さや子(「バレエチャンネル」編集長)

東京バレエ団×金森穣「かぐや姫」第2幕 主な配役と公演概要決定!
https://www.nbs.or.jp/publish/news/2022/12/2-2.html

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金森 穣 「かぐや姫」第2幕 世界初演
ジェローム・ロビンズ 「イン・ザ・ナイト」
ジョン・ノイマイヤー 「スプリング・アンド・フォール」

公演日

2023年
4月28日(金)19:00
4月29日(土・祝)14:00
4月30日(日)15:00

会場:東京文化会館(上野)

入場料[税込]

S=¥13,000 A=¥11,000 B=¥9,000
C=¥7,000 D=¥5,000 E=¥3,000
U25シート=¥1,500
*ペア割引あり[S,A,B席]