東京バレエ団プリンシパルの上野水香の令和3年度(第72回)芸術選奨文部科学大臣賞受賞記念第2弾として開催される〈上野水香オン・ステージ〉。上野自身の代表作をそろえ、東京バレエ団の仲間たちとともに踊るこの特別公演への思いや意気込みなどをフリーライターの町田麻子さんがインタビュー!
――水香さんは今回、5演目を踊られます。まずはベジャール振付の『ボレロ』から、セレクトされた理由や意気込みの程をお聞かせいただけますか?
上野:この舞台の開催が決まって、最初にやりたいと言ったのが『ボレロ』でした。東京バレエ団での私のキャリアで最も大事な演目であり、私にとってはこれからも深めていきたいライフワークのような存在。最初の頃は自信がなく、いつも不安を抱えたまま舞台に立っていたのですが、数年前にようやく"自分の『ボレロ』"が見つかった感覚があったんです。
人生の様々なタイミングで踊ることで、『ボレロ』とともに悩み、喜び、本当の意味での幸せを感じてきた、それがバレエ団での私のキャリア。今では、憧れのパリ・オペラ座に行く可能性などもあったなかで私がここに移籍してきた、一番の意味は『ボレロ』を何度も踊れたことにあると思っています。先のことは分からないですが、いつかオペラ座で『ボレロ』を踊ることができたら、私の夢が一巡りするのかもしれないですね(笑)。
『ボレロ』(〈HOPE JAPAN 2022〉公演)
Photo: Shoko Matsuhashi
――では、『白鳥の湖』についてはいかがでしょうか。
上野:『白鳥』は、私が前のバレエ団にいた頃から現在まで、最も多く踊っているクラシック作品。お客さまが「良かった」「また観たい」と言ってくださる声が、『ボレロ』と並んで多い演目でもあります。昨年"最後の"と銘打って踊った全幕公演でも、開演前から高かったお客さまの熱量に私の身体が呼応して、持っている以上の力を出すことができました。
今回パートナーを務めてくださるマルセロ(・ゴメス)は、サポートが本当に上手な方。女性を美しく見せる術をすべて心得ていて、なおかつ作品を、形を変えることなくさらに成長させるノウハウを持っています。ですから何の心配もしていないですし、彼も大人のダンサーなので、今回は"大人の『白鳥』"という感じに仕上げられたらいいですね。
『白鳥の湖』(2022年2月公演)
Photo: Kiyonori Hasegawa
――ローラン・プティ振付の『シャブリエ・ダンス』と『チーク・トゥ・チーク』は、前のバレエ団にいらした頃に初めて踊られた演目ですね。
上野:そうですね、私にとって原点のような大切なレパートリーです。プティ作品は私の感性に合っているのか、私の感性がプティ作品によって育てられたのか、すごく頑張ったりしなくても、水を得た魚のようにのびのび踊れるんです。ただやはり若い頃は、プティさんが本来求めている大人の女性の魅力がなかなか出せず、ご本人にもいつも"ベベ(赤ちゃん)"と呼ばれてからかわれていて(笑)。もちろんそれぞれの年代なりの良さはあったと思いますが、年齢と経験を重ねた今なら、本来の魅力に少しは近付けるのかなと思います。
特に『チーク・トゥ・チーク』は、男女の戯れを描いた本当に大人っぽい演目。それを今回、マルセロと踊れるのはすごく楽しみですね。彼にとっては初めての『チーク』で、実は最初は乗り気ではなかったのですが、ルイジ(・ボニーノ)が一緒に説得してくれたんです。そしてもちろん、『シャブリエ・ダンス』をまた柄本弾くんと踊れるのも楽しみ。私のバレエ団でのキャリアは彼なしには語れないので、何かしらの演目で絶対に出てもらいたいと思っていました。お世話になっている感謝の気持ちも込めて踊りたいですね。
――そしてヌレエフ版『シンデレラ』は、水香さんにとって初挑戦となる演目です。
上野:こういった公演をやるにあたっては、やはり一つは新しい演目を入れたいなと。候補はいくつかあったのですが、ご存じのように、私はシルヴィ・ギエムの大ファンでして(笑)。特に子どもの頃、ビデオで何度も観たヌレエフ版『シンデレラ』のギエムさんが、どのギエムさんよりも美しくて完璧で大好きなんです。音楽も振付も、それに森英恵先生の衣裳も大好き。今回は、そのなかでも最高に好きなパ・ド・ドゥを踊ります。まだリハーサルはしていないのですが、イメージトレーニングは十二分に済んでいます(笑)。
Photo: NBS
今回の公演は、芸術選奨受賞記念であると同時に、私の舞踊生活40周年であり、バレエ団の規定により団員の立場を離れるシーズン最後の舞台でもあります。区切れ目であって終わりではなく、今後もバレエ団の舞台には立ち続けていくつもりですが、一つの節目であるのは確か。この先の自分を作るのは2月までの自分だと思って、とにかく全力で取り組み、今の時点での私の集大成をお見せしたいと思っています。
取材・文:町田麻子(フリーライター)
2023年
2月10日(金)19:00 Aプロ
2月11日(土・祝)14:00 Bプロ
2月12日(日)14:00 Aプロ
会場:東京文化会館(上野)
S=¥13,000 A=¥11,000 B=¥9,000
C=¥7,000 D=¥5,000 E=¥3,000
都フェスシート=¥2,000
U25シート=¥1,500
*都フェスシートは都民芸術フェスティバル参加公演限定、枚数限定の特別割引シート。お席はお選びいただけません。NBS WEBチケットまたはNBSチケットセンター(電話)にて枚数限定販売。なくなり次第終了。
*ペア割引あり[S,A,B席]
*親子割引あり[S,A,B席]
2月24日(金) 18:30
会場:福岡シンフォニーホール(アクロス福岡)
Aプロ | 「白鳥の湖」第2幕より、「シンデレラ」よりパ・ド・ドゥ、「ボレロ」「小さな死」「パキータ」 |
Bプロ | 「白鳥の湖」第2幕より、「シャブリエ・ダンス」「チーク・トゥ・チーク」「ボレロ」「小さな死」「パキータ」 |
ゲスト・アーティスト:マルセロ・ゴメス
*上演作品と出演者の詳細は公式サイトhttps://www.nbs.or.jp/stages/2023/mizuka-ueno/をご覧ください。