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2023/01/18(水)Vol.462

東京バレエ団×金森穣「かぐや姫」(2023年4月初演)
第2幕 リハーサル・レポート
2023/01/18(水)
2023年01月18日号
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東京バレエ団×金森穣「かぐや姫」(2023年4月初演)
第2幕 リハーサル・レポート

東京バレエ団と振付家 金森穣が異例の3年がかりというスパンで取り組む新作グランド・バレエ「かぐや姫」。宮廷篇ともいうべき第2幕が今年4月に初演されます。そのクリエーションの現場を、金森氏のインタビューに続き、「バレエチャンネル」編集長の阿部さや子さんの筆でお届けします。

第2幕は、かぐや姫とは違う誰かの後ろ姿から始まった

演出振付家の金森穣によるグランド・バレエ『かぐや姫』は、全3幕を3年がかりで完成させるという大プロジェクトである。第1幕が成功裏に世界初演されたのは2021年11月のこと。そこから約1年半の"幕間休憩"をはさみ、第2幕は2023年4月末の〈上野の森バレエホリデイ〉期間中に上演されることになった。

第1幕では、美しく成長したかぐや姫が帝の命で宮廷に赴かんとするところまでが描かれた。幕切れ間際、輿に乗せられ運ばれていく彼女の足は、そこまでずっと履いていなかったトウシューズに包まれていた。それは参内のための正装を表すと同時に、彼女の向かう宮廷という場所が不自由で窮屈な社会であることを象徴しているのだと、振付家自身が語っていたのを思い出す。そんな世界に物語の舞台が移る第2幕、あの天真爛漫で愛くるしかったかぐや姫はどうなってしまうのだろう? クリエーションはすでに着々と進んでいるとのことで、金森氏のインタビューに続いて、2022年10月末、プレス向け公開リハーサル等の稽古を見ることができた。

第2幕は、かぐや姫とは違う誰かの後ろ姿から始まった。
それは帝の正室「影姫」で、原作の「竹取物語」には登場しない、金森による完全オリジナルのキャラクターだという。彼女の周りに侍る4人の男性ダンサーは、宮廷に仕える大臣たち。表情を消した顔、角張った動きでへつらう彼らと影姫によるパ・ド・サンクが、この幕の最初の見せ場である。四大臣に高々と持ち上げられて身体をうねらせる影姫は、男たちを意のままに傅かせているようにも、男たちの意のままに操られているようにも見える。

影姫(金子仁美)と大臣たち
Photo: Shoko Matsuhashi

そこへ、輿に乗ったかぐや姫が運ばれてくる。そして気がつけば背後には男性ダンサーたちがひしめいている。束帯(宮中に出仕する男性の装束)を象るように直線的に張った腕、重心を低く構えた姿勢。好奇心をぎらつかせた目が、帝の新たな側室に一斉に向けられる。男たちは踊り出し、エネルギーが塊になって迫ってくる。「ベジャール作品をレパートリーとする東京バレエ団において、男性群舞は絶対に作りたかった要素のひとつ」と金森は語っていた。つまりこの場面は間違いなく第2幕のハイライトのひとつだろう。そしてその群舞の圧にポーン!と弾かれるように、かぐや姫の身体は、男たちの手から手へと放られるのである。

かぐや姫(秋山瑛)と宮廷の廷臣たち
Photo: Shoko Matsuhashi

かぐや姫(秋山瑛)と大臣たち、金森穣、井関佐和子(振付助手)
Photo: Shoko Matsuhashi

静かな緊張感をはらむ、かぐやと影姫、帝のパ・ド・トロワ

こうして帝の側室となったかぐや姫と、正室の影姫は、その名が示す通り「光とその影」のような関係なのだという。かぐやが帝の寵愛や宮廷人たちの注目を集めて輝けば輝くほど、影姫の影は濃くなっていくのだと。その対比が生む静かな緊張感が端的に表れる場面がある。この幕の後半で踊られる、かぐやと影姫と帝のパ・ド・トロワだ。柔らかな絹のようにするりと帝の身体に添う影姫と、衣がはらりと床に落ちるように背を向けるかぐや姫。3人のムーヴメントが時にもつれ合いながらいくつかの印象的な形を作ったあと、かぐやはふっとひとりになる。例えば第1幕においてはかぐやと道児の「月の光」のパ・ド・ドゥが何と言っても心に残ったように、第2幕ではこのパ・ド・トロワが決定的な名シーンになるのかもしれない。

かぐや姫(秋山瑛)と影姫(金子仁美)、帝(大塚卓)のパ・ド・トロワ
Photo: Shoko Matsuhashi

今回の公開リハーサルの段階では、第2幕は通して30分ほどだった。その決して長くはない時間の中に、登場人物たちそれぞれの物語が細やかに織り込まれていることが、この幕の特徴であるようにも思う。例えば帝。両手をギュッと握り締めたり、指先までピンと緊張させたりしながら踊る彼のソロは、権力や尊大さよりもむしろ頂点に立つ者にしか分からない息苦しさや孤独を切々と伝えてくる。またかぐやの育ての親である翁も引き続き登場し、ますます愉快な動作で踊ってくれるから思わずほっこりするけれど、欲深さもマシマシになっているので油断してはいけない。そしてかぐやと心を寄せ合う道児も、この幕で再びドラマを動かしていく。かぐやがいなくなった村で喪失感に塞ぐ彼は、ついに彼女を追って都へ向かう。果たしてふたりは宮廷という檻から逃げることができるのか――その答えはゴールデンウィークの上野で明らかになる。

取材・文:阿部さや子(「バレエチャンネル」編集長)

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金森 穣 「かぐや姫」第2幕 世界初演
ジェローム・ロビンズ 「イン・ザ・ナイト」
ジョン・ノイマイヤー 「スプリング・アンド・フォール」

公演日

2023年
4月28日(金)19:00
4月29日(土・祝)14:00
4月30日(日)15:00

会場:東京文化会館(上野)

入場料[税込]

S=¥13,000 A=¥11,000 B=¥9,000
C=¥7,000 D=¥5,000 E=¥3,000
U25シート=¥1,500
*ペア割引あり[S,A,B席]