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Photo: Kiran West

2023/03/01(水)Vol.465

待望のハンブルク・バレエ団日本公演いよいよ開幕!
― ジョン・ノイマイヤー芸術監督在任50周年記念
2023/03/01(水)
2023年03月01日号
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バレエ

Photo: Kiran West

待望のハンブルク・バレエ団日本公演いよいよ開幕!
― ジョン・ノイマイヤー芸術監督在任50周年記念

いよいよ開幕を迎えるハンブルク・バレエ団日本公演。舞踊評論家の立木燁子さんにジョン・ノイマイヤーが芸術監督として率いた半世紀の偉業をご紹介いただきました。今回の公演への期待がますます高まります。

現代バレエの可能性を広げた輝かしい50年

ジョン・ノイマイヤー率いるハンブルク・バレエ団が5年ぶり9度目の来日を果たす。コロナ禍の収束が近づいていることを実感させる素敵なニュースだ。ノイマイヤーがバレエ団を率いてから何と50周年を迎えるという。その間、半世紀、ノイマイヤーという優れた振付家が現代バレエの発展に与えた影響はあまりに大きい。ハンブルク・バレエ団を世界有数のバレエ団に育てあげる一方、旺盛な創作力で現代バレエの可能性を多様に広げた。シュツットガルト・バレエ団が輩出した鬼才振付家のなかでも、ノイマイヤーの創作する世界はとりわけスケールが大きく壮大だ。巨匠と呼ぶに相応しい。今、長編バレエをこの人ほど魅力的に創作できる振付家はいないだろう。
ノイマイヤーの作品はおおまかに3つのグループに分けられる。『幻想~「白鳥の湖」のように』(1976)などの古典の独自の読み直し、『真夏の夜の夢』(1977)など文学や戯曲の世界を基にしたドラマティックな長編バレエ、『マタイ受難曲』『マーラー交響曲第3番、第5番』など、音楽と正面から向き合い、その世界を舞踊的に立ち上げるシンフォニック・バレエや抽象的なバレエで、美しい小品も数えきれない。大学では演劇と文学を専攻しただけに、シェイクスピアの戯曲を題材にしたバレエ作品も多く、ノイマイヤーならではの独創的な解釈が光っている。

『マタイ受難曲』(2018年日本公演〈ジョン・ノイマイヤーの世界〉より)
Photo: Kiyonori Hasegawa
『マーラー交響曲第3番』(2018年日本公演より)
Photo: Kiyonori Hasegawa

数多の名作が並ぶなかでも長編バレエの傑作と言えば、やはり『ニジンスキー』(2000)であろう。ニジンスキーという不世出の伝説的なダンサー/舞踊家の人生を深く掘り下げ、その内面の葛藤、魂の叫びまで慈愛深く描き出した優れた評伝バレエと言える。また、東京バレエ団のために創った特別な作品、『月に寄せる七つの俳句』(1989)も研ぎ澄まされた繊細な感覚が光る秀逸な中編で、忘れがたい。

『ニジンスキー』(2018年日本公演より)
Photo: Kiyonori Hasegawa
『月に寄せる7つの俳句』(東京バレエ団公演より)
Photo: Kiyonori Hasegawa

シェイクスピアの戯曲を題材としたバレエのなかでは、四大悲劇の一つ、『オセロ』(1985)が衝撃的であった。普遍的な愛の物語として描きながら、戯曲の根底に潜む現代にまでつながるテーマ、人種問題や中東地域に根強く残る紛争の火種などを壮大な舞台面から浮上させた。愛の絆で結ばれながらも、植え付けられた猜疑心から逃れられず悲劇へと至る主人公。そこに、人種の違い故のコンプレックスは無かったのだろうか、そんなことまで考えさせられた周到な振付だったように記憶される。来日公演で主役を踊ったのがエジプト出身の屈強なダンサー、カマル・グーダと金髪で透けるような白い肌を持つジジ・ハイアットで、壁画から抜け出したようなシンプルだが計算された振付が今でも脳裏に浮かぶ。

『真夏の夜の夢』(2016年日本公演より)
Photo: Kiyonori Hasegawa

インタビューでは常にノイマイヤーの誠実な人柄を感じさせられたものだが、その意味で個人的に深く印象に残っている作品が、『冬の旅』(2001)である。それ以前、ある本の準備で取材のためにハンブルクを訪れ、インタビューをさせていただいた折のこと。相手の話に静かに耳を傾け、落ち着いた口調で話すノイマイヤーにしては珍しく、「今、バレエ学校に日本人の生徒が学んでいてね。小柄だけれど、表現力に優れている」と、嬉しそうに顔をほころばせていたのが思い出される。ノイマイヤーは教育者としても定評があり、若い才能を育むことに情熱を注ぐ人だ。当時、バレエ団付属のバレエ学校で学んでいた服部有吉を見いだし、彼のバレエ団入団後、2001年の「冬の旅」初演において、まだコール・ド・バレエに居た服部を作品の根幹を左右する重要な役に抜擢した。創作時の2001年と言えば、9・11の大惨事が起こり世界中に不穏な空気が流れていた時代。作品とは直接に関係がないかもしれないが、不安と緊張を抱えて人生をさすらう人々の姿にリアリティがあった。服部の役は、眼鏡をかけた日本人の少年の役で、人生の全てを見つめる目撃者だ。無彩色の美術を配して、少年を踊る服部とともに終幕、漂泊の旅人をノイマイヤー自身が踊り、共演した。周到に選曲されたハンス・ツェンダー編曲の「冬の旅」を採用、人生の意味とは何か、やがて終焉を迎えようとする旅人の憂愁を音楽とともに詩情豊かに描いた。本作のようなノイマイヤーの思索的な作品に接し、人生そのものを改めて振り返る観客は私だけではないだろう。

Photo: Kiran West

今回は、芸術監督としての最後の日本公演になるという。寂しい限りだが、この特別な機会を存分に味わいたい。ノイマイヤー作品の魅力を集めた『ジョン・ノイマイヤーの世界』とともに、古典を新鮮な形で現代に読み直した『シルヴィア』全幕が日本初演されるという。ローザンヌ国際バレエコンクールで第1位を獲得後、ナショナル・ユース・バレエ(ハンブルク・バレエ団のジュニア・カンパニー)を経て、2014年にハンブルク・バレエ団に入団、2019年には日本人で初めてプリンシパルに昇格した期待の菅井円加が、主役の少女を踊るというから楽しみだ。
熱い舞台が期待される!

立木燁子(舞踊評論家)

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ハンブルク・バレエ団2023年日本公演
〈ジョン・ノイマイヤーの世界 Edition2023〉
「シルヴィア」

公演日

〈ジョン・ノイマイヤーの世界 Edition2023〉
2023年
3月2日(木)19:00
3月3日(金)19:00
3月4日(土)14:00
3月5日(日)14:00

会場:東京文化会館
*音楽は特別録音による音源を使用

「シルヴィア」
2023年
3月10日(木)19:00
3月11日(金)13:30
3月11日(土)18:00
3月12日(日)14:00

会場:東京文化会館
・指揮:マルクス・レティネン
・演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
*配役については公式サイトをご覧ください。

入場料[税込]

S=¥24,000 A=¥21,000 B=¥19,000
C=¥15,000 D=¥11,000 E=¥8,000
U25シート=¥4,000
*2演目セット券[S,A,B席]あり
*ペア割引[S,A,B席]あり
*親子割引[S,A,B席]あり