フランコ・ゼッフィレッリは、今秋のローマ歌劇場日本公演で上演される『トスカ』の演出家。2019年の訃報では"映画監督"として紹介されることが多かったかもしれません。ここでは、数々のゼッフィレッリ演出作品を観てきた音楽評論家の石戸谷結子さんに、その舞台づくりの魅力をご紹介いただきます。
いま、フランコ・ゼッフィレッリ(1923~2019)がクローズアップされている。彼は2019年6月に96歳で亡くなっているが今年の2月12日は100回目の誕生日だった。そこで、イタリアをはじめ世界各地でゼッフィレッリ生誕100年のイベントが実施されている。故郷のフィレンツェでは記念式典が実施され、肖像画と舞台スケッチの入った記念切手が発売された。さらに、スカラ座博物館では、昨年11月から今年の8月末まで、「ゼッフィレッリ、スカラ座の日々」と題する大規模な企画展が行われており、スカラ座で手掛けた舞台衣裳やスケッチなどが展示されている。日本でも4月に1998年に演出した『アイーダ』が新国立劇場で再演される。
スカラ座博物館では「ゼッフィレッリ、スカラ座の日々」が開催されている
https://www.museoscala.org/eventi-e-mostre/mostre/zeffirelli-gli-anni-alla-scala-mostre/
ゼッフィレッリといえば、大ヒットした映画「ロミオとジュリエット」の監督であり、いまも世界の歌劇場で上演されている『アイーダ』や『ラ・ボエーム』の演出家であり、一時は上院議員も務めた世界的に有名な芸術家だ。大学では建築学を学び、舞台背景を描く美術スタッフとして働いていたときに、ルキーノ・ヴィスコンティの目に留まり、彼のもとで助手として働き、キャリアを築いていった。1953年にスカラ座で『アルジェのイタリア女』の衣裳をデザインし、翌年は『チェネレントラ』で演出家としてデビュー。55年マリア・カラス主演『イタリアのトルコ人』を演出したことから、カラスと生涯の友情を結ぶことになった。
ゼッフィレッリの演出は「豪華絢爛で、スケールが大きく、壮大なスペクタクル」であることが特徴だ。大勢の群衆を舞台に登場させ、その流れるような動かし方が見事だった。彼の演出は「オペラの舞台を変えた」とも言われる。遠くからも舞台の動きがよく見えるよう、メイクなども強調され、クローズアップの映像にも耐えるよう工夫がされている。また師匠ヴィスコンティゆずりの本物指向であり、衣裳や小道具に至るまで、徹底したリアリズムを追求した。ゼッフィレッリは「全てが真実であるべきだ」と語っており、音楽とドラマを視覚的な美しさで見せることができる演出家と言われている。
新国立劇場の『アイーダ』では、本物のエジプトよりエジプトらしいと言われた豪華な舞台装置や、300人以上のエキストラを使い、絢爛な色彩あふれる舞台を創りあげた。傑作として名高い『ラ・ボエーム』の第2幕、パリ、カルチェ・ラタンの舞台は2階仕立てになっており、メトロポリタン歌劇場では幕が開くと盛大な拍手が起こる。ウィーン国立歌劇場でも、現在もこの演出を観ることができる。作品のテーマに沿ったオーソドックスな演出が基本で、本人は「作曲者の意図を正しく聴衆に伝えていくこと」が演出の鉄則だと語っている。
ゼッフィレッリ演出『ラ・ボエーム』
(ミラノ・スカラ座1988年日本公演より)
Photo: Ryu Yoshizawa
マリア・カラスとティート・ゴッビが共演した英国ロイヤル・オペラの『トスカ』(第2幕のみ、1964)も名演出として評価が高いが、二人の演技は表情もリアルで手に汗握るエキサイティングな場面が続く。また、カラスの衣裳にも装置にも、徹底したリアリズムが感じられる。ゼッフィレッリの名舞台はいまも世界の歌劇場で観ることができるが、スカラ座では3月に1963年に制作された『ラ・ボエーム』が上演され、夏のアレーナ・ディ・ヴェローナでは、3つの舞台『椿姫』『蝶々夫人』『カルメン』が再演される。そして今年の9月には、ローマ歌劇場の引っ越し公演で、ゼッフィレッリが2008年に同歌劇場のために演出した舞台が日本にやってくる!
ゼッフィレッリ演出『トスカ』
(ローマ歌劇場2008年公演より)
Photo: C. M. Falsini-Teatro dell'Opera di Roma
石戸谷結子(音楽評論家)