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Photo: Shoko Matsuhashi

2023/04/05(水)Vol.467

金森穣「かぐや姫」第2幕 世界初演
第2幕の物語のカギを握る影姫と帝
2023/04/05(水)
2023年04月05日号
バレエ
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東京バレエ団

Photo: Shoko Matsuhashi

金森穣「かぐや姫」第2幕 世界初演
第2幕の物語のカギを握る影姫と帝

ゴールデンウイークに開催される〈上野の森バレエホリデイ〉で、金森穣振付「かぐや姫」第2幕がいよいよお目見えします。舞台を宮廷に移して展開される今回、物語のカギを握るのが、宮廷に君臨する帝とその正式な妃である影姫(かげひめ)。彼らはどのような人物で、それをどうダンスで表現するのか──。ダンス評論家の上野房子さんの問いに、すでにリハーサルで影姫役を踊り込んでいる金子仁美と、帝役の本格的なリハーサルはこれからという池本祥真が答えます。

第2幕は3人の関係が見えてくる、緊張感に満ちた場面
愛って何だろう、愛を偽るって何?

東京バレエ団が〈世界に発信する日本のバレエ〉として取り組んでいる、金森穣の演出振付による「かぐや姫」。2021年11月に初演された第1幕に続き、第2幕が4月28日に初日の幕を上げようとしている。
月から遣わされた「かぐや姫」こと、謎の少女が山奥の村に暮らす純朴な翁のもとで美しく成長する様が描れた第1幕から一転、第2幕の舞台は、雅でありながら愛憎と権勢がうずまく宮廷。帝の側室(正妻ではない妻)となったかぐや姫が現れると、人々は好奇に満ちた視線を彼女に浴びせる──。
金子仁美が演じる「影姫」は、池本祥真が演じる「帝」の正室(正妻)。原典の「竹取物語」には登場しない、金森が独自に生み出したキャラクターだ。

金子: 帝に仕える女性達のトップの座にいる影姫は、大きな権力を握っています。4人の宮廷大臣を見下しているのに、彼らを利用する時には徹底的に利用する。とても気の強い女性に見えますが、帝を純粋に慕っている。それなのに、帝は自分の気持ちに応えてくれない。その寂しさを影姫は強さで隠しているのです。ところが、宮廷にかぐや姫が現れると、誰もが彼女に注目し、影姫はますます孤独になってしまう。

池本: 帝も、実は孤独な存在です。若くして宮廷の頂点に君臨し、廷臣や妻達を従えている。けれども、どこか頼りなく、自分が尊敬されていないことに気づいている。いま、金森さんが進めているリハーサルを見て、振付や音楽を吸収しています。金森さんとのリハーサルに臨む時に、自分で感じていることを一気に提示し、判断してもらおうと思っています。

金子: 影姫の役作りは、(金森)穣さんのなかで出来ている振付をダンサーが実際に踊って細部を確かめながら、彼女の真の姿を作り上げているところです。不可能!という振りもあります(笑)。ポアントで立ち、足裏のスナップが効かない状態で回転を入れる振付がとても難しい。場面によっては、宮廷大臣にサポートされたまま体を歪めたり、体の使い方がバレエとは全く違います。

池本: 僕達が経験したことのない動きが出てきたかと思うと、あれ、今のポーズ、東京バレエ団で上演しているベジャール作品風だな、と感じることも。金森さんと東京バレエ団は、モーリス・ベジャールという共通のバックグラウンドを持っているんですね。

第2幕リハーサルより
Photo: Shoko Matsuhashi

東京バレエ団は日本で唯一、ベジャール作品をレパートリーに持つバレエ団であり、金森はベジャールが創設したルードラ・ベジャール・ローザンヌの出身者だ。音楽を緻密に聞き取る「耳」は、同校卒業後に在籍したネザーランド・ダンス・シアター2の芸術監督だったイリ・キリアンの元で育んだのだろうか。第1幕同様、第2幕の音楽も、本作のために作曲されたのかと思えるほどに「かぐや姫」のドラマに合致したドビュッシーの楽曲で構成されている。

池本: 音楽自体が複雑で、カウントが5になったり12になったり、とても不規則です。さらにそれぞれのカウントに振りが入り、意味が込められているので、気を抜けません。

金子: 穣さんは楽譜を見ながら振付をしていくので、音楽との一体感がすごい。私達には聞こえない音、それこそ個々の音符にまで穣さんが耳を傾けていることに驚かされます。第1幕の冒頭で海から生まれる緑の精の群舞を踊った時は、ダンサーが波のようにタイミングをずらして動く振付があって、周りに合わせるのではなく、自分自身で正確に動くしかなかった。最初はカウント地獄でしたが(笑)、とにかく音楽を聴き込み、穣さんの音楽性になじんでいきました。

影姫役の金子仁美をはさんで両サイドは大臣(向かっ て左:池本祥真、右:宮川新大)
Photo: Shoko Matsuhashi

第2幕のドラマの要となるのは、かぐや姫と影姫、帝が踊るパ・ド・トロワ。触れ合いながらも、すれ違う三者の姿が描き出される。金森の構想では、かぐや姫と影姫は、この世にもたらされた光と、その光が生み出す影、という表裏一体の存在なのだという。

金子: 3人の関係が見えてくる、緊張感に満ちた場面です。かぐや姫の輝きが増せば増すほど、影姫の影が深くなり、彼女は孤独感をつのらせてしまう。愛って何だろう、愛を偽るって何だろう。3人の心の奥底を見つめていただきたいです。

池本: 一つずつの動きに意味があるんです。たとえば帝がかぐや姫の腕に触れる時、彼は何を感じていて、なぜ、そのように腕をつかんでいるのか。金森さんが振付に込めた思いを的確にひろい上げ、観客の方達に伝えなくてはならない。彼の頭の中では台本が出来上がっているようなのですが、ダンサーと一緒に模索している部分もある。この物語がどう展開していくのか、はやく自分の目で見たいです!

第2幕リハーサルより
Photo: Shoko Matsuhashi

第2幕が初演される4月の公演では、ジェローム・ロビンズ振付『イン・ザ・ナイト』とジョン・ノイマイヤー振付『スプリング・アンド・フォール』が併せて上演され、金子は前者に、池本は後者に出演予定だ。全くスタイルの違う作品を踊り分ける秘策はあるのだろうか。

金子: 以前からお世話になっているトレーナーのスタジオでピラティス(ストレッチや筋力強化を組み合わせたコンディショニング)をやっているんですよ。現代的な作品のリハーサルに集中していると、体の軸が片寄ったり歪んでしまうことがあるので、ピラティスで体を整え、体幹を鍛えるようにしています。

池本: 僕は車やバイクでドライブするのが好きなんです。バイクは小林十市さんが乗っている400ccのヤマハに憧れて、同じ機種を買いました。十市さんが指導にいらした時は、よくバイク談義をします。もちろん、リハーサル以外の時間にですよ(笑)

ピラティスとバイクで心身を整えた金子と池本がどのような物語を紡ぎ出すのか、開幕を待ちたい。

取材・文 上野房子 ダンス評論家

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金森 穣 「かぐや姫」第2幕 世界初演
ジェローム・ロビンズ 「イン・ザ・ナイト」
ジョン・ノイマイヤー 「スプリング・アンド・フォール」

公演日

2023年
4月28日(金)19:00
4月29日(土・祝)14:00
4月30日(日)15:00

会場:東京文化会館(上野)

入場料[税込]

S=¥13,000 A=¥11,000 B=¥9,000
C=¥7,000 D=¥5,000 E=¥3,000
U25シート=¥1,500
*ペア割引あり[S,A,B席]