NBS News Web Magazine
毎月第1水曜日と第3水曜日更新
NBS日本舞台芸術振興会
毎月第1水曜日と第3水曜日更新
Photo: F Ohringer

2023/04/19(水)Vol.468

「イン・ザ・ナイト」振付のロビンズは
アカデミー賞受賞のマルチな天才
2023/04/19(水)
2023年04月19日号
TOPニュース
バレエ

Photo: F Ohringer

「イン・ザ・ナイト」振付のロビンズは
アカデミー賞受賞のマルチな天才

ゴールデンウイークの〈上野の森バレエホリデイ〉で上演される「イン・ザ・ナイト」の振付家ジェローム・ロビンズは、ミュージカル映画「ウエスト・サイド物語」の監督と同一人物。アカデミー賞を受賞し「ロビンズ帝国に陽は沈まぬ」とまで称えられた天才ロビンズのバレエの魅力とは?

最良の踊り巧者が必要不可欠なロビンズ作品。 簡潔にして芳醇なアブストラクト・バレエを完結させるのは、1人ひとりの観客なのです。

ジェローム・ロビンズ(1918〜1998)は、ジョージ・バランシン(1904〜1983)と共に20世紀アメリカのバレエの屋台骨を支え、バランシンに彼こそが〈天才〉であると言わしめた振付家です。バランシンもまた〈天才〉の呼称に相応しいという異論はさておき、ロビンズは、振付デビュー作となったバレエはもとより、数々のミュージカルをブロードウェイ(舞台)とハリウッド(映画)で振付け、一部の作品の演出・監督を自ら手がけ、ロバート・ワイズと共同監督した映画版「ウエスト・サイド物語」でアカデミー賞最優秀監督賞を獲得した、マルチな才能の持ち主でした。

ロビンズの大ヒット・ミュージカルが世界各地で巡演されていたことから、「太陽の沈まぬ国」こと、世界各地に領土を持ち、繁栄を誇った大英帝国になぞらえて、「ロビンズ帝国に陽は沈まぬ」と称えられたこともありました。不朽のミュージカル「ウエスト・サイド物語」「屋根の上のヴァイオリン弾き」は、いったい幾度、世界を巡ったことでしょう。一連の作品、あるいはドラマと不可分のスリリングなダンスシーンは、国境と時代を超えた数多の人々の脳裏に刻み込まれ、彼らの人生の一コマになっているといっても過言ではありません。

多彩な作品を手がけたとはいえ、彼のキャリアの根幹にあったのはバレエにほかならず、1944年に処女作を発表してから1998年に他界する直前まで、彼は途切れることなくバレエを作り続けていました。

バレエ振付家としてのロビンズの真骨頂は、簡潔でありながら芳醇なアブストラクト仕立ての作品に見ることができます。大半の作品は、具象的なプロットを持たず、古典バレエのパ・ド・ドゥのように技巧を誇示する様式的な場面もありません。一見すると、シンプルなステップを連ねているようなのですが、卓越したダンサーを得た時、そこから豊かな情感が溢れ出し、観客の琴線に触れるのです。

沖香菜子、秋元康臣(2018年公演より)
Photo: Kiyonori Hasegawa

ダンサーにしてみると、このようなロビンズ流アブストラクト・バレエは、簡潔であるがゆえの難しさを伴います。特定のプロットや役柄がないために生じる若干の余白を、自分ならではの個性と振付の機微を踊りあげる知性、音楽的センスで補わなくてはなりません。すなわちロビンズ作品には、最良の踊り巧者が必要不可欠なのです。

秋山瑛、宮川新大(2018年公演より)
Photo: Kiyonori Hasegawa

ちなみにロビンズの永年の仕事場だったニューヨーク・シティ・バレエでは、そのシーズンの配役を決めるにあたり、まずロビンズが出演者を選んでから、バランシン----同団の主任バレエマスター(芸術監督)で、言うなればロビンズの上司----が自作の配役を決めていたそうです。ロビンズの完全主義者ぶりと、バランシンがロビンズの才能を高く評価していたことを今に伝えるエピソードです。

上野水香、柄本弾(2018年公演より)
Photo: Kiyonori Hasegawa

〈上野の森バレエホリデイ2023〉で5年ぶりに上演される『イン・ザ・ナイト』も、ロビンズらしさ満載の作品です。音楽はフレデリック・ショパンのノクターン4曲(Op.27-1、Op.55-1, 2、Op.9-2)、演奏はステージ上に置かれた一台のピアノ、舞台美術の類は用いられず、月明かりを思わせる照明の下で踊るのは、3組の男女。

簡潔なロビンズ作品のなかでもとりわけ簡潔なしつらえながら、3組3様のデュエットからは、それぞれの男女の心模様が浮かび上がってきます。初々しい情熱、別離を予感させる抱擁、移ろう恋慕の念......。

耳慣れたショパンのノクターン、それも他のバレエに用いられている有名曲が連なっているため、舞台上の情景は、見る者の想像力を刺激せずにはおきません。フォーキン の『レ・シルフィード』に通じる幻想性が想起されるかもしれません。ロビンズとショパンの共通のルーツであるポーランドへの郷愁を感じることになるかもしれませんし、観客自身のロマンスのひとこまが蘇ってくるかもしれません。

この簡潔にして芳醇なアブストラクト・バレエを完結させるのは、1人ひとりの観客なのです。

「イン・ザ・ナイト」(2017年公演より)
Photo: Kiyonori Hasegawa

上野房子 ダンス評論家

公式サイトへ チケット購入

金森 穣 「かぐや姫」第2幕 世界初演
ジェローム・ロビンズ 「イン・ザ・ナイト」
ジョン・ノイマイヤー 「スプリング・アンド・フォール」

公演日

2023年
4月28日(金)19:00
4月29日(土・祝)14:00
4月30日(日)15:00

会場:東京文化会館(上野)

「イン・ザ・ナイト」
振付:ジェローム・ロビンズ
音楽:フレデリック・ショパン
[予定される出演者]
中島映理子 ― 宮川新大(4/28)/
秋山瑛 ― 秋元康臣(4/29、4/30)
金子仁美 ― 安村圭太(4/28)/
中川美雪 ― ブラウリオ・アルバレス(4/29、4/30)
上野水香(4/28)/ 平木菜子(4/29、4/30)― 柄本弾

入場料[税込]

S=¥13,000 A=¥11,000 B=¥9,000
C=¥7,000 D=¥5,000 E=¥3,000
U25シート=¥1,500
*ペア割引あり[S,A,B席]