日本では新年度が始まる4月、欧米の歌劇場では今年秋から来年秋までの2023/2024シーズンのスケジュールが発表される時期でもあります。劇場閉鎖や相次ぐ公演中止などが続いたコロナ禍では公演スケジュールにも大きな影響が続きました。ようやく今年は"通常"に戻ったよう。続々と発表される各劇場のシーズンスケジュールを紹介するヘッドライン(見出し)には、目玉となる出演歌手の名前が挙げられるのですが、今回はリセット・オロペサの名があちこちに! 昨年秋には〈旬の名歌手シリーズ〉で初来日を果たしましたが、文字通り世界中がオロペサの"旬"を認めているということでしょう。ここでは、ローマ歌劇場日本公演で演じる『椿姫』について、彼女の言葉をご紹介します。
最初はフルートをやりたかったというリセット・オロペサの特別な才能に最も早く気づいたのは母親だったとのこと。
「母が歌手だったので、ちがうことをやりたかったというのもあったんですね。でもいまでは母の勧めに従ってよかったと思っています。MET(メトロポリタン歌劇場)のオーディションを受けたときも、自分では優勝するとは思っていなくて。一度やってみよう、というくらいの感じでした。ダメだったらまた受ければいい、くらいの気持ちでね。でも私のなかに見つけてもらえるものがあって、21歳から3年間、ヤング・アーティスト・プログラムに参加しました」
Photo: Jason Homa
オロペサ一家は、キューバからアメリカへと移りました。お母様はアメリカでも舞台に立ちましたが、3人の子どものために教師になったのだそう。
「自分が歌手としてやっていくなかで、母からの影響が大きいと感じることはあります。特に感情表現の面でね。小さいときに母のヴィオレッタを観たときには、意味がよくわからなくて、最後の死んでしまうところでとても悲しくなってしまったのを覚えています。ただ、歌の勉強を始めたときには、まずはその幼い頃に受けた感情を取り除いて学ばなければならなくて、それが難しい時期がありました。『椿姫』のヴィオレッタは、私が観た最初のオペラという点でも、特別な役といえます」
マリオ・マルトーネ演出『椿姫』リハーサルより
Photo: Fabrizio Sansoni (写真提供:ローマ歌劇場)
母親からの影響を感じながら、オロペサは自身のヴィオレッタ像をつくりあげてきました。
「『椿姫』の本を読んだときには、とても落ち込みました。最後には一人で死んでいくんです。でもオペラでは死ぬ前に彼と会える。オペラでも悲壮感はあるけれど、原作に比べたら落ち込み度は少ない。本を読んでみると、オペラはそこまでひどくないと感じました(笑)。
私は、ヴィオレッタはとても現実的なキャラクターだと思っています。彼女は恋のない世界にプロフェッショナルとして生きていました。それがある意味で成長していく、つまり愛を得るわけですが、その結果として、お金もなく孤独で病に冒されます。もしかしたら、愛を選ばなければ大金を稼げたかもしれない......。
ヴィオレッタをかわいそうな人という見方をする人もいますが、本当は繊細で、そして強い女性だと思います。彼女がアルフレードとの愛を選んだのは、自分の病のこともあり、人生は短いことに気づき、愛する機会があるなら、と考えたから。彼の父親から別れを求められたときに身を引くことを決めたのも彼女自身なのです。それだけに、愛する人から理解されないまま金を叩きつけられるシーンは本当に屈辱的で悲しい。
私が演じるヴィオレッタは、かわいそうな人ではなく、たとえ死ぬときであっても秘めた感情を表には表さない強さをもっていたい。原作とオペラに共通しているところに、彼女は内面を見せないというところがあると思うんです。自分の心をあらわにするのは自分一人のときだけ。それでよいのだと思っている人なんです。最期のときにやってきたお医者さんに冗談を言ったり、大丈夫よ、と言ったりしますよね。そのうちに、原作に近いかたちで、最後までアルフレードが戻って来ないという演出がつくられるのも面白いかも(笑)?」
取材をした時点では、ソフィア・コッポラ演出の『椿姫』についてはまだ詳しくは知らなかったオロペサですが、ヴィオレッタのキャラクターを"強い女性"と考えていることは、自分の意志で生きたヴィオレッタを描こうとするコッポラの視点にぴったり通じるといえます。オロペサの演じるヴィオレッタは、演出家の意図を存分に汲んだものとなるにちがいありません。
指揮:ミケーレ・マリオッティ
演出:ソフィア・コッポラ
9月13日(水)15:00 東京文化会館(上野)
9月16日(土)15:00 東京文化会館(上野)
9月18日(月・祝)15:00 東京文化会館(上野)
[予定される主な出演者]
アルフレード:フランチェスコ・メーリ
ヴィオレッタ:リセット・オロペサ
ジェルモン:アマルトゥブシン・エンクバート
指揮:ミケーレ・マリオッティ
演出:フランコ・ゼッフィレッリ
9月17日(日)15:00 神奈川県民ホール(横浜)
9月21日(木)15:00 東京文化会館(上野)
9月24日(日)15:00 東京文化会館(上野)
9月26日(火)15:00 東京文化会館(上野)
[予定される主な出演者]
カヴァラドッシ:ヴィットリオ・グリゴーロ
トスカ:ソニア・ヨンチェヴァ
スカルピア:ロマン・ブルデンコ
S=¥59,000 A=¥52,000 B=¥45,000
C=¥37,000 D=¥30,000 E=¥20,000
U29シート=¥8,000
U39シート=¥15,000
※U39シートは9/13(水)「椿姫」、9/21(木)「トスカ」限定での販売となります。
ローマ歌劇場2023年日本公演公式サイト
https://www.nbs.or.jp/stages/2023/roma/index.html