ロマンティック・バレエの最高傑作『ジゼル』。東京バレエ団では1966年の初演以降、数多く上演してきた十八番ともいえる演目です。その美しいバレエ・ブラン(白のバレエ)のコール・ド・バレエは比類なき完成度で、同バレエ団ならではの見どころのひとつでもあります。5月に東京公演、7月には実に4年ぶりとなる海外公演が、初のオーストラリア公演で予定されています。今回初めてタイトル・ロールのジゼル役に臨む足立真里亜に、役作りや作品への思い、意気込みをライターの鈴木啓子さんがインタビュー。
――『ジゼル』全2幕でタイトル・ロールのジゼル役を初めて踊られます。今のお気持ちをお聞かせください。
足立真里亜:ジゼルは自分とはかけ離れているキャラクターだと思っていたので、とても驚いています。私はどちらかというと、ハツラツとしていてやや幼さが残るようなキューピッド(『ドン・キホーテ』)やかぐや姫のような"陽"の要素が強めなタイプ。一方、ジゼルは生まれつき体が弱く、感情の湿度はわりと高め、雰囲気はしっとりしていて重みがある......と"陰"の要素が強いイメージです。自分とかけ離れた役を踊るのは初めてなので、怖くもあり、楽しみでもあります。
――タイプが違うということですが、ジゼルに共感する部分はありますか?
足立:ありますね。第1幕のジゼルは、母親、アルブレヒト、ヒラリオン......周りの人たちから多くの愛情を注いでもらっているのに、さらに愛を欲しているように見えます。実は私も常に愛をたくさんもらっていたいタイプ(笑)。そこが共通している部分だと思います。ただ、第2幕になると、ジゼルは人に愛を与えること、人を許すことを知り、それが本物の愛だということに気づきます。愛されることを求めているうちは相手の反応で一喜一憂し、心が不安定になりがちですが、与える愛なら、たとえ相手に伝わらなくても、受け取ってもらえなかったとしても揺るぎませんよね。それに早く気づいていれば、悲劇は起こらなかったわけですが......。作品では恋人との関係で描かれていますが、家族、友人、指導者と指導される側など、人と関わる以上、与える・与えられるという関係が存在します。今の私にはこの"与える"が不足しているので、踊っていく中で変わっていけたらいいですね。
リハーサル中の足立真里亜と宮川新大
Photo: Kojiro Yoshikawa
――アルブレヒト役の宮川新大さんとは初共演ですね。
足立:同じ年に入団したのですが、これまで一度も組んだことがなかったんです。今は4月28日〜30日上演の『かぐや姫』第2幕ほか2作品のリハーサルを行っているので、その合間を縫って昨日から二人で合わせ始めたのですが、初日から咄嗟に私のクセや重心のズレなどを見抜いてサポートしてくださり、とにかくすごいんです! また、「真里亜はこうしてみて。僕もこうするから」と歩み寄って丁寧にディスカッションをしてくださるので安心感がありますし、とても心強いですね。
――役作りはどのように?
足立:事実としてあるものは予め具体的にイメージするようにしています。例えば、お花が好きで、好きな色は青と白、食べ物は甘い物が好きで、辛い物とか苦い物はあまり好きじゃない......というように。内面的な部分に関しては、日頃から友佳理さん(芸術監督の齋藤友佳理)から「キャラクターの内面的な部分は自分で決めなさい」と言われているので、自分が考えるジゼルとはどんな人なのか、ジゼルはこういう時にどう思うのか、ということを考え抜きたいです。そのうえで、自然と湧き出てくる感情に委ねて演じていけたら。その時々の各自のリアクションによって微妙にニュアンスや関係性が変わってきますし、リハーサルと本番では感情も踊り方も違い、1公演たりとも同じものはないので、キャラクターの核となる部分はしっかり持ちつつ、その瞬間その瞬間を生きていきたいです。
リハーサル中の足立真里亜
Photo: Kojiro Yoshikawa
――『ジゼル』の見どころを教えてください。
足立:まずは第2幕の群舞です。入団してからコール・ドの期間が長かったので、コール・ドとしてのプライドもあるのですが(笑)、東京バレエ団ならではの見せ場だと思います。ピシッと揃っているからこそ生まれる緊張感、それによってウィリたちの冷たさや怖さが際立つので、圧倒されます。また、第1幕と第2幕の温度差にも注目すると面白いですね。第1幕の村人たちのこぼれるような笑顔、木々の揺らめき、風のざわめき......といった"生"を感じながら幕が下りたあと、再び幕が上がった途端に広がるあの冷たい空気感。これは『ジゼル』ならではです。そして、その温度差によって浮かび上がる生と死、さらに第2幕の冷たい世界の中で儚く灯るジゼルのアルブレヒトへの愛、ここは必見です!
第2幕の群舞
Photo: Kiyonori Hasegawa
――最後に意気込みをお聞かせください。
足立:友佳理さんからは「(ジゼルは)今あなたがチャレンジしなければいけない、取り組まなければいけない役」と言われています。与えられる人から与える人になりなさい、という意味だと自分なりに解釈しています。私はこれまで与えられたものをコツコツとこなすことが多く、自ら何かをやりたいと主張したことも切望したこともほとんどなかったんです。でも、受け身のままではジゼルを演じることはできません。なぜなら、ジゼルが"与える人"だから。この役を通して自ら与えられる人に少しでも近づきたい。そこに辿り着けたら、ダンサーとしてだけでなく、人としても成長できる気がします。
取材・文:鈴木啓子 編集・ライター
5月19日(金)19:00
5月20日(土)14:00
5月21日(日)14:00
会場:東京文化会館(上野)
S=¥13,000 A=¥11,000 B=¥9,000
C=¥7,000 D=¥5,000 E=¥3,000
U25シート=¥1,500
*ペア割引[S,A,B席]あり
*親子割引[S,A,B席]あり
指揮:ベンジャミン・ポープ
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
[予定される出演者]
ジゼル:秋山瑛(5/19)、中島映理子(5/20)、足立真里亜(5/21)
アルブレヒト:秋元康臣(5/19)、柄本弾(5/20)、宮川新大(5/21)