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『ジゼル』Photo: Kiyonori Hasegawa

2023/05/17(水)Vol.470

『ジゼル』の作曲者アダンってどんな人?
2023/05/17(水)
2023年05月17日号
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バレエ

『ジゼル』Photo: Kiyonori Hasegawa

『ジゼル』の作曲者アダンってどんな人?

今日もっとも人気の高いロマンティック・バレエの名作『ジゼル』。無垢な少女の純愛と絶望、そして死んで妖精ウィリとなってからも瀕死の恋人アルブレヒトを守ろうとする姿勢は、まさにいまのアニメ世代に共感するストーリーかもしれません。今回はこの『ジゼル』(や『海賊』)の音楽を書いたアドルフ・アダンについてご紹介します。

アダンの人と生涯

アドルフ・アダン(Adolphe Adam 1803〜1856)はフランス出身、パリで活躍した作曲家。世代的には「幻想交響曲」で知られるエクトール・ベルリオーズ(1803~1869)とほぼ同じですね。父親ルイ・アダン(1758~1848)も当時有名な音楽家でパリ音楽院の教授を務めていました(後にアドルフも同じく作曲科の教授のポストに就任します)。アドルフは早くからピアノ演奏や作曲の才能を発揮し、パリ音楽院で学んでからは舞台音楽の創作に意欲をもやすところとなり、オペラ作品やバレエ曲で高い評価を獲得しました。音楽評論家としても活動したところもユニークです。資料によればオペラは30作以上(!)、バレエ曲も多数残っており、当時の彼の人気ぶりがうかがえます。

あのクリスマス・ソングもアダンの作!?

12月に入ると日本でもクリスマスにちなむ讃美歌や宗教曲があちこちで聴かれますが、なかでも有名な「聖らに星澄む今宵」(『聖夜』 Cantique de Noel)も実はアダンの作です。おだやかで柔らかな旋律はクリスマス・イブにふさわしい清らかさを湛えています。今日まで彼の最大のヒット作はこの「聖夜」かもしれません。

「聖らに星澄む今宵」をお聴きいただけます。

*「音楽を聴く」ボタンをクリックしていただくと、ナクソス・ミュージックのページに移動しますので、画面左側にある「選択曲を試聴」をクリックしてください。無料試聴時間を超えた場合には、一度ブラウザを終了し、再度開いていただくことで新たな無料視聴時間が開始します。

アダンが『ジゼル』で見せた見事な手法

さて、ここで『ジゼル』に付けられた音楽について触れてみたいと思います。まず特徴的なのは、登場人物を表すような旋律がところどころで用いられていて、全曲を通じドラマ性の強い音楽となっています。チャイコフスキーの遠い源泉と言えるかもしれません。導入部をはじめとして、全2幕(原曲は全21のナンバーから構成されます)を通じて、使われるロマンティックな旋律や和声は奇をてらわずシチュエーションを把握しやすく書かれています。とくにジゼルのアルブレヒトへのときめきと激しい失望、第1幕ラストの狂乱と死の場面などでの緊迫感はまるでオペラを思わせるかのように巧みな筆致で描かれます。オーケストラの編成も大きく金管楽器や打楽器、さらに弦楽器の雄弁な動き(とくにクライマックスでの低弦など)が色彩感を高め、観るもの聴くものの興奮を高めます。

第1幕「農民のパ・ド・ドゥ」は誰の曲?

さきほどアダンの『ジゼル』は全21のナンバーと書きましたが、第1幕の最初に置かれた「農民のパ・ド・ドゥ」は、ピアノ練習曲で有名なヨハン・ブルクミュラー(1806~1874)のものだということが分かっています。ブルクミュラーはドイツの作曲家ですが、1872年から活動の拠点をパリに移し、そこでバレエ音楽にも取り組んでいました。「マリウス・プティパ」財団(THE・MARIUS・PETIPA・SOCIETY)の論文によると、バレエの初演(1841年)の際、出演を希望した踊り手ナタリー・フィルツ・ジェームズがアダンに自分のパ・ド・ドゥを新たに入れるよう要求したのですが、作曲者は時間的余裕がなかったため、ブルクミュラーの作品が用いられたとあります。

ブルクミュラーの作品が用いられた
第1幕「農民のパ・ド・ドゥ」のアダジオをお聴きいただけます。

*「音楽を聴く」ボタンをクリックしていただくと、ナクソス・ミュージックのページに移動しますので、画面左側にある「選択曲を試聴」をクリックしてください。無料試聴時間を超えた場合には、一度ブラウザを終了し、再度開いていただくことで新たな無料視聴時間が開始します。

歌劇場も設立したアダン

舞台音楽で成功したアダンですが、その他に大きな功績としてはパリで3つ目の歌劇場となる「テアトル・ナショナル座 Opéra national」(1847~1848)」 の創設も。オペラ座と対立し袂を分かつこととなったアダンは、自費を投じて新しいオペラハウスの建設を決行したのです。不運にも1848年の革命の影響でホールは閉鎖され膨大な借金を自身でかかえこむことになりますが、アダンの気概を感じさせるエピソードです。アダンによる劇場は現存していません。ルートヴィヒ2世を利用したワーグナーのように成功しなかったのは残念ですが。

城間 勉(音楽ライター)

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東京バレエ団
「ジゼル」全2幕

公演日

5月19日(金)19:00
5月20日(土)14:00
5月21日(日)14:00

会場:東京文化会館(上野)

入場料[税込]

S=¥13,000 A=¥11,000 B=¥9,000
C=¥7,000 D=¥5,000 E=¥3,000
U25シート=¥1,500
*ペア割引[S,A,B席]あり
*親子割引[S,A,B席]あり

指揮:ベンジャミン・ポープ
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

[予定される出演者]
ジゼル:秋山瑛(5/19)、中島映理子(5/20)、足立真里亜(5/21)
アルブレヒト:秋元康臣(5/19)、柄本弾(5/20)、宮川新大(5/21)