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最終公演カーテンコール <br>Photo: Ayano Tomozawa

2023/08/02(水)Vol.475

東京バレエ団 メルボルン公演
第35次海外ツアーレポート
2023/08/02(水)
2023年08月02日号
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バレエ
東京バレエ団

最終公演カーテンコール
Photo: Ayano Tomozawa

東京バレエ団 メルボルン公演
第35次海外ツアーレポート

7月14日(金)から7月22日(土)にかけて行われた東京バレエ団の第35次海外公演は、絶賛の舞台評を得た"オーストラリア・デビュー"となりました。公演の合間をぬっての団員たちの声や現地の様子など、シドニー在住のアーツライター岸夕夏さんのレポートでご紹介します。

初のオーストラリア上陸 熱い喝采が湧いた連日満席の11公演

夜になると、ヤラ川の川沿いのビル群から零れ落ちるライトが、水面にキラキラと反射する。19世紀半ばに建てられたフリンダース・ストリート駅の対岸には、青色にライトアップされた円筒形のコンサートホールがあり、芝生を挟んで、屋根の上に尖塔をのせたホールが立つ。これが東京バレエ団『ジゼル』を上演するメルボルン州立劇場だ。すぐ隣には、がっしりとした四角い形のビクトリア国立美術館。メルボルンを訪れるたびに思う。あ〜この街の住民はアートを愛しているのだと。開演前のホワイエに集う着飾った人々の賑わいから、オーストラリア・デビュー公演への高い期待と好奇心を肌で感じた。

劇場前に掲示された東京バレエ団「ジゼル」公演のポスター
Photo: NBS

創設者佐々木忠次の時代から、オーストラリア公演の案は幾度も浮上したが、いつの間にかたち消えていた。そして遂に、全11回のオーストラリア公演が実現した。初日公演翌日のインタビューで、芸術監督斎藤友佳理が最初に発した言葉は、「本当に来て良かった! ダンサーやスタッフの皆がそう思っています。舞台上だけでなく、オーストラリアに着いてからずっと関わった方々皆さまの思いやりを感じていて、感謝の気持ちは踊りで返したいと思いました。今回はコロナ禍を耐え抜いたあとの象徴のような公演になると感じています」。

オーストラリア・バレエ団のデヴィッド・ホールバーグ芸術監督は、同団の創立60周年を祝う今年のシーズンプログラムにこう記した。「世界的なバレエ団をオーストラリアに招聘する伝統の一環として、東京バレエ団をお迎えします」。

レセプションより スピーチするデヴィッド・ホールバーグ(オーストラリア・バレエ団芸術監督)
Photo: Ayano Tomozawa
斎藤友佳理(東京バレエ団芸術監督)とデヴィッド・ホールバーグ(オーストラリア・バレエ団芸術監督)
Photo: Ayano Tomozawa

オーストラリア・バレエ団の定期会員は2万人ほどと言われ、年間公演数は世界トップクラスで、およそ200回。オーストラリアの国民皆がスポーツに親しむように、舞台芸術を愛し、楽しむ姿は日常的な光景だ。

初日は大成功だった。幕が閉じても観客の熱気は静まる気配がない。
終演後、公演プログラムを見ながら熱心に話し込んでいる、7歳の女の子と母親に感想を聞いた。「(特に収穫祭の踊りのパ・ド・ユイットで)私たち(オーストラリア人は)あまりにストレートに拍手しすぎちゃって、ちょっと恥ずかしいくらい」。
「第1幕が好き、物語がちゃんとわかった。舞台をトントンとステップで横切るところ」女の子は今見たばかりの舞台を、私にもっと話したくてたまらないようだ。
バレエ鑑賞常連らしき3人組の女性は、興奮覚めやらずの様子で「エレガント!」「息が止まるようだった!」「古典バレエはこうあるべき!」。

賛辞を惜しまぬ評が、初日翌日に地元紙及び地元Web媒体に掲載された。
「群舞が織りなす線と模様は見るものに深い満足感を与え、この演出の芸術的な美しさは言葉では表現できない」(クラシック・メルボルン)、「近い将来、次のオーストラリア公演を願ってやまない」(マン・イン・チェア)

公演の翌日、斎藤芸術監督、バレエ・ミストレスの佐野志織、主演を務めた秋山瑛、秋元康臣、ミルタ役の伝田陽美に感想を尋ねると、皆一様に観客の温かな雰囲気を感じたという。個々の感想では
「コール・ド・バレエに対してあそこまで反応してくれる観客もめずらしい。惜しみない拍手と声援に感動しました」(斎藤友佳理)
「到着後まもなくオーストラリア・バレエ団との合同クラスがありましたが、互いにリスペクトをしながら良いものを吸収しようとする前向きな空気を感じました。ホールバーグさんの、カンパニー全体でもてなそうという心遣いを嬉しく感じましたし、オーストラリア・バレエ団のダンサーの佇まいも団員たちの刺激になったようです」(佐野志織)
「最初は楽しんでくれるのか不安な気持ちもあったのですが、お客さまの反応がとても素直で、どよめいたり笑ってくれたり息を呑む空気が伝わってきたり、ジゼルの物語の中に没入してくれているような気がして、踊っていてとても楽しかったです。
オーストラリアバレエ団の先生やダンサーの皆さんとも一緒に何度もクラスしたりお話することができて、たくさん刺激とインスピレーションをもらいました」(秋山瑛)

初日カーテンコール 秋山瑛、秋元康臣
Photo: Ayano Tomozawa

「憧れのダンサーの一人でもあるホールバーグさんが見ているゲネプロでは、最初は緊張しました。4回踊るので、冷静に舞台を実感して踊れるのが楽しみです」(秋元康臣)
「観客の方々の雄叫びのような声援と、ホールバーグさんからの"よかった!"というコメントが嬉しかったですね」(伝田陽美)

リハーサルより 中島映理子 
Photo: Ayano Tomozawa

鳴り止まない拍手喝采、度重なるカーテンコール。1878席の劇場は連日ほぼ満席の観客で埋まった。東京バレエ団の海外ツアー33番目の訪問国で、輝かしい記録がまた更新された。

7月22日の最終公演後、佐野志織(手前)、ホールバーグ、ダンサーたち。
Photo: Ayano Tomozawa
足立真里亜、宮川新大
Photo: Ayano Tomozawa

取材・文:岸 夕夏(在シドニー アーツライター)