コロナ禍を経て、4年ぶりの本格的な海外オペラの引越し公演実現となったローマ歌劇場日本公演。9月13日『椿姫』の初日は平日の午後3時開演にもかかわらず、多くの聴衆が会場を埋め尽くしました。開演前や休憩時間に談笑が交わされるホワイエの華やかさは、今回のローマ歌劇場日本公演が日本のオペラ・ファンにどれほど切望されていたかをあらわすものだったでしょう。
さて、今回はまだこれから東京公演が開催される『トスカ』について、ちょっと変わった視点からのご紹介をしてみます。
『トスカ』が、1900年に現在のローマ歌劇場の前身の劇場で初演されたことは広く知られていますが、実は今回の上演では、この初演の際に使われたある楽器が使われているのです。歴史ある歌劇場には、さまざまな"遺産"が残されているものですが、ただ保存されているだけでなく、123年が経ついまも"現役"というのは珍しいかもしれません。その楽器とは、チューブラー・ベルという打楽器。「チャイム」と呼ばれることも多く、日本ではNHKのど自慢で鳴らされている鐘というと馴染み深いでしょう。
ただし、のど自慢で鳴らされる鐘と『トスカ』で響く音色は似て非なるもの。もともとチューブラーベルは、教会の鐘の音を再現するためにつくられました。教会で鳴らされる鐘のひとつひとつを管状(チューブラー)にしてピアノの鍵盤の順番と同様に並べて吊るした楽器です。管状の鐘が初めてパリに登場したのは1860年から1870年の間だったと言われ、1886年にはチューブラー・ベルを使ったオーケストラの楽曲を作曲した最初の作曲家もいたと考えられているそうです。オペラにおいて、この管状の鐘を早くから用いたことが挙げられる作品の一つが、プッチーニの『トスカ』(1900年)です。
スタンドとなる枠に、管状の鐘が吊り下げられる。上演には複数のチューブラーベルが用いられる。写真の楽器は、上部の白い皮の上からハンマーで打つ仕組みのもの。
『トスカ』で教会の鐘の音が響くのは、第1幕の壮麗な「テ・デウム」の場面と、第3幕でカヴァラドッシの処刑を前にした夜明けの場面です。「テ・デウム」では、邪悪なスカルピアの独白と神を賛美する清廉な合唱のテンションが高まるなかで鐘の音と大砲が響き、ドラマを盛り上げます。第3幕では、純粋無垢な羊飼いの歌声とともに夜明け前に打ち鳴らされる教会の鐘の音が響きます。オペラ・ファンといえども、この場面の鐘の音に強い関心を持って聴いたことがある人は多くはないでしょう。でも、今回のローマ歌劇場日本公演の『トスカ』では、ここに響くのが1900年の初演と同じ楽器の音だと知ったらどうでしょう? さらに加えてご紹介するべきは、この鐘の音に関して、指揮者マリオッティがリハーサルの最後の最後までこだわりをみせていたということ。プッチーニは、非常に綿密にアーティキュレーションの指示を楽譜に書き込んだことがわかっています。マリオッティもまた、細かい点に気を配り、丁寧な音楽づくりをする指揮者です。マリオッティのこだわりは、初演の際のプッチーニの思いを再現するため、といえるのではないでしょうか。
セッティング当初のころのリハーサルから。
指揮:ミケーレ・マリオッティ
演出:ソフィア・コッポラ
9月13日(水)15:00 東京文化会館(上野)
9月16日(土)15:00 東京文化会館(上野)
9月18日(月・祝)15:00 東京文化会館(上野)
[予定される主な出演者]
アルフレード:フランチェスコ・メーリ
ヴィオレッタ:リセット・オロペサ
ジェルモン:アマルトゥブシン・エンクバート
指揮:ミケーレ・マリオッティ
演出:フランコ・ゼッフィレッリ
9月17日(日)15:00 神奈川県民ホール(横浜)
9月21日(木)15:00 東京文化会館(上野)
9月24日(日)15:00 東京文化会館(上野)
9月26日(火)15:00 東京文化会館(上野)
[予定される主な出演者]
カヴァラドッシ:ヴィットリオ・グリゴーロ
トスカ:ソニア・ヨンチェヴァ
スカルピア:ロマン・ブルデンコ
S=¥59,000 A=¥52,000 B=¥45,000
C=¥37,000 D=¥30,000 E=¥20,000
U29シート=¥8,000
U39シート=¥15,000
※U39シートは9/13(水)「椿姫」、9/21(木)「トスカ」限定での販売となります。
ローマ歌劇場2023年日本公演公式サイト
https://www.nbs.or.jp/stages/2023/roma/index.html