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Photo:  Rosellina Garbo

2023/10/04(水)Vol.479

ローマ歌劇場総裁 フランチェスコ・ジャンブローネが語る、
次世代への継承とオペラの未来
2023/10/04(水)
2023年10月04日号
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Photo: Rosellina Garbo

ローマ歌劇場総裁 フランチェスコ・ジャンブローネが語る、
次世代への継承とオペラの未来

コロナ禍により4年ぶりに実現したオペラの引っ越し公演、ローマ歌劇場日本公演。ヴェルディの『椿姫』、プッチーニの『トスカ』を引っ提げての公演は大きな注目を集め、東京と横浜での7公演は盛況のうちに幕を閉じた。4年ぶりのオペラ公演で気になったのが、観客の高齢化がいっそう進んでいること。では、オペラ発祥の国、イタリアではどうなのか。ローマ歌劇場総裁フランチェスコ・ジャンブローネは、フィレンツェ歌劇場総裁やパレルモのマッシモ歌劇場総裁も歴任、2022年10月からイタリア舞台芸術協会の会長も務めている。豊富な経験と実績をもつジャンブローネ氏に、オペラを次世代に継承する取り組みについて聞いた。

観客の高齢化は世界的な問題
「 市町村などの地方の自治体はもちろん、国全体で多くの人たちが興味を持てるように普及させていくことがとても大事だと考えています」

――日本では、オペラ、バレエ、クラシックにおける観客の高齢化が進んでいて、特にオペラとクラシックは顕著です。イタリアの実情はどうですか。

フランチェスコ・ジャンブローネ:観客の高齢化はイタリアも例外ではありません。さらに世界的な問題だととらえていて、私たちはその問題に取り組んでいく必要があります。
ただ、イタリアはいま少しずつ変わってきています。幅広い年齢層の人に観に来ていただくために、例えば、お孫さんを連れてくると半額で観られるような公演を頻繁に開催したり、通年で子ども向けの公演を行ったり。さらに、児童合唱や、児童合唱からプロの歌手になる間の年齢の合唱団の活動も活発で、若いうちからオペラやクラシックに慣れ親しめるような環境も整えています。そのような取り組みから、子どもや若い世代が増えてきました。

――その具体的な施策について、もう少しお聞かせいただけますか。

ジャンブローネ:私たちは多くのプロジェクトを持っています。ひとつは、オペラやバレエなどの芸術を継承していくアーティストを育てること。歌手とダンサーを養成する教育機関を設け、学べる環境を提供しています。もうひとつは、小学校から大学まで、学生たちにオペラやバレエを広めること。内容を知ったうえで観劇できるように学校で教えたり、学生たち向けの舞台を準備したりしています。
また、市や町などの自治体などに興味を持ってもらう努力をしています。オペラやバレエは、それらに精通している人や富裕層の人たちだけのものではありません。芸術を衰退させず、継承していくためには、年齢や経験、知識の有無など関係なく、さまざまな人たちに魅力を感じていただく必要があります。そのため、市町村などの地方の自治体はもちろん、国全体で多くの人たちが興味を持てるように普及させていくことがとても大事だと考えています。
今日の『椿姫』(2023年9月16日取材)を観に来られた方たちを見ると、若い人からお年寄りまで、本当にいろんな人が来ていましたよね。これはとても素晴らしいことです。ローマ歌劇場も多くの協力を得て、今晩のこの公演のように、いつもお客さまでいっぱいなんですよ。

――子ども向けのオペラ公演は年間どれぐらい開催しているのでしょうか。

ジャンブローネ:オペラはだいたい2本ぐらい。それから、バレエ公演も行い、できるだけ子ども向けの公演回数を多くするようにしています。作品は、上演時間が比較的短いもので、内容がわかりやすいものを選んでいます。
また、30歳以下の人を対象に、そのシーズン中であれば何度でも安い価格でチケット購入できるシーズンパスのようなものを発行しているので、観に来やすいと思いますよ。

――若い人たちにオペラの魅力を伝えるとしたら?

ジャンブローネ:今日の公演を観に来てくださったお客さまの中にも若い方がいらっしゃいましたよね。物語を知らなくても、楽曲に詳しくなくても、あのような伝統的で壮大な舞台装置や美しい衣裳は、若い人たちの興味を引くもののひとつではないかと考えています。やはり人々の目と心、両方に刺激を与えるというのはすごく大事なことで、そこから感動も生まれると思うのです。ですから、舞台芸術の"美"をぜひ味わっていただきたい。
また、オペラの物語をわかるように伝えることも重要です。オペラには長い歴史があるため、"昔の物語"、"昔の人の話"と思われがちですが、過去の出来事がただそこに描かれているわけではありません。年齢も、国籍も、文化的な背景も関係なく、すべての人にあてはまる普遍的な"人生の物語"が描かれています。つまり、オペラというのは、今を生きている誰もがその物語を理解でき、共感でき、そしてその物語の中に入り込んで、登場人物たちと一緒に生きていることを体感できる。それもまたオペラの魅力のひとつだと思います。
このことを伝えていくのが私たちの役目。ですから、観に来てくださった方々が物語の中に入り込めるような高いレベルの舞台を創るために日々努力しています。

――まだ『椿姫』を2公演終えただけですが、最後に、今回の引っ越し公演についてひと言お願いします。

ジャンブローネ:私は今回の引っ越し公演にとても満足しています。なぜなら、このイタリアの伝統あるものをその伝統の通りに、日本のお客さまにお見せすることができたからです。それは、NBSの大きな協力がなければ成し得ないことでした。私たちは、NBSのみなさんがどれほど高いレベルの舞台を目指しているかをよく理解しましたし、その期待に応えるべく、忠実に再現できるように努力しました。来場されたお客さまの反応を見る限り、きちんと伝わったという実感があります。そしてそのことが、私をより幸せな気持ちにさせてくれました。

取材・文:鈴木啓子(編集者・ライター)

9月26日、ローマ歌劇場2023年日本公演最終公演を終えて観客の喝采に応える出演者たち
Photo: Kiyonori Hasegawa