NBS News Web Magazine
毎月第1水曜日と第3水曜日更新
NBS日本舞台芸術振興会
毎月第1水曜日と第3水曜日更新
Photo: Shoko Matsuhashi

2023/10/18(水)Vol.480

パリ・オペラ座バレエ団 エトワール・インタビュー(4)  

マルク・モロー インタビュー
2023/10/18(水)
2023年10月18日号
バレエ
TOPニュース
インタビュー
バレエ

Photo: Shoko Matsuhashi

パリ・オペラ座バレエ団 エトワール・インタビュー(4)  

マルク・モロー インタビュー

2024年2月のパリ・オペラ座バレエ団日本公演に向けたエトワールへのインタビュー・シリーズ。4回目は、マルク・モローです。2023年7月には〈オペラ座ガラーヌレエフに捧ぐ〉でエトワールとしての初来日を果たしました。2024年2月、いよいよエトワールとしてカンパニーの舞台を担います。

「年齢と経験を重ねるにつれて自分の個性も出てきて、役に没入したり、解釈にニュアンスをつけられたりするようになったのが面白いなと感じています」

今年3月、36歳にしてエトワールに任命されたマルク・モローは、来年2月のパリ・オペラ座バレエ団日本公演で『マノン』のデ・グリューを踊ります。今年5月にパリで同役を踊った際は「特別な舞台となった」そうですが、その意外な理由とは――?
きらきらと輝く瞳で、バレエへの想いを饒舌に語る彼は、まるで「バレエが大好き!」な少年そのもの。初めて『マノン』を踊った体験や近年のクラシック作品への挑戦などについて、熱い想いを聞きました。

――近年、クラシック作品への出演が続いていますね。それはご自身の願いだったのですか?

マルク・モロー:そうなんです。若いころからコンテンポラリー作品に出演することが多かったので、周囲から「コンテのほうが好きなのでは」と思われたのか、どんどんコンテの比率が上がってしまって(笑)。だから「ちょっと待って、クラシック作品も踊りたいんですよ」と主張するようになりました。
もちろん、キャリアの最初から多くの素晴らしいコンテンポラリーの振付家と仕事ができたことは、アーティストとして実り多い出来事でした。バレエ学校で習ったこととはまた違うテクニックを必要とするので、ダンサーとしての幅も広がったと思いますが、クラシックを十分に踊れていないことは残念でもありました。パリ・オペラ座は古典作品のレパートリーがたくさんありますが、それらはかなりハードで、正確なテクニックを求められます。年齢を重ねるほど踊ることが難しくなってしまうので、力があるうちに踊りたかったのです。

――昨年12月には、初めて『白鳥の湖』のジークフリート王子を踊られましたね。

モロー:ええ、36歳で初めてというのは遅いと思いますが、体も魂も役の中に入り込んで没頭できて素晴らしい体験でした! ジークフリートは、僕がバレエを習い始めたころにパトリック・デュポンが踊る映像を観て以来、いつか踊りたいと願っていた役だったんです。パートナーのミリアム(・ウルド=ブラーム)とコーチのフロランス(・クレール)と一緒に第2幕のグラン・パ・ド・ドゥのリハーサルをしたときは、「ようやくたどり着いた!」と鳥肌が立ってしまいました。

――来年2月の日本公演で踊る『マノン』のデ・グリューも、今年5月に踊られていますが、どんな体験でしたか?

モロー:素晴らしい体験でした。最初はパク・セウンと踊るはずだったのですが、本番の朝にリュドミラ(・パリエロ)に相手役が代わりました。それで、その夜に初めて一緒に踊ったのですが、相手がリュドミラだと物語がまったく変わって感じられたのです。
セウンのマノンは控えめで恥ずかしがりやで、繊細さや純真さがありました。でも、リュドミラのマノンはもっと激しく、強く、愛に身を投じるようなキャラクターです。これがパートナーリングの難しいところでもありますが、目の前にいるパートナーに合わせて適応していくことも必要です。もしどちらのダンサーを相手にしても同じように踊ったら、おかしな部分が出てきてしまうでしょう。だから、まったくの即興で、相手に合わせて踊りました。頭で考えて踊るわけにはいかず、素で踊ったことでかえって特別な舞台になりました。

今年5月パリ・オペラ座で踊った『マノン』の舞台より、リュドミラ・パリエロと
Photo: Svetlana Loboff/OnP 

――デ・グリューはどんな役でしたか?

モロー:デ・グリューも初めて踊りましたが、難しい役でした。テクニック面はもちろんですが、身体的にも感情的にもかなり濃い役です。マノンとデ・グリューは引き裂かれる運命にありますが、お互いの愛を信じられるところまで気持ちを持っていかないといけません。

『マノン』の舞台より
Photo: Svetlana Loboff/OnP

――これから挑戦したい演目や役柄は何ですか?

モロー:新シーズンにある『ジゼル』は特に楽しみな演目です。僕にとって『ジゼル』はクラシックの完成形。すべてが純粋で美しく、同時に悲痛でもあり、まるで夢の中にいるような作品です。音楽も素晴らしい。長い間、アルブレヒトが踊りたいと願ってきたのに機会がなくて......以前「あなたのための役ではない」と言われたことがあるのですが、ジョゼ(・マルティネス芸術監督)に伝えたら「そんなことないよ」と言ってもらえたんですよ!

Photo: Shoko Matsuhashi

――年齢とともに、踊りたいと思う役柄は変わって来たのでしょうか?

モロー:若いころは『グラン・パ・クラシック』のようなエネルギッシュで華やかな作品が好きでしたが、年齢とともに成熟していき、もっと豊かで深みのあるものや複雑なドラマ性を求めるようになりました。年齢と経験を重ねるにつれて自分の個性も出てきて、役に没入したり、解釈にニュアンスをつけられたりするようになったのが面白いなと感じています。

――あなたは現在36歳で、今の年齢でエトワールになれたことに対し、どのように感じていますか?

モロー:ずっと喉から手が出るほどほしかった称号ですし、任命されるまではとても長く大変でしたが、この称号を得る難しさと意味合いを理解できる今だからこそ、特別な味わいがあります。 あと、36歳でもエトワールに任命されたという例はバレエ団にとってもよかったと思います。キャリアのどの段階においてもエトワールになれる可能性があるということは、メンバーにとってモチベーションに繋がりますからね。

――最後に、日本の観客の印象を教えてください。

モロー:日本ツアーには毎回、特別なものを感じています。というのも、私たちがダンサーという職業を選んだのは、お客さまとダンスへの情熱をシェアすることに喜びを感じるから。日本のお客さまは私たちと同じくらいダンスに対する情熱をお持ちなので、日本で踊るたびにこの仕事に就いた幸せを噛みしめています。

取材・文:富永明子(編集者・ライター)

公式サイトへ チケット購入

パリ・オペラ座バレエ団2024年日本公演
「白鳥の湖」全4幕
「マノン」全3幕

公演日

「白鳥の湖」全4幕

振付・演出:ルドルフ・ヌレエフ(マリウス・プティパ、レフ・イワーノフに基づく)

2024年
2月8日(木)18:30
2月9日(金)18:30
2月10日(土)13:30
2月10日(土)18:30
2月11日(日)13:30

「マノン」全3幕

振付:ケネス・マクミラン

2024年
2月16日(金)19:00
2月17日(土)13:30
2月17日(土)18:30
2月18日(日)13:30
2月18日(日)18:30

公演日時と予定される主な配役

「白鳥の湖」

振付・演出:ルドルフ・ヌレエフ(マリウス・プティパ、レフ・イワーノフに基づく)

2024年
2月8日(木)18:30
オデット/オディール:オニール八菜
ジークフリート王子:ジェルマン・ルーヴェ

2月9日(金)18:30
オデット/オディール:パク・セウン
ジークフリート王子:ポール・マルク

2月10日(土)13:30
オデット/オディール:ヴァランティーヌ・コラサント
ジークフリート王子:ギヨーム・ディオップ

2月10日(土)18:30
オデット/オディール:オニール八菜
ジークフリート王子:ジェルマン・ルーヴェ

2月11日(日)13:30
オデット/オディール:アマンディーヌ・アルビッソン
ジークフリート王子:ジェレミー=ルー・ケール

「マノン」

振付:ケネス・マクミラン

2024年
2月16日(金)19:00
マノン:ドロテ・ジルベール
デ・グリュー:ユーゴ・マルシャン

2月17日(土)13:30
マノン:ミリアム・ウルド=ブラーム 
デ・グリュー:マチュー・ガニオ

2月17日(土)18:30
マノン:ドロテ・ジルベール
デ・グリュー:ユーゴ・マルシャン

2月18日(日)13:30
マノン:リュドミラ・パリエロ
デ・グリュー:マルク・モロー

2月18日(日)18:30
マノン:ミリアム・ウルド=ブラーム 
デ・グリュー:マチュー・ガニオ

会場:東京文化会館(上野)

・指揮:ヴェロ・ペーン(「白鳥の湖」) / ピエール・デュムソー(「マノン」)
・演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

入場料[税込]

S=¥27,000 A=¥24,000 B=¥21,000
C=¥17,000 D=¥13,000 E=¥10,000
U25シート=¥5,000
*ペア割引[S,A,B席]あり
*親子割引[S,A,B席]あり