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2023/10/18(水)Vol.480

英国ロイヤル・オペラハウスから
2024年日本公演出演歌手たちの活躍ぶり
2023/10/18(水)
2023年10月18日号
TOPニュース
オペラ

Photo: Clive Barda / ROH
Photo: Camilla Greenwell / ROH
Photo: Camilla Greenwell / ROH

英国ロイヤル・オペラハウスから
2024年日本公演出演歌手たちの活躍ぶり

英国ロイヤル・オペラ2024年日本公演開催が発表されました。胸躍らせているオペラ・ファンも多いことでしょう。出演予定には選りすぐりの歌手たちが並んでいますが、2023/24シーズンが開幕した現地では、9月から10月にかけて日本公演の『リゴレット』でジルダ役のネイディーン・シエラが『愛の妙薬』に、そして『トゥーランドット』の主役カップル、ソンドラ・ラドヴァノフスキーとブライアン・ジェイドが『運命の力』に登場しました。彼らの活躍ぶりを秋島百合子さんに伝えてもらいました。

ネイディーン・シエラ
空前の拍手喝采で迎えられた英国ロイヤル・オペラ・デビュー

灼熱の太陽の下で自信満々の恋を語りながらも、ほんとうはまだ行きつく相手が定まらないお嬢さん。強気の態度が、実は純なる乙女の隠れ蓑になるのかも。アメリカのネイディーン・シエラは複雑な恋心を、ドニゼッティの『愛の妙薬』のアディ―ナで明るく、少し哀しく、時には抒情豊かなコロラトゥーラで歌い上げて空前の拍手喝采を贈られた。9月29日付のタイムズ評は滅多に出さない5つ星を掲げ、「シエラはようやく(belated)ロイヤル・オペラにデビューして、蜂蜜のように甘くエレガントな声を聴かせてくれた」と絶賛した。
シエラはニューヨークのマネス音楽学校で学んだ後、サンフランシスコ・オペラ等に出演。後にメトロポリタン歌劇場でヴィオレッタ、ルチア、バルセロナのリセオ歌劇場でマスネーのマノン、ベルリン国立歌劇場、サン・カルロ歌劇場、スカラ座等で『リゴレット』のジルダ、バイエルン国立歌劇場でルチアを歌って大成功している。

英国ロイヤル・オペラ『愛の妙薬』のアディーナを歌うネイディーン・シエラ
Photos: SClive Barda / ROH

『運命の力』から『トゥーランドット』へ
ラドヴァノフスキー&ジェイドが描く"絶対的な愛の姿"に期待

2024年6月の英国ロイヤル・オペラ日本公演で上演される『トゥーランドット』。冷酷無慈悲な題名役の姫君と情熱の求婚者カラフを歌う2人の大物歌手が、ロンドンの本拠では別のオペラで共演して、空前の評価を得た。ヴェルディの中でも長くて難解とされる『運命の力』だ。侯爵家の令嬢レオノーラをソンドラ・ラドヴァノフスキー、密かな恋人でインカ帝国との混血ゆえに結婚を許されないアルヴァーロをブライアン・ジェイドが歌った。2019年に初演されたクリストファー・ロイ演出の舞台の再演で、指揮はマーク・エルダー。(9月19日から10月9日まで上演、10月2日に観た)

英国ロイヤル・オペラ『運命の力』より
ソンドラ・ラドヴァノフスキー(レオノーラ)とブライアン・ジェイド(アルヴァーロ)
Photo: Camilla Greenwell / ROH

20世紀初頭に置き換えた舞台はモダンとクラシックの間を暗く優雅に行き交うようだった。ラドヴァノフスキーは、歌い始めた瞬間から、ベテランながら乙女の可憐さと無知と頑(かたく)ななほどの決心を滲み出させる。後は運命に翻弄されるまま、すべて神の御心のままにという筋書きをすっかり信じさせてしまった。それでいて驚異的なパワーで思いの丈を歌い上げ、絶大なる賛辞を受けたのだ。
翻ってトゥーランドット姫は、あの凄み、冷酷さから始まって、その傲慢さがカラフの熱い思いによってとろけてしまうのだから、どのように歌うのかと胸が弾む。『運命の力』の後、パリ・オペラ座とナポリのサン・カルロ歌劇場でトゥーランドットを歌う予定だそうだ。

英国ロイヤル・オペラ『運命の力』のレオノーラを歌うソンドラ・ラドヴァノフスキー
Photo: Camilla Greenwell / ROH

一方、インカ帝国の血を引く異色のヒーロー、アルヴァーロは、こちらもアメリカ人のブライアン・ジェイドだ。キャリアとしてはバリトンで始めてテノールに変えたというのが信じられないほど、恋を語る高音が美しく響く。レオノーラとの逢瀬の中で、気高く情熱的な思いが純粋であるゆえにいっそう哀しい。表現力豊かなラドヴァノフスキーとジェイドは、このような絶対的な愛の姿を、日本公演では王子カラフとトゥーランドット姫の物語にどう移し替えるのか、想像するだけでも胸がときめいてしまう。

英国ロイヤル・オペラ『運命の力』のアルヴァーロを歌うブライアン・ジェイド
Photo: Camilla Greenwell / ROH

取材・文:秋島百合子(在ロンドン ジャーナリスト)