ダンサーとして条件のよい美しい肢体と絶妙の音楽性の持ち主で、その舞台が見巧者のバレエファンから絶賛を浴びるエトワール、リュドミラ・パリエロ。2024年2月の日本公演でマクミランの『マノン』を踊る彼女に、パリ在住のエディター大村真理子さんがインタビューしました。
パリ・オペラ座日本公演に久々に参加するリュドミラ・パリエロ。2月18日のマチネに、マルク・モローをパートナーに『マノン』を踊る。10月に40歳を迎えた彼女のアデュー公演は、シーズン2025/26に行われる。この東京での公演はリュドミラがマノン役を踊る最後であり、日本の観客にとってはこの作品で彼女が全幕を踊るのを見る初めてで、そしておそらく最後の機会となるだろう。
マノン役に彼女が最初に取り組んだのは2015年春の公演。役作りには本を読み、さまざまなビデオを見て。この時彼女は偉大なダンサーであるパトリシア・ルーアン(注:2022年没)と仕事をする幸運に恵まれた。演劇面において深い知識の持ち主であるパトリシアから、デ・グリューと出会い、失落に至るまで舞台に登場するごとのマノンの心理状態の違いをはじめ多くを学ぶことができたのだ。デ・グリューは誠の愛を捧げ、それを承知しつつも不貞を繰り返すマノン。贅沢好きでインモラルな女性と表現されがちなヒロインをリュドミラはどのように見ているのだろうか。
「彼女は他人を利用することもせず、デ・グリューに対してピュアな愛こそあれ、悪意などありません。舞台は18世紀。裕福な夫、男性からの支援なしに女性はどう生きていけばいいのでしょうか。マノンは金銭の欠如をひどく恐れています。文無しで路上に放り出されるのが怖い。お金にしか興味がないと思われがちだけど違うのです。生き延びる手段として彼女なりに決断をしています。でも必ずしもそれが正しくはなく、デ・グリューとの間にドラマが生まれるのですね。彼女のチョイスは正当化できるものではないけれど、自身が生き抜くためという覚悟で行っています。また兄レスコーと家族の深い絆で結ばれていることも悲劇へと彼女を導きますね。100%ナイーブなわけではない彼女は兄がどんな世界で生きてるかわかっています。でも兄を信頼しきってるので彼の選択に従ってしまう。こうした女性を観客の心に触れ、惹きつけるように演じるというなかなか難しい役どころなんです」
『マノン』。マルク・モローと。
Photo: Svetlana Loboff/OnP
昨シーズン、8年ぶりにマノン役を踊り、少しずつ訪れる悲劇を巧みな構成と振付で創り上げたケネス・マクミランの仕事への理解が深まり、また聴くだけで何を語るシーンなのかが理解できるジュール・マスネの音楽も、知るほどに素晴らしさを感じるようになった。リュドミラは舞台に登場する以前のマノンがどのように生きてきたのかにも思いを巡らせ、彼女に対して誠実に向かいあうことで彼女をより理解できたとも。
『マノン』。グレゴリー・ドミニャックと。
Photo: Svetlana Loboff/OnP
さてリュドミラといえば、脚の美しさに定評がある。その魅力が大いに説得力を持つシーンがあるのだが、彼女自身は第2幕の遊技会場となるマダムの邸宅で遊びに耽る紳士たちと踊るパ・ド・ディスが、場面としてまた振付として最も好きだという。
「マノンは自分が築き上げた世界で居心地良く感じ、自分が作り上げた女性像をここで遊んでるのですが、デ・グリューがその場に出現したことで彼女の世界が崩れ始めるのです。パ・ド・ディスは大勢の貴族たちに抱えられ、男性の腕から腕へと体を滑らせ、そしてジェットコースターのように床にむけて体を急降下させられたかと思うや、今度は強く上へと引き上げられてという振付。マノンの状況を表す素晴らしいものです」
『マノン』。マルク・モローと。
Photo: Svetlana Loboff/OnP
日本で一緒に踊るマルク・モローとは、過去にバランシンの『真夏の夜の夢』のディヴェルティスマンのパ・ド・ドゥを踊ったことがあるだけで、演劇的バレエ3幕で組むのは『マノン』が初めてだった。
「デ・グリューは彼にとって初役でしたけど、34歳の彼はダンサーとしても人間としてもマチュアなので、私たちの"マノン''を作り上げるのは難しくありませんでした。8年前のパートナーはジョジュア・オファルトで彼はメランコリックな視線を常に投げかけてきましたけど、マルクは繊細であると同時にとても血気盛ん。絶望的な場面でも興奮を感じさせるので、私もそれにリアクションするようにしました」
新しいパートナーと新しい思い出を作り上げられたマルクとの舞台には、素晴らしいサプライズがあり、自分にとっても良い体験となったと喜ぶリュドミラ。彼女を『マノン』の全幕で見たいという日本のバレエファンたちの声に応えられる、と来日公演を楽しみにしている。
取材・文 大村真理子(パリ在住、エディター)
振付・演出:ルドルフ・ヌレエフ(マリウス・プティパ、レフ・イワーノフに基づく)
2024年
2月8日(木)18:30
2月9日(金)18:30
2月10日(土)13:30
2月10日(土)18:30
2月11日(日)13:30
振付:ケネス・マクミラン
2024年
2月16日(金)19:00
2月17日(土)13:30
2月17日(土)18:30
2月18日(日)13:30
2月18日(日)18:30
振付・演出:ルドルフ・ヌレエフ(マリウス・プティパ、レフ・イワーノフに基づく)
2024年
2月8日(木)18:30
オデット/オディール:オニール八菜
ジークフリート王子:ジェルマン・ルーヴェ
2月9日(金)18:30
オデット/オディール:パク・セウン
ジークフリート王子:ポール・マルク
2月10日(土)13:30
オデット/オディール:ヴァランティーヌ・コラサント
ジークフリート王子:ギヨーム・ディオップ
2月10日(土)18:30
オデット/オディール:オニール八菜
ジークフリート王子:ジェルマン・ルーヴェ
2月11日(日)13:30
オデット/オディール:アマンディーヌ・アルビッソン
ジークフリート王子:ジェレミー=ルー・ケール
振付:ケネス・マクミラン
2024年
2月16日(金)19:00
マノン:ドロテ・ジルベール
デ・グリュー:ユーゴ・マルシャン
2月17日(土)13:30
マノン:ミリアム・ウルド=ブラーム
デ・グリュー:マチュー・ガニオ
2月17日(土)18:30
マノン:ドロテ・ジルベール
デ・グリュー:ユーゴ・マルシャン
2月18日(日)13:30
マノン:リュドミラ・パリエロ
デ・グリュー:マルク・モロー
2月18日(日)18:30
マノン:ミリアム・ウルド=ブラーム
デ・グリュー:マチュー・ガニオ
・指揮:ヴェロ・ペーン(「白鳥の湖」) / ピエール・デュムソー(「マノン」)
・演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
S=¥27,000 A=¥24,000 B=¥21,000
C=¥17,000 D=¥13,000 E=¥10,000
U25シート=¥5,000
*ペア割引[S,A,B席]あり
*親子割引[S,A,B席]あり