NBS News Web Magazine
毎月第1水曜日と第3水曜日更新
NBS日本舞台芸術振興会
毎月第1水曜日と第3水曜日更新
Photo: Cedric Angeles

2024/01/10(水)Vol.485

英国ロイヤル・オペラ2024年日本公演
ソンドラ・ラドヴァノフスキーのトゥーランドットが待ちきれない!
2024/01/10(水)
2024年01月10日号
TOPニュース
オペラ

Photo: Cedric Angeles

英国ロイヤル・オペラ2024年日本公演
ソンドラ・ラドヴァノフスキーのトゥーランドットが待ちきれない!

メトロポリタン歌劇場(MET)の中心的人気ソプラノの一人であり、ヨーロッパでもその実力は広く知られているソンドラ・ラドヴァノフスキー。英国ロイヤル・オペラ2024年日本公演の『トゥーランドット』タイトルロールへの期待が高まっています。ナポリでの彼女のトゥーランドットを聴いたオペラ評論家の香原斗志さん、ほぼノックアウト状態の感動を伝えてくれました。

圧倒的な声と豊かなニュアンスが両立
ラドヴァノフスキーを超えるトゥーランドットは想像できない

2023年12月12日、ナポリのサン・カルロ劇場で鑑賞したプッチーニの『トゥーランドット』は、忘れえない公演になった。トゥーランドット役のソプラノはソンドラ・ラドヴァノフスキー。第一声から圧倒的な印象をあたえられたが、たんに強い声のソプラノとは一線を画していた。
倍音をともなって輝かしく響くその声は、音圧は強いのに耳にとても心地よく、なによりニュアンスが豊かである。もう少し細かく記すと、強弱のコントロールが自在なので、フォルティッシモからピアニッシモまで強弱のダイナミックレンジが非常に広く、その間を精密に行き来し、そこにニュアンスの彩りが添えられる。テクニックの面でも表現力という点でも傑出していた。
微妙に変化するニュアンスによって、聴き手はトゥーランドットの胸中のみならず、その複雑な人間像に直面させられる。どこか神経質で、なにかにおびえ、虚勢を張りながらも繊細さを併せもった女性であることが、第一声から伝えられる。そして置かれた状況が変わると、ニュアンスは複雑かつ微妙に(けっして単純にではなく)変化する。たとえば、カラフに三つの謎を解かれ、父である皇帝アルトゥムに哀願するときの、強い声で表される未熟な少女の悩みなど、追い詰められた心中に、こちらが巻き込まれそうになる。
それでいて、カラフとユニゾンで響かせるハイCなどでは、純粋な声の力による官能美に酔わされるのである。
トゥーランドット役といえば、数あるソプラノの役のなかでも、とくにドラマティックな声が求められる。だから、これまで私にとって、この役におけるすぐれた歌唱とは、豊麗な声で圧するものだった。ラドヴァノフスキーのようなニュアンス豊富なトゥーランドット役ははじめてであり、恥ずかしながら、大管弦楽を突き抜ける巨声が必要とされるこの役で、これほど豊かなニュアンスや色彩が表され、それを通じて微妙な性格表現が可能になるなどとは、思っていなかった。

ラドヴァノフスキー演じるトゥーランドット
(ナポリ、サン・カルロ劇場公演より)
Photo: Luciano-Romano / Teatro-di-San-Carlo

卓越したテクニックがすべてこの役に活かされていた

ラドヴァノフスキーは元来、声のコントロールにおいて、卓越した力を誇るソプラノである。たとえば、METライブビューイングのベッリーニ『ノルマ』やドニゼッティ『ロベルト・デヴェリュー』などで、華麗なコロラトゥーラと強い感情表現を両立させた圧巻の歌唱を披露してきた。小さな音符の連なりを敏捷に駆け抜けるアジリタも、連続する音をなめらかに続けるレガートも、細部まで正確に歌う力があるから、複雑な感情を複雑なまま描くことができるのだ。
2023年3月にやはりナポリで聴いたヴェルディ『マクベス』のマクベス夫人も、そうした歌唱だった。激しい跳躍や下降、力強いコロラトゥーラも、余裕でこなして変幻自在のニュアンスを加え、俳優が演じるのも難しいこの稀代の悪女の性質を、声だけで描き切ったといっていい。
そのとき響かせたフォルティッシモの力強さと輝かしさを思えば、トゥーランドット役を歌うのも不可能ではないとは思った。しかし、声にひときわ豊麗さが求められるこの役では、ラドヴァノフスキーならではのニュアンスに富んだ精緻な表現が活かされないのではないか、と心配をした。
だが、それがまったくの杞憂であったことはすでに述べたとおりである。ベルカント・オペラを表現豊かに歌うテクニックは、トゥーランドット姫の複雑な心中までをすべて声で表現するという、稀代の歌唱に存分に活かされた。第3幕、リューが死んだのちの場面では、圧巻の響きのなかで心が次第に雪解けする様子が微妙に描かれた。なんという水準の歌唱だろうか。私がこれまで聴いたトゥーランドット役のなかで群を抜いていたことは、いうまでもない。
だから、6月に英国ロイヤル・オペラとともに来日し、ふたたびあの歌唱を聴くのが楽しみでならない。カラフ歌いとして世界に認められたブライアン・ジェイドが相手で、ツボを押さえ、歌手の力を最大限に引き出せるアントニオ・パッパーノの指揮のもとでの歌唱。聴き逃したら一生後悔しそうである。

香原斗志(オペラ評論家)

英国ロイヤル・オペラ2024年日本公演公式サイト
https://www.nbs.or.jp/stages/2024/roh/index.html

公式サイトへ チケット購入

英国ロイヤル・オペラ2024年日本公演
『リゴレット』全3幕
『トゥーランドット』全3幕

公演日

ジュゼッぺ・ヴェルディ
『リゴレット』全3幕

指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:オリヴァー・ミアーズ
6月22日(土)15:00 神奈川県民ホール
6月25日(火)13:00 神奈川県民ホール *横浜平日マチネ特別料金
6月28日(金)18:30 NHK ホール
6月30日(日)15:00 NHK ホール

[予定される主な出演者]
マントヴァ公爵:ハヴィエル・カマレナ
リゴレット:エティエンヌ・デュピュイ
ジルダ:ネイディーン・シエラ

ジャコモ・プッチーニ
『トゥーランドット』全3幕

指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:アンドレイ・セルバン
6月23日(日)15:00 東京文化会館
6月26日(水)18:30 東京文化会館
6月29日(土)15:00 東京文化会館
7月2日(火)15:00 東京文化会館

[予定される主な出演者]
トゥーランドット姫:ソンドラ・ラドヴァノフスキー
カラフ:ブライアン・ジェイド
リュー:マサバネ・セシリア・ラングワナシャ

入場料[税込]

S=¥72,000 A=¥62,000 B=¥48,000
C=¥38,000 D=¥32,000 E=¥22,000
U29シート=¥10,000 [全公演対象]
U39シート=¥18,000 [6/22(土)『リゴレット』、6/26(水)『トゥーランドット』限定]
※サポーター席=¥122,000 [寄付金付きのS席 S席72,000円+寄付金50,000円]

横浜平日マチネ特別料金[6/25(火)限定]
S=¥49,000 A=¥42,000 B=¥35,000
C=¥30,000 D=¥25,000 E=¥20,000
U29シート=¥8,000 [全公演対象]
※サポーター席=¥99,000 [寄付金付きのS席 S席49,000円+寄付金50,000円]