2024年2月、約4年ぶりに来日したパリ・オペラ座バレエ団の『マノン』の舞台で感動的な演技を披露し、ベテランエトワールとしての矜持を示したドロテ・ジルベール。その彼女が今夏の〈世界バレエフェスティバル〉に3度目の出演を果たします。『マノン』の公演のことに続いて、これまでの道のりや〈世界バレエフェスティバル〉への意気込みについて聞きました。
――『マノン』のタイトルロールはこれまで何度も踊られていますが、今回特に意識されたことはありますか。
ドロテ・ジルベール:今回の舞台では、できる限り"人間らしくありたい"と思いながら踊りました。マクミランの『マノン』は、私たちダンサーがあたかも俳優であるかのように、解釈や演技力などを高いレベルで求められる作品です。そのため、ダンサーというよりもひとりの人間としてマノンを演じることを意識しました。お客さまには、技術面に着目していただくのではなく、舞台の上にはただ愛し合う男性と女性がいる――そんなふうに観てもらえていたら嬉しいですね。実は昨年7月にも踊っているので、技術的な準備はそれほど苦労していませんでした。非常に高度なテクニックは必要ですが、それらを昇華し、マノンの人間味のある姿をお見せすることができたのではないかと思っています。
――デ・グリューを演じたユーゴ・マルシャンさんとは、長年息の合ったパートナリングを披露されました。
ジルベール:ユーゴとは10年ぐらい一緒に踊っているので、お互いをよく知っていますし、深いところまでわかり合える貴重なパートナーです。信頼関係を築けているので怖さがなく、それによってリスクを取れるため、私たちは舞台の上でとても自由に振る舞うことができます。インプロヴィゼーション(即興)で何かをするということではないのですが、どちらかが自発的に何かを仕掛けると、互いにそれに応えられます。
実は2人とも結構キャラクターが強くて......特に彼のほうが強いとでも言っておきましょうか(笑)。意見が合わなくて多少ぎくしゃくすることも稀にあるのですが、それはしかたのないこと。私たちは共に舞台に対して非常に高い要求をしますし、舞台に上がるときにはその瞬間を最高に楽しみたいという思いを持っているので、意見交換を頻繁にしますし、意見が異なるのは当たり前だと思っています。それぞれ違うパートナーと踊ったり、違う作品に配役されたりして、しばらく一緒に踊らないと寂しい気持ちにもなりますし、一緒に踊れるととても嬉しく感じます。
2024年2月のパリ・オペラ座バレエ団日本公演『マノン』より。相手役はユーゴ・マルシャン。
Photo: Kiyonori Hasegawa
――エトワールに任命された2007年といまとでは、心境や作品への取り組み方に変化はありますか。
ジルベール:若い頃は新しい発見の連続で、すべて全力で取り組み、学び、吸収しようとして必死でした。いまは時間と共に経験が蓄積されてきて、技術的な面で踊るのがラクになりましたね。もちろん、エネルギッシュで迫力のあるテクニックを披露していた頃に比べると、それらは年々少しずつ減じられていきますが、経験を重ねたぶん、エネルギーの使い方が上手になりました。芸術面においても、人生のさまざまな経験によって作品への理解が深まり、それらが踊りを通して語ること、表現することを助けてくれます。キャリアを進めるごとにあらゆるものが蓄積され、レベルが上がっていく――このように考えてみると、ダンサーのキャリアというのはよくできていると思います。
――今夏、〈世界バレエフェスティバル〉に出演されます。オファーが来たときはどのような気持ちでしたか。
ジルベール:とても嬉しかったです。なぜなら、〈世界バレエフェスティバル〉はバレエ界では避けて通れないマストなイベントですし、世界中から素晴らしいダンサーが集まるため、そこにお招きいただけるということは本当に名誉なことだからです。以前参加したときに、彼らの素晴らしい踊りの数々を観ることができ、非常に多くのインスピレーションをもらいました。それと私は日本が大好きなので、再び来日できるのが楽しみなのです。
Photo: Shoko Matsuhashi
――2018年、21年と過去2回参加された中で、思い出深いエピソードがあれば教えてください。
ジルベール:印象深いのはコロナ禍が落ち着きを見せ始めた中で開催された2021年です。というのも、ダンサー全員が一棟借り切った同じホテルで、食事も移動もずっと一緒だったので、それまでに味わったことのないような一体感が生まれましたし、互いの距離を縮めることができました。ただ、お客さまとの距離が遠かったのは寂しい出来事として記憶しています。
あとは2018年の最終日に開催された"ファニーガラ"が思い出に残っています。準備から本番までダンサーみんなの雰囲気もよくて、とても楽しい企画でした。今年もまたやってみたいですね。
前回、2021年の〈世界バレエフェスティバル〉「ロミオとジュリエット」より。相手役はユーゴ・マルシャン。
Photo: Kiyonori Hasegawa
――〈世界バレエフェスティバル〉とパリ・オペラ座バレエ団の公演との違いは?
ジルベール:まずは、世界中からいろいろなダンサーが集まるので、違うスタイルの踊りを一度に多く見られるところです。あとは、さまざまなお客さまが観に来られること。例えば今回の『マノン』であれば、パリ・オペラ座に関心があって、フランス派のダンスをご覧になりたい方だと思うのですが、〈世界バレエフェスティバル〉の場合は、多様なお客さまがいらっしゃいます。ですので、私も自分を好きになってもらえるように踊るつもりです。
――最後に日本のファンのみなさんにひと言お願いします。
ジルベール:みなさんに再会できることを本当に幸せに思っています。ぜひ、私が踊る機会を見逃さないように会いに来てください! なぜなら、私はもう若くはないので、観ていただく機会が限られていますから(笑)。いつも私のことを誠実に思ってくださり、心から感謝しています。
取材・文:鈴木啓子(編集・ライター)
●Aプログラム
7月31日(水)18:00
8月1日(木)18:00
8月2日(金)14:00
8月3日(土)14:00
8月4日(日)14:00
●Bプログラム
8月7日(水)18:00
8月8日(木)18:00
8月9日(金)14:00
8月10日(土)14:00
●全幕特別プロ「ラ・バヤデール」
7月27日(土)15:00
主演:マリアネラ・ヌニェス、リース・クラーク
7月28日(日)15:00
主演:オリガ・スミルノワ、キム・キミン
●ガラ
8月12日(月・祝)
会場:東京文化会館(上野)
Aプロ、Bプロ
S=¥29,000 A=¥27,000 B=¥23,000
C=¥19,000 D=¥16,000 E=¥10,000
コーセーU25シート=¥5,000
*親子割引[S,A,B席]あり
*プログラム内容および出演者の詳細は公式サイトをご覧ください。
指揮:ワレリー・オブジャニコフ ほか
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団