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*2024年5月のNBS NEWS WEBマガジンの更新日は、第2・第4水曜(5月8日と22日)に変更させていただきます。
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NBS日本舞台芸術振興会
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Photo: Shoko Matsuhashi

NEW2024/05/08(水)Vol.493

〈第17回世界バレエフェスティバル〉特別インタビュー(2)
ユーゴ・マルシャン
2024/05/08(水)
2024年05月08日号
バレエ
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Photo: Shoko Matsuhashi

〈第17回世界バレエフェスティバル〉特別インタビュー(2)
ユーゴ・マルシャン

〈世界バレエフェスティバル〉出演ダンサーのインタビュー・シリーズ2回目はパリ・オペラ座バレエ団のエトワール、ユーゴ・マルシャン。今年2月のパリ・オペラ座バレエ団の『マノン』では、ドロテ・ジルベールと息の合った踊りを披露し、大勢の観客を魅了しました。その彼が、今夏の〈世界バレエフェスティバル〉で再び日本の舞台で踊ります。2度目の出演となる〈世界バレエフェスティバル〉への思いや、4年ぶりの日本公演で踊った『マノン』について話を伺いました。

演技や踊りには人生の経験が反映されていくので、歳を重ねたからこそ生まれる違いにも注目してほしい

――昨年夏に日本で踊られた『うたかたの恋(マイヤリング)(第3幕第3場のパ・ド・ドゥ)では、一つひとつの動きから音楽が聞こえてくるような素晴らしい踊りを披露されました。

ユーゴ・マルシャン:私にとってケネス・マクミランが振付けた作品は、演じることへの意欲をいつも以上に湧かせてくれる特別なものです。『うたかたの恋』のこの場面では、フランツ・リストの《超絶技巧練習曲》(Études D'exécution transcendante)が使われているのですが、楽曲が持つ力強さや激しさが自分のイメージにより色彩を与えてくれて、踊り込むうちに表現が変わっていく実感を得られました。実をいうと、《超絶技巧練習曲》は楽曲自体とらえることが難しく、初めてこの作品に取り組んだときは動きにぎこちなさがあったと思います。でも、練習を重ねるごとに振付と音楽を理解できるようになり、それに伴いさまざまなことを発見していきました。今年9月にパリ・オペラ座で『うたかたの恋』の全幕を踊るので、さらに多くのことを得られるのではないかと期待しています。全幕では、管弦楽曲、ピアノ曲、歌曲などいろんな曲が配置されていて、音楽がまるで道を表す地図のようにダンサーを導いてくれるので、マクミランの作品は本当にすごいと思います。

2024年2月のパリ・オペラ座バレエ団日本公演「マノン」より。相手役はドロテ・ジルベール。
Photo: Kiyonori Hasegawa

――パリ・オペラ座バレエ団の来日公演でデ・グリューを踊られた『マノン』もマクミラン振付ですね。

マルシャン:デ・グリューは大好きな役です。キャラクターが魅力的なのはもちろん、21歳という若さで初めて踊ったので思い入れが強いですし、そのときのパートナーがドロテ(・ジルベール)で、以降彼女とだけ踊ってきたとても大切な作品。彼女と踊ることが本当に好きなんですよ。
『マノン』はイニシエーション(通過儀礼)の旅といいますか、生と死を巡るひとつの円環を描くような作品だととらえています。デ・グリューを演じるうえで大事にしているのは、彼が騎士であるということ。カトリックの騎士修道会、通称「マルタ騎士団」への入団が決まっていて、宗教的な面も含め非常に厳しい教育を受けている。良識を備えた人間でありながら、マノンと出会い、彼女を愛することによって、それまで知ることのなかった嫉妬や裏切り、セックスなどを経験し、彼自身が大きく変わってしまう。そして、その変化はマノンが死を迎える最後のパ・ド・ドゥまで続いていきます。マクミランという振付家のイマジネーション、そして彼が構想した舞台を通して、デ・グリューというひとりの人間が完璧なまでに壊れていく過程を踊るのがこのデ・グリューという役です。
『うたかたの恋』もそうですが、マクミランは同じプロセスを踏むことがよくあります。例えば、愛、暴力性、戦い、死――そういったものが繰り返し何度も出てくる。それらを踊ることは、ダンサーにとってとても豊かな経験となります。演技や踊りには自身の人生の経験が反映されていくので、お客さまにはその歳を重ねたからこそ生まれる違いみたいなものにも注目していただけたら嬉しいですね。

Photo: Shoko Matsuhashi

――2021年に続き、〈世界バレエフェスティバル〉は2度目の出演となります。オファーがきたときの気持ちをお聞かせください。

マルシャン:前回よりもっとうまくいきますように!と願っています。というのも、日本に到着したあと、体調不良(による入国規制)でAプロに出られなかったのです。Bプロには何とか出演できましたが、Aプロに出られなかったぶん、一生懸命頑張ったら膝を傷めてしまい、満足のいく踊りをお見せすることができませんでした。今回はドロテと舞台で踊ることを楽しみ、世界のダンサーたちからたくさんの刺激をもらえる、素晴らしいフェスティバルになるといいなと思います。
また、インスピレーションを与えてくれるダンサーにもたくさん出会えたので、それも楽しみのひとつです。例えば、オリガ・スミルノワ、ウラジーミル・シクリャローフ、マルセロ・ゴメス、菅井円加さん、アレクサンドル・トルーシュ。みなさん、とても素敵なダンサーでした。

2024年2月のパリ・オペラ座バレエ団日本公演「マノン」より。
Photo: Kiyonori Hasegawa

――〈世界バレエフェスティバル〉の会場の雰囲気はいかがでしたか。

マルシャン:日本でのパリ・オペラ座バレエ団の公演と〈世界バレエフェスティバル〉とではあまり変わらない気がしました。なぜなら、日本のお客さまはバレエの知識が豊富で、いつも私たちに期待し、そして愛してくださっていると感じるから。そのことでストレスや難しさを感じるときもありますが(笑)、その素晴らしい熱意には感謝しかありません。日本で踊れることを心から嬉しく思いますし、毎回とても大きな喜びを得られます。みなさん、ぜひ〈世界バレエフェスティバル〉にいらしてください。

取材・文:鈴木啓子(編集・ライター)

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第17回世界バレエフェスティバル

公演日

●Aプログラム
7月31日(水)18:00
8月1日(木)18:00
8月2日(金)14:00
8月3日(土)14:00
8月4日(日)14:00

●Bプログラム
8月7日(水)18:00
8月8日(木)18:00
8月9日(金)14:00
8月10日(土)14:00

●全幕特別プロ「ラ・バヤデール」
7月27日(土)15:00
主演:マリアネラ・ヌニェス、リース・クラーク

7月28日(日)15:00
主演:オリガ・スミルノワ、キム・キミン

●ガラ
8月12日(月・祝)

会場:東京文化会館(上野)

入場料[税込]

Aプロ、Bプロ
S=¥29,000 A=¥27,000 B=¥23,000
C=¥19,000 D=¥16,000 E=¥10,000
コーセーU25シート=¥5,000
*親子割引[S,A,B席]あり

予定されるプログラムおよび出演者

*プログラム内容および出演者の詳細は公式サイトをご覧ください。

指揮:ワレリー・オブジャニコフ ほか
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団