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2024/07/03(水)Vol.497

モーリス・ベジャール・バレエ団2024年日本公演 

ダンサー・インタビュー(3)
2024/07/03(水)
2024年07月03日号
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バレエ

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モーリス・ベジャール・バレエ団2024年日本公演 

ダンサー・インタビュー(3)

モーリス・ベジャール・バレエ団2024年日本公演に向けてのダンサー・インタビュー、シリーズ3回目は、モーリス・ベジャール・バレエ団(BBL)で、新たな挑戦を果たし、成功をおさめている3人です。それぞれBBLに入団するまでの経緯は異なるものの、今は自分自身を見つめながら挑み続けるという点が共通していることがうかがわれる、フリーライターの小田島久恵さんのインタビューです。

※このインタビューは2023年12月に実施しました。

大橋真理は2023年シーズンで満を持して『ボレロ』の主役デビューを飾り、イタリアの観客を熱狂させました。来日公演のたびにシャープで生命力に溢れたパフォーマンスを見せてくれた彼女は、今ではBBLの看板ダンサーになりつつあります。2016年に入団し、成熟度の高いダンスでベジャールの理想美を演じるフランス人ダンサー、ソレーヌ・ビュレルも注目の人。ストラヴィンスキーの音楽に振付けられた『コンセルト・アン・レ』で完璧なソロを見せてくれます。東京バレエ団時代から多くのファンを魅了してきた岸本秀雄は、『火の鳥』で主役デビューを飾ったばかり。若さと経験を兼ね備えたBBLの素晴らしいダンサーたちです。

「『ボレロ』は自分で作り上げていくしかない。私のチャレンジは最初の5分、本当に難しい」大橋真理

――今シーズン、大橋さんは『ボレロ』のメロディを踊られました。

大橋:先シーズンの終わり頃に「ちょっと練習しておいて」「ビデオを見ておいて」と言われて、全然実感が湧かなかったのですが.....その頃髪の毛が長かったんですが、『ボレロ』を踊るなら髪を切るように」と言われたんです。元々オリジナルで振付けられた女性(デュスカ・シフニオス)がショートで、ちょっとパーマがかかっていたんですね。今はパーマ、取れちゃってるんですけど。

――何回くらい踊られたんですか?

大橋:今のところ2回です。最初に踊ったのがイタリア。最初はエリザベット(・ロス)がずっと教えてくれて、舞台上では1回ジル(・ロマン)に見てもらったんですけど、ダメ出しとかはなく、正確なポジションを教えてもらいました。あとは「自分で作り上げていけ」というメッセージだったのかも知れません。

『ボレロ』大橋真理
Photo: BBL-Admill Kuyler

――ボレロはひとつひとつの動きはダンサーにとって難しくはないけど、逆にそれを見せていくことが難しいということを聞いたことがあります。

大橋:中味のないまま踊り切るのは簡単なんですけど、ちゃんと『ボレロ』を自分のものにして、観ている人に伝えられるものを作り上げていくのは本当に難しいと思います。エリザベットも動きの正確さやポジションについて教えてくれましたが、あとは自分でやっていくしかない、自分で作り上げていくしかないんです。個人的には疲れて来るときのほうが楽しめるので、私のチャレンジは最初の5分で、ここが本当に難しいです。

――最初の5分というのは、男性ダンサーが加わる前ですか?

大橋:私だけが踊っている場面です。そこをいかに魅力的に、見ている人を引き込めるようにするかというのが大事で、元々ストリップからインスピレーションを得たという話もありますけど、そういうことも意識しました。あと、私はやっぱりずっとジュリアンとエリ(エリザベット)のボレロをずっと見ているから、そのイメージが強くて、とりあえず真似から始めようと思ったんです。本番前日のリハーサルでジルにそのことを指摘され「それはエリとジュリアンの『ボレロ』で、君は君の『ボレロ』を踊らなければ、舞台にいる意味がない」と言われて.....自分の魅力は何なのか? 今自分にできることは何なのか? ということを結構思い詰めました。

――本番直前に注意されたのですね。

大橋:まだ自分には準備ができていないから踊りたくない、って不安に思ったんですが、舞台に立ってみたら「もう踊ってる」という感じで、踊り終わってから「ここも恐らくこうすればよかったな」と次の課題が見えてきて、結構楽しめたんです。今の自分がやるべきことが明確になってきたというか。その方向性が今の自分の『ボレロ』につながっています。

――大橋さんはジョン・クランコ・スクールの出身で、その後ルードラ(BBL付属のバレエ学校)で学ばれ、2013年にBBLに入団されました。

大橋:10歳の頃から父の仕事の関係で中国で暮らしていたので、海外ということに抵抗がなかったのかも知れません。クラシック・バレエは4歳から始めましたが、クランコ・スクールで学んでいた15歳のとき両足の三角骨っていうのが砕けてしまって。一度日本に帰国して手術したのですが、再び踊りたいと思ってオーディションを受けたのがルードラだったんです。

――ご自身の性格を自己診断すると?

大橋:負けず嫌いなほうだと思います。何でも結構闘争してしまう。ひょっとしたら一番の短所かも知れませんが、でもだからこそ、最後の最後まで踏ん張れるというのはあります。

「ベジャール・バレエは私にとって「初恋」。入団までの自分が成熟するために必要な時間があったから、今ここでいい結果を出せていると感じています」ソレーヌ・ビュレル

――昨晩のローザンヌ公演(2023年12月16日)でソレーヌさんがメインのカップルを踊られた『コンセルト・アン・レ』(1982年)は、ベジャール作品の中でもクラシックの要素が強い作品です。

ビュレル:そうですね。ベジャールさんが最もバランシンのスタイルに近づいた振付で、私自身はフレンチ・スタイルでバレエを習ってきたので、バランシンのスタイルは馴染みが薄かったんです。ですから、ところどころ自分のクラシックのルーツであるフレンチ・スタイルに寄せて踊っています。自分が心地よく踊れるように.....。モーリスの作品の中で、これほどクラシックに近づいた振付は珍しいし、誰もが踊れるようなものでもないのです。実は、とても難しい振付なんですよ。

『コンセルト・アン・レ』ソレーヌ・ビュレル(左)
Photo: BBL-Gregory Batardon

――そしてとても美しい.....! 最終リハーサルでクリスティーヌ・ブランさんが指導に入られたと聞きました。彼女のアドバイスで仕上がりが変わりましたか?

ビュレル:はい、とても! クリスティーヌはこの役を実際に踊っていましたし、彼女はオリジナルの振付を踊っていたショナ・ミルクから教わっていたんです。

――バレリーナからバレリーナに踊り継がれてきたのですね。ソレーヌさんの入団は2016年ですが、プロフィールによると2006年の『愛、それはダンス』に参加されています。

ビュレル:私がルードラに入る1年前のことでした。『春の祭典』のダンサーの一人として参加したんです。その後、ルードラで学び、卒業してからはオペラハウスに所属しているバレエカンパニーで7年踊りました。主にコンテンポラリーが中心のカンパニーでした。

――そしてルードラを卒業して7年後に入られるわけですね。

ビュレル:ベジャール・バレエは私にとって「初恋」ですから、初恋の人というのは忘れられるものではありませんよね(笑)。ルードラを卒業してからの7年間は、自分が成熟するために必要な時間だったと思っています。その時間があったから、今ここでいい結果を出せているのではないかと感じています。

――10歳のときにバレエを始められて、かなりストイックに学んでこられたのでは?

ビュレル:私の身体は実は全くバレエに向いていないんです。甲の形もフラットで理想的ではないし、ク・ドゥ・ピエも上手くできないし、柔軟性もないし..... だから、パッションでやっていくしかなかったんです。練習することは好きでしたから、苦痛だと思わなかったです。

――入団から7年で、いろいろなベジャール作品を踊られてきました。ベジャールはどんな人だったと思いますか?

ビュレル:『火の鳥』も『春の祭典』も『バレエ・フォー・ライフ』も作られたのは昔なのに、まったく古びていないどころか、とても未来的なバレエです。ベジャールさんという人は、未来を見つめていた人だったと思います。踊っていても毎回新鮮で、ダンサーは素晴らしい経験ができるんです。

「ローザンヌに来た大きな理由は、もっとバレエを勉強してみたかったから。『火の鳥』を踊ってみて"底なし沼だな"と思いました 」岸本秀雄

――岸本さんが東京バレエ団からBBLに移籍してこられたのは2018年で、日本では『白鳥の湖』のジークフリートも踊られていた主役級ダンサーでした。当時、移籍に驚いたファンも多かったのではないかと思います。

岸本:ローザンヌに来た大きな理由は、もっとバレエを勉強してみたかったからです。言葉も全然違うし、生活もまるっきり変わっちゃうから、もちろん凄く悩みました。こちらに来て、本当に日々勉強です。ベジャールさんのスタイルを学んで、動きを真似して、頭の中で考えて、探り探り..... の繰り返し。ジルやジュリアンを見ていると、胸で表現するのが物凄くうまいんです。上半身の動きと、演劇的な表情と..... 絶望するシーンでは力が抜けて、逆に希望を表現するときは光に向かっていく..... そういう表現が本当にベジャールさんならではだと思います。

『だから踊ろう...!』岸本秀雄(左)
Photo: BBL-Vito Lorusso

――ローザンヌに来てコンディションの面では変わりましたか?

岸本:身体はこちらに来てから少し軽くなりました。リフトをやることが少なくなったことが影響しているかも知れません。日々の鍛え方というか、毎日のリハーサルでどれだけ体力を使いきれるかな、ということをいつも考えています。昨日のリハーサルではここまで行けたから、今日はここまで行ってみようとか。本気を出せていないな、と自分で感じると、ちょっと落ち込みます。ケガをしていたとしても、痛いから踊りたくないのではなくて..... それとは別なんですよね。むしろ痛いからこそ、もっとこういうふうに身体を使ったらいいんじゃないかと。

――ダンサーとして、元々憧れていた人はいたんですか?

岸本:マニュエル・ルグリさんですね。クラシックの基礎的な部分や筋肉の使い方は、今でもしっかり保ちたいと、彼の映像を見たりすることが多いです。

――ベジャール作品では既に『火の鳥』を踊られていますが、これから踊ってみたい演目はありますか?

岸本:『ギリシャの踊り』のソロは踊ってみたいですね。暗い役もやってみたい。『バレエ・フォー・ライフ』の「フリーメイソンのための葬送音楽」で、レントゲン写真が降りてくるところとか、かっこいいなぁと思います。

――あの役はたくさん台詞もあるから大変そうですが、岸本さんがやられるのを見てみたいですね。『ボレロ』のメロディもどうかな、と言おうとしたんですが..... (笑)

岸本:あの赤い円卓上に立つというのは、特別じゃないですか? 全然もう、その域には..... 。

――もう1個くらい(笑)。生贄(『春の祭典』)は東京バレエ団でも踊ってらっしゃいましたね。

岸本:もちろん生贄もやりたいですね。でも、昔から本当にやりたかった『火の鳥』をやらせていただいて、すごく光栄なことだと思っています。踊ってみて"底なし沼だな"と思いました。

――『火の鳥』は今の岸本さんのイメージですね。ストイックな日々の中、リフレッシュ法などはありますか?

岸本:マサさん(大貫真幹)とビリヤードに行ったり。あと、最近料理にはまってます。「今日何作ろう?」と、気分転換も含めて調理を工夫しています。

取材・文 小田島久恵 フリーライター

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モーリス・ベジャール・バレエ団2024年 日本公演
Aプロ:バレエ・フォー・ライフ
Bプロ:「ボレロ」ほか

公演日

【東京公演】

Aプロ:
モーリス・ベジャール振付『バレエ・フォー・ライフ』

9月21日(土)13:30
9月22日(日)13:30
9月22日(日)18:00
9月23日(月・祝)13:30
会場:東京文化会館

Bプロ:
モーリス・ベジャール振付「ボレロ」
モーリス・ベジャール振付「2人のためのアダージオ」
モーリス・ベジャール振付「コンセルト・アン・レ」
ジル・ロマン振付「だから踊ろう...!」

9月27日(金)19:00
9月28日(土)13:30
9月28日(土)18:00
9月29日(日)13:30
会場:東京文化会館

※音楽は特別録音による音源を使用します。

入場料(東京公演) [税込]

S=¥23,000  A=¥16,000  B=¥14,000 C=¥11,000  D=¥7,000  E=¥6,000
U25シート=¥3,000 SP*=¥21,000
*SP席は1階LRブロックの端寄りのエリアです。舞台に近いお席ですが、演出のため一部見切れがございます。予めご了承の上お求めください。

【西宮・札幌公演】

『バレエ・フォー・ライフ』

10月2日(水)
会場:兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール
お問い合わせ:芸術文化センターチケットオフィス
0798-68-0255 (10:00〜17:00 月曜休み ※祝日の場合翌日)
https://www.gcenter-hyogo.jp/

10月6日(日)
会場:札幌文化芸術劇場hitaru
お問い合わせ:道新プレイガイド
0570-00-3871 (10:00〜17:00 日曜定休)
https://doshin-playguide.jp/