例年にも増しての暑さが続く夏もヤマを越える(であろう)8月末、東京バレエ団は"誕生日"を迎えます。今年は記念すべき60年! 祝祭ガラ〈ダイヤモンド・セレブレーション〉は、ゆかりの振付家の作品から、"今"の東京バレエ団の魅力を凝縮したラインナップとなっています。本公演を前に、舞踊評論家の高橋森彦さん紹介による東京バレエ団のあゆみからうかがい知る振付家や作品との縁が、60年という歴史を支え、発展をもたらしてきたことは、バレエ・ファンにとって感慨深いもの!
東京バレエ団は本年2024年、創立60周年を迎えた。東京五輪(第18回オリンピック競技大会)が催された1964年(昭和39年)8月30日に創立され、高度経済成長期を駆け抜けるように飛躍し、昭和から平成、令和と時代が変わっても発展を続ける。
東京バレエ団の前身は、1960年に開校したチャイコフスキー記念東京バレエ学校である。ソビエト連邦(当時)から教師を招いて専門教育を行った同校において、多くの踊り手が学び育った。惜しくも4年で閉校するが、当時オペラを中心に舞台監督をしていた佐々木忠次(2016年没)が代表となり、旧バレエ学校の遺産を継いで東京バレエ団を創立した。
後年"日本のディアギレフ"と称される佐々木は、創立当初から海外に目を向けた。コール・ド・バレエ(群舞)に力を入れ、アンサンブルの一体感を高めれば、ロシアやヨーロッパの名門に引けを取らない舞台を創ることができると考えたのだ。創立からまもない1966年にソ連で第1次海外公演を行い、ソ連文化省より"チャイコフスキー記念"の冠称を許される。1970年の第2次海外公演ではソ連・ヨーロッパを回り、第8回〈パリ国際ダンスフェスティバル〉の金賞を受賞するなど本場で高評を得る。佐々木は慧眼だった。
1977年「エチュード」初演
Photo: Seiich Hasegawa
1973年、巨匠ジョージ・バランシンの華麗な名作『水晶宮』を導入する。この頃、欧州での長期公演が続き、1979年にはソ連・モスクワのボリショイ劇場においても公演を果たす。国内公演でもマーゴ・フォンテイン、マイヤ・プリセツカヤら世界のスターを招いた。1976年、佐々木がプロデュースした第1回〈世界バレエフェスティバル〉が催されると、東京バレエ団は全幕公演などで活躍した。世界の檜舞台で広く認知されていく時期である。
1979年、ボリショイ劇場における「眠れる森の美女」のカーテンコール
1980年代に入ると、20世紀後半を代表する巨星モーリス・ベジャールとの蜜月が始まり、さらなる躍進を遂げる。1983年の〈ベジャールの夕〉では、『ボレロ』ほかベジャール作品4演目を一挙上演。さらに1986年に世界初演された『ザ・カブキ』が話題を呼び、同年秋にはロイヤル・オペラハウス、ミラノ・スカラ座、ベルリン・ドイツ・オペラ、ウィーン国立歌劇場、パリ・オペラ座など欧州の主だった名門歌劇場を制覇した。文字通り"日本が生んだ世界のバレエ"となったのである。
1986年、『ザ・カブキ』パリ・オペラ座公演
1989年、昭和から平成へと時代が変わるが、躍進は止まらない。ベジャールの『M』(1993年)などに加え、ジョン・ノイ マイヤーの『月に寄せる七つの俳句』(1989年)、『時節の色』(2000年)、イリ・キリアンの『パーフェクト・コンセプション』(1994年)という当代一流の名匠による世界初演作品を連打し、輝かしい歴史を築き上げていくのである。
2019年、平成から令和に元号が変わった。それから程なくパンデミックに襲われ、一時は世界中の劇場が閉鎖されたが、東京バレエ団はいち早く活動を再開。2023年には4年ぶりの海外公演としてオーストラリアのメルボルンで『ジゼル』全幕を上演した(海外公演は現在までに33カ国156都市786回)。また、2019年には国際的に活躍する勅使川原三郎の『雲のなごり』を初演し、2023年にはベジャール、キリアンの薫陶を受けた金森穣に委嘱した『かぐや姫』を全幕初演。創造面において、日本からの発信にも力を入れ新局面を迎えた。
このたびの創立60周年祝祭ガラ〈ダイヤモンド・セレブレーション〉は、東京バレエ団の栄光の軌跡が詰まったラインナップであるとともに、現代のバレエの流れを体感できる。
『エチュード』
Photo: Kiyonori Hasegawa
ハラルド・ランダー振付『エチュード』(東京バレエ団初演:1977年)は、バレエのレッスンを扱い、息もつかせぬ展開と究極の舞踊美で魅せる。世界トップクラスのバレエ団にふさわしい傑作で、高度なテクニックの応酬と、お家芸であるアンサンブルの妙を堪能したい。
『ボレロ』
Photo: Shoko Matsuhashi
言わずと知れたベジャールの代表作の一つ『ボレロ』(東京バレエ団初演:1982年)では、ラヴェルの同題曲とともに高揚感にあふれた儀式空間を立ち上げる。同じくベジャールの『バクチⅢ」※9/1(日)上演(東京バレエ団初演:2000年)は、インドのヒンズー教に取材した、シヴァ神と妻シャクティによる魅惑的な踊りである。
『ドリーム・タイム』
photo: Kiyonori Hasegawa
キリアンの『ドリーム・タイム』(東京バレエ団初演:2000年)では、武満徹に委嘱した音楽を使い、オーストラリアの先住民族アボリジニの伝承に想を得た神秘的世界が浮上する。ノイマイヤー振付『スプリング・アンド・フォール』よりパ・ド・ドゥでは、ドヴォルザークの名曲にのせた情感豊かな踊りが胸に迫る。金森穣の『かぐや姫』よりパ・ド・ドゥ ※8/31(土)上演(東京バレエ団初演:2023年)は、劇的なファンタジーの名場面だ。
『かぐや姫』よりパ・ド・ドゥ
Photo: Shoko Matsuhashi
東京バレエ団がいかに多彩なレパートリーを誇るか、いかに長年世界の高みで勝負しているかを実感できるだろう。一段と充実をみせるダンサーたちにも注目したい。60年を盛大に祝うと同時に、さらなる飛翔に向けて新出発を飾る記念碑的な公演となるに違いない。
高橋 森彦(舞踊評論家)
2024年
8月31日(土)15:00
9月1日(日)14:00
会場:NHKホール(渋谷)
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
S=¥14,500 A=¥12,000 B=¥9,000
C=¥7,000 D=¥5,000 E=¥3,000
U25シート=¥2,000
*ペア割引[S,A,B席]あり
*親子割引[S,A,B席]あり
[予定される演目・出演者]
『エチュード』
秋山 瑛、宮川 新大、秋元 康臣(ゲスト)(8/31)
秋山 瑛、宮川 新大、池本 祥真(9/1)
『ボレロ』
メロディ:上野 水香(ゲスト・プリンシパル)
『バクチⅢ』※9/1(日)上演
シャクティ:伝田 陽美
シヴァ:柄本 弾
『ドリーム・タイム』
沖 香菜子、金子 仁美、三雲 友里加、宮川 新大、岡崎 隼也
『スプリング・アンド・フォール』よりパ・ド・ドゥ
足立 真里亜、大塚 卓(8/31)
沖 香菜子、秋元 康臣(ゲスト)(9/1)
『かぐや姫』よりパ・ド・ドゥ ※8/31(土)上演
かぐや姫:秋山 瑛道児:柄本 弾