2024/09/18(水)Vol.502
2024/09/18(水) | |
2024年09月18日号 | |
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シュツットガルト・バレエ団バレエ |
Photo: Shoko Matsuhashi
11月の日本公演に向けて、主要ダンサーのインタビューをご紹介するシリーズ、トップを飾るのは名実ともにシュツットガルト・バレエ団のトップ・スターのフリーデマン・フォーゲル! フリーライターの小田島久恵さんによるインタビューです。
シュツットガルト・バレエ団の看板スターとして重要な役を踊り続け、世界中のバレエファンから熱烈な支持を集めるフリーデマン・フォーゲル。カンパニー在籍25周年となる2024年7月には、シュツットガルト市で彼を祝福する特別公演が行われ、ジョン・クランコ賞の栄誉にも輝いた。11月の引っ越し公演では今や当たり役となった『オネーギン』のタイトルロールと、ノイマイヤーがシュツットガルト・バレエ団のために46年前に振付けた『椿姫』のアルマンを踊る。2022年に予定されていた日本公演がコロナ禍で縮小されたガラ公演に変更されたため、カンパニー総出演の全幕物の上演は6年ぶり。世界バレエフェスティバルで来日したフリーデマンにダンサーとしての現在の心境などを聞いた。
――今年でカンパニー在籍25周年になるのですね。
フォーゲル:カンパニーは家族のような存在で、ビジネスとかそういうものではなく、色々な感情を共有し、信頼を重ねてきた大切な存在です。このファミリーの一員であることをとても誇りに思っています。シュツットガルトという街は、ジョン・クランコがやってくるまでバレエ界のレーダーにも引っかからない状況で、ロンドンやパリやニューヨークやモスクワやサンクトペテルブルクに比べたら村のような場所だったわけです。クランコ以降、バレエの世界でも人々が必ず通る道になった、その道を劇場や街が作ったと思いますし、今ではアーティストにインスピレーションを与える街になったと思います。
――シュツットガルト・バレエ団の一番の特徴とはどんなところでしょう?
フォーゲル:真実味がある、ということが特徴のひとつだと思っています。ダンサーとして舞台に立つと、何も隠せなくなってしまうんですね。中身も全部さらけ出さなければならないし、全部見透かされてしまう。舞台にいるアーティストの人間性を、そのまま見せるバレエ団だと思います。今ちょうどオリンピックが開催されていますが(取材時)、オリンピック競技とダンスは絶対に比較できないものです。ダンスは物語を紡いで、お客さまと物語をシェアするもので、勝ち負けではなく、ステージの前方まで歩いていくその動作だけで感動してもらえることもあるんです。そこで重要になってくるのが真実味で、クランコのバレエは一人ひとりのダンサーの人間らしさを見せることが最大の特徴だと思います。
――クランコの『オネーギン』はまさにそういう作品ですね。オネーギンは複雑な内面をもつ役ですが、毎回どのように準備していますか?
フォーゲル:常に自分を発展させていこうと高みを目指しているので、次がどういうダンスになるかは私自身もまだ分からないのです。同じことのリピートはしたくないと思っていますし、来日公演でも新たなやり方でお客さまやキャストとの対話をしていくと思います。バレエ以外の人生の中でも色々豊かな刺激を受けることもあるので、そういう意味でも毎回どのようになるか、自分でも想像できないのです。
――前回の来日公演では(アリシア・)アマトリアンさんが相手役で、今回は(エリサ・)バデネスさんになりますね。
フォーゲル:パートナーシップに関して申し上げますと、一番大事なのはお互いを感じるということだと思います。信頼を築き、互いに繊細に接するということが大事です。私が初日に緊張していたら向こうがそれを察して落ち着かせてくれることもあるだろうし、相手の方が何かすごく強い感情を持ってアプローチしてきたときは、その感情が落ち着くのを見守ることも大事です。そういうふうに補い合うことによって、芸術が完成していくのです。
――『椿姫』はどうでしょう。世界バレエフェスティバルのハイライトでは第1幕のパ・ド・ドゥが素晴らしかったです。
フォーゲル:『椿姫』には「白のパ・ド・ドゥ」と「黒のパ・ド・ドゥ」と、私が踊った「紫のパ・ド・ドゥ」があって、今回のようなガラ公演ではマルグリットとアルマンが出会ったばかりの「紫」がとてもいいと思ったのです。二人が初めて近づいていく初々しいエネルギーとか、はじけるバブルのような、キラキラした感覚があります。全幕作品の予告として、理想的なパ・ド・ドゥです。
――そのパ・ド・ドゥでのアルマンが驚くほど若々しくて、床に勢いよく倒れこむ動きなど大変パワフルで驚かされました。舞台では20代に見えますが、若さを保つという点でライフスタイル的な配慮などはありますか?
フォーゲル:特に何もないですけど、長年踊ってきて気づいたことは、私自身働くことが好きで、踊り続けることが好きなんです。人からは「もう少し休んだ方がいいんじゃない?」と言われるんですが、逆に休まず踊り続ける方が調子がいいと、長年の経験で分かってきました。3時間踊っていて、その中で色んな感情を経験して、いろんな場面が自分の身体を駆け巡ることで、もしかしたらホルモンが活性化して、体温などに変化をもたらしてくれるのではないでしょうか。自分にとってもセラピーとなって、健康を維持してくれるように感じています。
――なるほど。フリーデマンさんは振付も手掛けていて、Youtubeで『Not in my hands』というソロ作品を拝見したのですが、何か究極の感情を表現されているように感じました。
フォーゲル:あの作品を作ったのはコロナ禍で大変苦しい時期でした。ロックダウンで2年近くパフォーマンス出来ない期間だったことは皆さんもご存じだと思います。母を亡くし、自分自身もコロナに罹って、そのときの色々な感情があのダンスに投影されています。「自分でコントロール出来るものは実際にあまり多くない」ということに気づいたのです。そのあとは、自分の動きの癖が振付にならないように、パートナーと組んで、客観的な振付に作り上げていきました。
――そうだったのですね。カンパニーにおいてはますます中心的な存在になっていますが、入団した25年前と一番変化したことはどんなことでしょう。
フォーゲル:指導者やディレクターは準備の段階で大きな支えですが、ステージに立つと我々ダンサーがカンパニーの顔になるというか、カンパニーのヴィジョンやスピリットを伝導する媒体になります。そして、私自身がパーフェクトな演技を見せたとしても、同じ舞台に立っている皆がついてきてくれないと意味がなくなってしまう。ダンサー同士の対話をお客さまに伝えることが大事ですし、指導者やディレクターのスピリットをお客さまに繋ぐことが重要なんだと気づくようになりました。
――『オネーギン』と『椿姫』を楽しみにしています。
フォーゲル:第3幕でのオネーギンの風貌については、時間の経過を見せていくために年をとったヘアメイクをしていますが、白髪や皺が多すぎるのではないかとコスチュームとセットのスタッフと話していて、少し変えていくかもしれません。ラストシーンでもう一度懐かしい家に入っていく場面では、昔の匂いを嗅いだり色々な物を見てフラッシュバックが起こるわけですが、人生では少なからずそういう経験をすることもあり、自然と演技に反映出来ていくこともあるかもしれません。第3幕ではそのようなことを表現したいと思っています。
取材・文 小田島久恵 フリーライター
11月2日(土)14:00
11月3日(日・祝)14:00
11月4日(月・休)14:00
会場:東京文化会館(上野)
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
11月8日(金)18:30
11月9日(土)14:00
11月10日(日)14:00
会場:東京文化会館(上野)
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
[予定される出演者]
『オネーギン』
オネーギン:フリーデマン・フォーゲル(11/2)、 ジェイソン・レイリー(11/3)、 マルティ・パイシャ(11/4)
タチヤーナ:エリサ・バデネス(11/2)、 アンナ・オサチェンコ(11/3)、 ロシオ・アレマン(11/4)
オリガ:マッケンジー・ブラウン(11/2)、 ディアナ・イオネスク(11/3)、 ヴェロニカ・ヴェルテリッチ(11/4)
レンスキー:ガブリエル・フィゲレド(11/2)、 アドナイ・ソアレス・ダ・シルヴァ(11/3)、 ヘンリック・エリクソン(11/4)
グレーミン公爵:ロマン・ノヴィツキー(11/2)、ファビオ・アドリシオ(11/3)、クリーメンス・フルーリッヒ(11/4)
[予定される出演者]
『椿姫』
マルグリット:エリサ・バデネス(11/8)、 アンナ・オサチェンコ(11/9)、 ロシオ・アレマン(11/10)
アルマン:フリーデマン・フォーゲル(11/8)、 デヴィッド・ムーア(11/9)、 マルティ・パイシャ(11/10)
マノン:アグネス・スー(11/8、11/10)、 ヴェロニカ・ヴェルテリッチ(11/9)
デ・グリュー:マッテオ・ミッチーニ(11/8、11/10)、 ガブリエル・フィゲレド(11/9)
プリュダンス:マッケンジー・ブラウン(11/8、11/10)、ダイアナ・ルイズ(11/9)
S=¥26,000 A=¥22,000 B=¥18,000
C=¥15,000 D=¥12,000 E=¥9,000
U25シート=¥5,000