NEW2024/10/02(水)Vol.503
2024/10/02(水) | |
2024年10月02日号 | |
TOPニュース バレエ |
|
シュツットガルト・バレエ団バレエ |
Photo: Shoko Matsuhashi
日本公演を前に、主要ダンサーのインタビューをご紹介するシリーズ2回目は、女性プリンシパルのトップ、エリサ・バデネスに、これまでのキャリアについて、また今回踊る役柄への向き合い方について、フリーライターの小田島久恵さんが聞きました。
シュツットガルト・バレエ団の女性プリンシパルの中でも、テクニックと演劇性を兼ね備えた豊かな表現でカンパニーのメイン・ダンサーのポジションにあるエリサ・バデネス。8月に開催された世界バレエフェスティバルではノイマイヤーの『椿姫』とマクミランの『うたかたの恋』のハイライトをフリーデマン・フォーゲルと演じ、鮮やかなパ・ド・ドゥで女優のような存在感を見せつけた。11月の日本公演では『椿姫』のマルグリットと、クランコの『オネーギン』ではタチヤーナを演じるが、2018年の日本公演での『オネーギン』ではタチヤーナだけでなく陽気で軽率な妹オリガも踊り、正反対の二つの役を見事に演じ分けたのも記憶に新しい。
――『オネーギン』ではこれまで姉と妹の二人のヒロインを演じてきましたね。
バデネス:全く違う視点で二つの役を演じられたのは自分にとってポジティヴな経験でした。私はスペイン出身で根がラテン気質なので、どちらかというと明るくてキラキラした、愛に溢れたオリガに似ていると思いますが、オリガを演じながらタチヤーナを見ていたという経験が、とても役に立ったと思います。今までの視点をぐるっと逆さにして役に挑んだのです。そうすることによって他のダンサーとは全く違うヒロイン像を作れたと思いますし、心を開いて真逆の役に挑んだことで、よりタチヤーナを自分の身体の中に染み込ませることができたんじゃないかと思います。
『オネーギン』より
Photo: Roman Novitzky / Stuttgart Balle
ダンサーとしてはエリートコースを進んできた彼女。2008年にローザンヌ国際バレエコンクールでスカラシップを獲得した後、英国ロイヤル・バレエ学校に入学し、卒業後にシュツットガルト・バレエ団に入団。2013/2014シーズンからプリンシパルとして多彩な役を演じてきた。『眠れる森の美女』のようなクラシックからクランコ、マクミラン、キリアン、フォーサイスやシェルカウイのような現代作品までこなす。
――クラシック以外のレパートリーが多いシュツットガルト・バレエ団を選んだ理由を教えてください。
バデネス:私のキャリアを振り返ってみると、どうしてもここに行きたいとか、こうなりたいというのはなかったんですね。もう川のように流れるように進んでいったという感じです。最初から運命が決まっていて、しかるべきタイミングでしかるべき場所にいたのです。カンパニーには14年在籍していますけど、ここにはバラエティに富んだレパートリーがあり、クラシックだけでないいろいろな作品を踊れるのが自分に合っていると思います。プリンシパルになってから10年が経ちましたが、本当に素晴らしい10年間でした! たくさんのサプライズがあり、とても成長したと思っています。一方で、ずっと自分の中には若い心というものがあって、冒険したい、新しいものに挑戦したい、という気持ちがあります。バレエダンサーの人生って、旅路としてすごくファンタスティックなものだと思っています。
『オネーギン』より
Photo: Roman Novitzky / Stuttgart Balle
――『オネーギン』と『椿姫』の初演を踊ったマリシア・ハイデさんの指導で、特に印象的だったアドバイスなどはありますか?
バデネス:ダンサーが役に対して正直な気持ちで臨むべきだということ。同時に勇気をもって自分のちょっと違う面を見せたり、あとは自分を投影させたり、そういうことを自由にやっていいのだと。もしちょっと逸れてしまったら、マリシアは正しい方向に導いてくれる存在ですし、あとはやっぱりインスピレーションをくれる存在です。
――『椿姫』ではノイマイヤー氏の指導も受けられたのですよね。
バデネス:物語をどう紡いでいくか、どうお客さまに伝えるかということの重要性を教えていただきました。例えばその舞台上で交わされている会話はどのようなものなのか、といったことです。「何もない空間があってもいい」とも仰っていて、踊りが止まってしまうシンプルなモーメントがあってもいいと。実際に起きていることを登場人物たちが解釈する場があってもいい、とも言われていました。
――『椿姫』は全編でショパンの音楽が使われていて、どのシーンも流れています。
バデネス:音楽は第三のパートナー、というふうに呼んでいるんです。音楽があることで対話がなされることもあるんですが、例えば音が無いということも音楽の一部ですよね、それを使うこともアイデアのひとつです。ショパンの音楽はすべて気に入っていますが、マルグリットがアルマンの父親と踊る場面で流れる「雨だれ」が一番好きかも知れません。
『椿姫』より
Photo: Roman Novitzky / Stuttgart Ballet
――相手役はフリーデマン(・フォーゲル)さんですが、世界バレエフェスティバルでの『椿姫』の第1幕のパ・ド・ドゥでは、アルマン役の彼のパワーが凄くて、エリサさんの方が落ち着いて見えました。
バデネス:この二人の役の状況はかなり違うんです。ご存じの通り、こちらはもう病気にかかっていて年も上だけど、向こうはエネルギーに溢れていてドアを開けてやってくるわけです。そして彼女を落としたいという気持ちを持っている。フリーデマンのアプローチは毎回違うので、私も毎回違うことに対応できるよう準備しなければと思っています。
――なるほど。役作りはどのように進めていくのですか?
バデネス:実際に挑む前に原作を読みました。あと、マリシア・ハイデさんが踊っているビデオも観ましたし、稽古が始まってからはいろいろな知識をいろいろな人からいただいて、それを自分の中に入れながら、自分自身のマルグリットを作っていったんです。この役は自分が丸裸にならないとできないのですね。誰かの真似ではなく、(私自身が)なるべくしてなったという存在でなければいけない。役に正直にぶつかっていくしかないんです。
――演じた後はどのような気持ちになりますか?
バデネス:空っぽになっている状態です。本当に感情的にもすべてを絞り出すような役なのですが、そういった感情を生きられることは私にとって喜びだと思っているんです。そういった状態から蘇るには時間を要するのですが、もう毎晩でも演じたいくらいです。
『椿姫』より
Photo: Roman Novitzky / Stuttgart Ballet
――空っぽになった後はどうなるんですか?
バデネス:私の場合は、部屋に戻ってメールを見たり、シャワーを浴びたりして、役を少しずつ自分から取り除いていきます。それが今現在の回復法です。取り除かないと新たに若いエネルギーが生まれる状態からスタートできないので、そうした方法をとっています。
――舞台から離れてご自分をリラックスさせる趣味などはありますか?
バデネス:大学で心理学を学んでいます。舞台から離れて、自分を分析するというか、ファイリングするんです。それを繰り返すことで、見失った自分を取り戻し、また新たな役に挑めるんですね。
Photo: Shoko Matsuhashi
取材・文 小田島久恵 フリーライター
11月2日(土)14:00
11月3日(日・祝)14:00
11月4日(月・休)14:00
会場:東京文化会館(上野)
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
11月8日(金)18:30
11月9日(土)14:00
11月10日(日)14:00
会場:東京文化会館(上野)
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
[予定される出演者]
『オネーギン』
オネーギン:フリーデマン・フォーゲル(11/2)、 ジェイソン・レイリー(11/3)、 マルティ・パイシャ(11/4)
タチヤーナ:エリサ・バデネス(11/2)、 アンナ・オサチェンコ(11/3)、 ロシオ・アレマン(11/4)
オリガ:マッケンジー・ブラウン(11/2)、 ディアナ・イオネスク(11/3)、 ヴェロニカ・ヴェルテリッチ(11/4)
レンスキー:ガブリエル・フィゲレド(11/2)、 アドナイ・ソアレス・ダ・シルヴァ(11/3)、 ヘンリック・エリクソン(11/4)
グレーミン公爵:ロマン・ノヴィツキー(11/2)、ファビオ・アドリシオ(11/3)、クリーメンス・フルーリッヒ(11/4)
[予定される出演者]
『椿姫』
マルグリット:エリサ・バデネス(11/8)、 アンナ・オサチェンコ(11/9)、 ロシオ・アレマン(11/10)
アルマン:フリーデマン・フォーゲル(11/8)、 デヴィッド・ムーア(11/9)、 マルティ・パイシャ(11/10)
マノン:アグネス・スー(11/8、11/10)、 ヴェロニカ・ヴェルテリッチ(11/9)
デ・グリュー:マッテオ・ミッチーニ(11/8、11/10)、 ガブリエル・フィゲレド(11/9)
プリュダンス:マッケンジー・ブラウン(11/8、11/10)、ダイアナ・ルイズ(11/9)
S=¥26,000 A=¥22,000 B=¥18,000
C=¥15,000 D=¥12,000 E=¥9,000
U25シート=¥5,000