精緻なテクニックと美しいスタイルを誇るプリンシパル、宮川新大が、この10月、東京バレエ団の看板レパートリーであるモーリス・ベジャール振付『ザ・カブキ』で、主役の由良之助に初めて挑戦。これまでとは性格が異なる、新たな大役を演じる心境とは。
――今回初めて由良之助を演じます。配役を聞いた時の心境はいかがでしたか?
宮川:主役はいろいろと踊ってきましたが、由良之助はこれまでの役とは違います。特に"大石内蔵助"という歴史上の有名な人物を演じるという面での表現の難しさはあると感じていますが、こればかりは自分で探っていくしかないですね。どの作品でもそうなのですが、その時々のメンバーでしか創れないものがあると感じています。バレエ団のメンバーも変わっていますので、そのような団としての変化もしっかり感じながら由良之助を演じていきたいと思っています。
――日本の伝統的な所作が振付に使われているところなど、バレエ作品として特殊ですよね。
宮川:『ザ・カブキ』は東京バレエ団でしか上演していません。ベジャール作品ではありますが、同時に東京バレエ団だけの作品でもある。ほかのベジャール作品のようにモーリス・ベジャール・バレエ団の映像をみて勉強したり、教えてもらうというわけにはいかないという意味でも、やはり特別なものだと思いますので、作品に真摯に向き合い、これまでの東京バレエ団の歴史で培われてきた伝統をしっかりと継承していかなければならないと感じています。
――東京バレエ団は、ウィーン国立歌劇場やミラノ・スカラ座という海外の有名歌劇場でもこの作品を披露していますが、今回は久しぶりに国内での上演です。
宮川:意外と海外の方のほうが日本の歴史や伝統に詳しかったりするんですよ。「そこまで知っているのか!?」と驚くと同時に、僕らの知識量が少ないな......と痛感することも。今の日本では"忠臣蔵"の世界について詳しい方々が減ってきていると思いますので、歴史や歌舞伎を知らない方や『ザ・カブキ』を初めて観る方にも物語が伝わるようにしっかりと演じていきたいですね。
2019年、ウイーン国立歌劇場公演のカーテンコール
Photo: Alexey Semenov
――この作品では男性ダンサーが大活躍します。由良之助の7分半にもおよぶ長大なソロ、そして男性群舞も大きな見せ場です。
宮川:これまでも体力的に辛い作品はいくつも踊ってきましたが、はたして断トツできつい作品になるのか、それとも何番目かにきつい作品になるのか......(笑)。振り返ると、全幕を通してきつかったのは『ラ・シルフィード』のジェイムズ。由良之助に関しては7分半の"決意のヴァリエーション"もありますし、討ち入りまでしっかり体力をもたせなければいけないので心配ではあります(笑)。
そして男性の群舞がこれだけ活躍する作品というのはほかにないですね。例えば『白鳥の湖』では群舞の女性ダンサーたちが主役(オデット)を支えるわけですが、由良之助の場合は、全員が彼についていくイメージ。強いパワーと情熱がなければ皆ついてきてくれません。背中で語り、気迫をもって物語を伝えていかなければ。
Photo: Shoko Matsuhashi
僕は由良之助を、オーケストラでいう指揮者のような存在だと思っていて、指揮者がちゃんと機能しなければどんなに優秀な奏者が集まっていても優れたオーケストラとしては機能しない、伝わるものも伝わらなくなってしまうと思うんです。クラシックの作品とベジャールの作品での主役は性質が違いますし、その点はリハーサルで探り、さらに深めていきたいところです。単純にひとつの作品の主役を演じるというのでなく、まったく違う気持ちで向き合っていきたいと思っています。
――ずばり、『ザ・カブキ』のいちばんの見せ場はどこだと思いますか。
宮川:やはり討ち入りの場面でしょう!! 男性ダンサーがここまで見せ場をさらっていくのは『ザ・カブキ』ならではですから、初めて観る方は驚くのではないでしょうか。この討ち入りのために第六場に由良之助の"決意"があり、他の役のそれぞれのストーリーがあり、最後に結実する。僕(由良之助)としては、全幕を通して物語の運びをお客さまに観ていただきたいし、またしっかりと伝えられるように役を生きたいと思います。
Photo: Kiyonori Hasegawa
――どんな由良之助を演じたいですか。
宮川:ベジャールの作品は、題材や主題が古典バレエとかけ離れていてもベースになるのはクラシックなので、そこは自分の持ち味が出せるところかなと思います。ただ、クラシック・バレエの動きに寄りすぎてもダメだし、気迫だけでもっていくのも違うと思うので、基本の動きは崩さず、自分ならではの味をプラスアルファで加えていけたら。僕の由良之助は、おそらく歴代の由良之助とは違うタイプになると思います。僕ならではの由良之助をお見せできたらと思います!
第九場「討ち入り」より、ヴァリエーション2
Photo: Kiyonori Hasegawa
10月12日(土)14:00
10月13日(日)14:00
10月14日(月・祝)13:00
会場:東京文化会館(上野)
※音楽は特別録音による音源を使用します。
S=¥14,500 A=¥12,000 B=¥9,000
C=¥7,000 D=¥5,000 E=¥3,000
U25シート=¥2,000
*ペア割引[S,A,B席]あり
*親子割引[S,A,B席]あり
[予定される主な出演者]
由良之助:柄本 弾(10/12)、秋元 康臣[ゲスト](10/13)、宮川 新大(10/14)
顔世御前:上野 水香[ゲスト・プリンシパル](10/12)、榊 優美枝(10/13)、 金子 仁美(10/14)
おかる:沖 香菜子(10/12)、足立 真里亜(10/13)、秋山 瑛(10/14)
勘平:池本 祥真(10/12)、樋口 祐輝(10/13)、大塚 卓(10/14)
10月18日(金)18:30
会場:高槻城公園芸術文化劇場 南館 トリシマホール
[予定される主な出演者]
由良之助:柄本 弾
顔世御前:上野 水香[ゲスト・プリンシパル]
おかる:沖 香菜子
勘平:池本 祥真
S=¥12,000 A=¥10,000 B=¥8,000
C=¥5,000