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2024/11/06(水)Vol.505

イタリア・ツアーにまもなく出発! 
東京バレエ団『春の祭典』『小さな死』リハーサルレポート
2024/11/06(水)
2024年11月06日号
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バレエ

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イタリア・ツアーにまもなく出発! 
東京バレエ団『春の祭典』『小さな死』リハーサルレポート

11月8日、イタリアの4都市──カリアリ、バーリ、ボローニャ、リミニを約1カ月の旅程で巡る〈第36次海外公演─イタリア〉へと出発する東京バレエ団。日本のバレエ団の中で唯一、創立まもなくから海外公演を積極的に行ってきた実績は、ヨーロッパを中心に33カ国156都市において通算786回に及び、国外で最も名を知られている日本のバレエ団といえます。10月、『ザ・カブキ』公演の直後から休む間もなくスタートした、ツアーのリハーサルの様子をご紹介します。

カリアリ歌劇場
バーリ ペトゥルッツェッリ劇場
photo: Clarissa Lapolla

今回東京バレエ団が携えていく演目は、古典バレエ マカロワ版『ラ・バヤデール』第2幕"影の王国"、巨匠モーリス・ベジャールの代表作『春の祭典』と『ロミオとジュリエット』パ・ド・ドゥ、そしてイリ・キリアンの珠玉の2作、『小さな死』と『ドリーム・タイム』。全部で5つの作品を開催地ごとの組み合わせで披露する、合計13回の公演が予定されています。

ジル・ロマンが熱血指導、モーリス・ベジャールの『春の祭典』

『春の祭典』は、東京バレエ団の海外公演において、最も上演回数の多い作品で、これまで138回を数えます。ちなみに2番目は118回の『ザ・カブキ』、3番目は111回の『ボレロ』。ベジャール作品はまさに海外公演の主力です。海外ツアーでの『春の祭典』の上演は2019年以来となり、その指導のため元モーリス・ベジャール・バレエ団芸術監督のジル・ロマンが来日しました。

1階が事務所、2階が大スタジオとなっている東京バレエ団で、天井からドスンドスンという力強い音が事務所に響き渡るのが『春の祭典』の男性パート──春の目覚めとともに、生物の本能的な闘争心を目覚めさせていく雄たちのダンスです。ストラヴィンスキーの音楽の変則的で力強いリズムとともに、"2人のリーダー"、"2人の若者"を筆頭にした男性ダンサーたちのパワーみなぎる動きが繰り広げられ、振付を通した後には、スタジオの端にダンサーたちが倒れ込むほどの激しさです。

リハーサルでは、ジル・ロマンが指を鳴らしてリズムをとりながら動きを確認し、ダンサーたちのポジションやポーズ、音の取り方やアクセントをつけるタイミングを修正していきます。ときには自らやってみせる、その誰よりも的確で美しい形を、ダンサーたちが注視。パワフルな動きの連なりの要所に、鋭いアクセントが施されると、たちまちインパクトが増すのが分かります。

ロマンの指導は振付の意味にまで踏み込みます。戦いの中で相手を攻撃する、自分を守る、そうした本能が振付と結びついていること。また、雄たちと雌たちの出会いでは、雌が雄を拒絶しながらも、本能では求める二律背反の動きであることを指摘。振付に意味が加わると、生身の血の通ったダンスが立ち現れていきます。「ポジションやポーズが正しければ音楽性も正しくなる。それを身に付ければダンサーは舞台で自分を解放できて、表現者としての自分を生きることができるのです」(ジル・ロマン)

エルケ・シェパーズが指導する、緻密で繊細な『小さな死』

イリ・キリアン振付の『小さな死』は、モーツァルトの有名なピアノ協奏曲を使用した、巨匠キリアン1990年代の「ブラック・アンド・ホワイト」と呼ばれる時代の傑作です。音楽に共振し繊細に反応しながら、男女ペアの四肢が変幻自在に形を変えていく。流麗な動きの流れと造形美が、目を喜ばせ感受性を刺激する珠玉のバレエです。

エルケ・シェパーズは2017年の東京バレエ団初演時から指導。キリアンが芸術監督を務めた時代のネザーランド・ダンス・シアターで活躍し、『小さな死』の初演ダンサーも務めました。同作は東京バレエ団の今回初めての海外上演となることから、同じキリアン作『ドリーム・タイム』とともに出発の間際まで磨き上げられていきます。

エルケ・シェパーズによるリハーサルの様子

『小さな死』の冒頭は無音の男性パート。それぞれがフェンシングの剣を人差し指一本で支えながら後ろ向きに登場するという離れ業が、舞台に研ぎ澄まされた緊張をもたらします。剣を手に持ち替えて振って下ろすと、それを床の上で精確にひと回しして足ですくい上げ、剣のしなりを使いながら身体と戯れさせる。やがてささやくようなピアノの演奏が始まり、男性たちが大きな布を波打たせて翻すと、それぞれにペアとなる女性たちが現れて......。

流れるようなムーヴメントと、震えるように挿入されるアクセント。キリアンの振付といえば緻密で繊細な音楽性が特徴ですが、6組のペアが踊る密度の濃い振付の微細なポジションを、シェパーズが次々と修正していくのに驚かされます。いったい幾つの目を持っているのでしょう。床との接触の仕方、回転、ポーズ。「勢いで動くのではなく、呼吸で動く」(シェパーズ)ことが、なめらかな動きと緻密なパートナリングをもたらす秘訣です。

「小さな死」のリハーサルの様子

同時並行して他のスタジオでは『ラ・バヤデール』"影の王国"、ベジャールの『ロミオとジュリエット』パ・ド・ドゥのリハーサルも行われ、11月8日の出発直前までブラッシュアップが続きます。ミラノ・スカラ座をはじめイタリア各地の劇場にたびたび客演している、お馴染みの東京バレエ団が、同地で熱狂に包まれる旅がもうすぐ始まります。

*イタリア・ツアーの様子は次号以降、ご紹介していきます。