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バーリ、ペトルツェッリ歌劇場でのカーテンコール<br>Photo: Clarissa Lapolla

2024/12/04(水)Vol.507

東京バレエ団〈第36次海外公演─イタリア〉
ツアー・レポート
2024/12/04(水)
2024年12月04日号
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バーリ、ペトルツェッリ歌劇場でのカーテンコール
Photo: Clarissa Lapolla

東京バレエ団〈第36次海外公演─イタリア〉
ツアー・レポート

コロナ禍を経て5年ぶりの東京バレエ団欧州ツアーはイタリア4都市。公演は連日、完売の盛況が続き、「日本の有名なバレエ団が偉大な巨匠たちの作品とともに感動に満ちた一夜を演出した」とメディアでも絶賛された第36次海外公演。ツアーに同行しているオペラ演出家の田口道子さんが、ツアー前半のカリアリとバーリの様子をレポートしてくれました。

東京バレエ団がイタリア・ツアーをしている。コロナ禍でしばらく海外ツアーが実現しなかったが、昨年のオーストラリアに次いで今年は5年ぶりのヨーロッパだ。11月7日から29日までサルデーニャ島のカリアリから始まってプーリア州のバーリ、エミリア・ロマーニャ州のボローニャとリミニの4都市を回る22日間に13回の公演が行われる。

"再来"の地カリアリ

最初の公演地から同行している私は、ダンサーよりも一足早く到着したテクニカルスタッフとカリアリの空港で合流した。私はミラノから出発したのだが、今年は久しぶりに濃い霧が発生したために飛行機は大幅に遅れて到着した。ところが、カリアリは快晴。気温も24度と汗ばむ暑さで、真冬の寒さのミラノとは別世界だった。

東京バレエ団は2016年にもカリアリで公演している。前回の公演は大成功を収め、覚えている観客も多くて今回の最後の公演日はすでにチケットが売り切れていた。

カリアリのプログラムは『ラ・バヤデール』第2幕"影の王国"、『小さな死』、『春の祭典』の3作品が上演された。舞台の仕込みが終わった9日にダンサーが到着し、翌日からクラスとリハーサルが始まった。10日のゲネプロには現地の高校生とバレエ学校の生徒が招かれた。客席を埋めた生徒たちは歓声をあげながら盛大な拍手を送っていた。

カリアリでは現地の学生を招いて公開リハーサルが行われた
Photo: NBS

ここでの公演はポール・マーフィー指揮のカリアリ歌劇場オーケストラが演奏。このオーケストラはオペラ公演ばかりでなくコンサート活動も盛んで、高い評価を得ている。モーツァルトのピアノ協奏曲もストラヴィンスキーの春の祭典も生の演奏は素晴らしかったが、何よりも、イタリア人の音楽家たちと日本人のダンサーたちとが共演したことが感動的だった。

カリアリ歌劇場の総裁は東京バレエ団のレベルの高さに圧倒された様子だった。

カリアリ歌劇場でのカーテンコール
Photo: Marco Ciampelli

初日はオペラの定期会員のための公演だったので、観客の年齢層が高く、空席もあったが、2回目の公演からは回を重ねるごとに観客が増えて、毎回大きな拍手を浴びて無事に7回の公演を終えることが出来た。ところが、裏では問題が起こっていた。最終日は舞台装置をばらしてから衣裳や装置や床に敷くリノリウムなどを本土から迎えに来るトラックに積み込んで次の公演地バーリに送らなければならなかった。ところが、前夜トラックを乗せてリヴォルノ港から出港するはずだったフェリーは強風で海が大荒れだったために出港できなくなってしまったのだ。仕方なくトラックの到着を翌日まで待つことにして、バレエ団一行は翌朝早くバーリに向けて出発した。さて、トラックは12mの大型である。地中海側のチヴィタヴェッキア港からアドリア海側のバーリまでイタリア半島の南を450㎞横断しなければならない。トラックが到着しなければ舞台の仕込みは完成しないのだ。テクニカルスタッフたちは不安を募らせながらトラックの到着を待った。トラックが着いたのは午後8時近かった。12時間の遅れを取り戻さなければならいスタッフたちは必死で荷下ろしを手伝い、翌朝から仕込みを完成させた。その働きぶりにイタリア人のスタッフたちは感服していた。

地中海を臨むカリアリ
Photo: NBS

チケット完売と歓声に迎えられたバーリ

バーリでのプログラムは『ドリームタイム』、『ロミオとジュリエット』、『春の祭典』で、18日から24日までの6日間の間に4公演を行った。ここからは録音での上演なので音響スタッフが加わった。

左:ペトゥルツェッリ歌劇場
右:TUTTO ESAURITO(完売)と表示された東京バレエ団公演のポスター

『ロミオとジュリエット』
Photo: Clarissa Lapolla
『春の祭典』
Photo: Clarissa Lapolla

バーリもまた海の町だ。ペトゥルツェッリ歌劇場はイタリアで4番目の規模の由緒ある劇場である。1898年に大商人だったペトゥルツェッリ家が私財を投入して建立した伝統的な馬蹄形の歌劇場で、フレスコ画のフォアイエと廊下は純金で飾られ絢爛豪華だ。1991年に倉庫から発生した火災で舞台と客席は焼けてしまったのだが、客席の上の丸天井が落ちて火を消し、奇跡的にフォアイエは救われたそうだ。後に放火だと分かったため、検証や調査で多くの時間がかかり、修復されてオープンしたのは18年後の2009年だった。

フレスコ画で飾られたペトゥルツェッリ歌劇場ホワイエ

ここでも連日チケットは完売し、観客は歓声をあげて大喝采だった。4回の公演を成功させて、25日バレエ団は次の公演地ボローニャへとバスで移動した。残すところあと2回の公演でイタリアツアーは終わる。団員は世代交代して若くなっているが、どの上演も素晴らしく、今回も東京バレエ団一行は誇り高く帰国することだろう。

バーリにて
Photo: NBS

取材・文 田口道子

東京バレエ団〈第36次海外公演─イタリア〉は、「文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(国際芸術交流))|独立行政法人日本芸術文化振興会」の助成を受け、株式会社木下グループの支援のもと、イタリアの4都市を約1か月の旅程で巡り、合計13回の公演を行います。このツアー全体が終わった時点で、東京バレエ団の海外公演は33か国158都市、通算799回の公演を達成することになります。