2025/03/19(水)Vol.514
| 2025/03/19(水) | |
| 2025年03月19日号 | |
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| オーストラリア・バレエ団バレエ |
Photo: Pierre Toussaint
オーストラリア・バレエ団2025年日本公演で上演されるヌレエフ版『ドン・キホーテ』でキトリを演じる近藤亜香は、2015年に昇進した初の日本人プリンシパル。オーストラリア・バレエ団を担う一人として活躍しています。ダンス評論家の上野房子さんによるインタビューでは、中学1年生のときにはすでにバレエを仕事にしたいと思っていたこと、プリンシパルとして感じる責任、ヌレエフ版『ドン・キホーテ』の魅力、シルヴィ・ギエムに指導を受けた時の様子などを語ってくれました。
――近藤さんのオーストラリアでのキャリアは、2007年に若手の登竜門〈ユース・アメリカ・グランプリ(YAGP)〉でスカラシップを獲得、オーストラリア・バレエ学校に入学したことから始まりました。
近藤:中学1年生の時、バレエを仕事にしたいと思うようになりました。でも学校の空き時間にしか練習できない現実に突き当たり、相談したバレエの先生から、海外のバレエ学校のスカラシップが出るコンクールに出ることを勧められました。YAGP初出場の時は決戦に進めませんでしたが、高校2年生だった3年目にスカラシップを頂けました。また落選したら違う道を考えなくてはいけないのかな、というタイミングでした。
――2010年オーストラリア・バレエ団(TAB)に入団、中学生以来の目標を実現させました。
近藤:入団1年目は必死でした。公演が年間百数十回もあるスケジュールについていくのが大変で、レパートリーは古典バレエだけでなく、コンテンポラリーもあり、毎日がチャレンジでした。
――そして2015年にプリンシパルに昇進。初の日本人プリンシパルであることは、意識していましたか。
近藤:昇進した後に知り、日本やオーストラリアで勉強している若い世代に希望を与えられたのかな、と昇進の意義を感じました。自分自身のいちばんの変化は、責任の大きさです。プリンシパルなったら上手に踊れて当たり前、さらに自分の個性を出し、レベルアップしなくてはいけない。プレッシャーも大きくなり、悩んだ時期もありましたが、経験を積んだ今は、私は私なりに、というスタンスでやっています。
――日本公演の演目はルドルフ・ヌレエフ版『ドン・キホーテ』です。キトリを演じる近藤さんの目から見たこの作品の魅力とは?
近藤:70年代の映像から再現した美術が素晴らしい! 舞台装置を初めて間近で見た時、スケールの大きさにウワーっと声を出してしまいました。衣裳は色鮮やかでポップ。振付はヌレエフ特有の激しく踊る場面が多く、キトリとバジルも競い合うように踊って舞台を盛り上げます。色々な『ドン・キホーテ』のなかで、ヌレエフ版はいっちばん(力を込めて)キツイです。でも踊っていて楽しくて興奮しますし、お客さんにも楽しんでいただける作品だと思います。
――2023年の新制作時に、シルヴィ・ギエムさんがプリンシパルのコーチを務めています。
近藤:偉大なるシルヴィ様が来る、彼女、コーチングをしたことがない、どんな人なんだろう。私達にとっては未知の世界だったので、みんな緊張していました。
――"シルヴィ様"?
近藤:本人の前ではシルヴィと呼んでいましたけれど、日本語で話す時は、ついシルヴィ様と呼んでしまいます。シルヴィがコーチなのだということを頭では分かっていても、彼女のお手本が素晴らしく、歩いているだけでも目を奪われる。やはり偉大なバレリーナなのですね。
――"シルヴィ様"とのリハーサルの様子を教えてください。
近藤:テクニックの先にある芸術面をていねいに指導してもらいました。たとえば、あなたのやり方では、キトリとバジルの関係性がお客さんに伝わりにくいかもしれない、こうしてみるのはどうかしら、という提案をしながら、一緒に役を作る過程を踏んでくれるんです。印象的だったのは、誰かになろうとしないで、亜香は自分のままで良いの、と言われたこと。ふだんの生活でどういう表情をしているの?どんな動作をしているの?と訊かれたこともあります。私、キトリになろうとして、胸を張ったり、手を大きく使ったりしていたんですね。彼女との3週間のリハーサルは、私の財産です。これまで以上にバレエが好きになり、バレエへの情熱が深まりました。彼女は素晴らしい人、素晴らしいコーチです。
――日本公演の『ドン・キホーテ』で共演するチェンウ・グォさんは、近藤さんの公私のパートナーで、3年前にはお子さんが誕生したそうですね。TABは本拠地メルボルンだけでなく、シドニーでも定期シーズンを行う多忙なバレエ団です。どのようにキャリアと家族との生活を両立させているのですか。
近藤:息子は1歳になる前に保育園に入れ、メルボルンに住んでいる夫の両親の力を借りることもあります。シドニー・シーズンの時には、夫の車に引っ越しのように荷物を積んで9時間かけて移動し、TABが用意した長期滞在用のアパートで生活します。息子はシドニーの保育園に転園です。移動は毎シーズンのことなので、TABのダンサーは当たり前のことだと受け止めています。
――ホールバーグさんによると、TABはとても面倒見の良いバレエ団だそうですが、出産時にはどのようなサポートを受けましたか。
近藤:TABのサポート体制はしっかりしていて、世界一と言いたいです。妊娠中に〈アーティスティック・ヘルス・チーム〉(理学療法士や栄養士、医師、スポーツ心理学者などが所属し、ダンサーの健康管理やリハビリもサポートする)のスタッフと相談し、舞台復帰のプランを立てました。この時期はピラティスをやって、この時期にはプライベートのコーチング、ここからリハーサルを始めよう、という具合に。私は出産の7カ月後にに復帰しましたが、ビクトリア州から18週、TABから23週の産休をもらえ、延長も可能です。 TABは出産をバレリーナの心と体の問題ととらえていますから。子育て中のダンサーに対しても大らかで、何か事情があって子供をレッスンに連れていっても、誰も嫌な顔をしません。素晴らしい組織なんです。
――ホールバーグさんが芸術監督に就任した後、TABにどのような変化がありましたか。
近藤:経験豊かで知名度のあるデヴィッドが芸術監督になった結果、上演するレパートリーの幅が広がりました。シルヴィ・ギエムのようなゲストコーチを迎えることにもなりました。デヴィッドはつい最近まで現役ダンサーだったので、私達の上に立つボスというよりも、私達の気持ちを理解し、寄り添ってくれる存在です。時間がある時にはリハーサルやレッスンに立ち会い、たとえば腕を上げるタイミングやスピードといった、ほんとうに細かいことを指摘してくれる。実際に踊りの見え方が変わり、テクニック、表現力が磨かれ、バレエ団全体のレベルが上がっていきました。日本公演で、デヴィッド・ホールバーグ率いる新生オーストラリア・バレエ団をぜひご覧ください!
取材・文 上野房子(ダンス評論家)
5月30日(金) 18:30
5月31日(土) 12:30
5月31日(土) 18:30
6月1日(日) 12:00
会場:東京文化会館(上野)
指揮:ジョナサン・ロー
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
S=¥24,000 A=¥21,000 B=¥18,000
C=¥15,000 D=¥12,000 E=¥9,000
U25シート=¥4,000
[予定される主な出演者]
キトリ:近藤 亜香(5/30, 6/1)、 ベネディクト・ベメ(5/31昼)、 ジル・オーガイ(5/31夜)
バジル:チェンウ・グオ(5/30, 6/1)、ジョセフ・ケイリー(5/31昼)、マーカス・モレリ(5/31夜)