2023年に創立60周年記念シリーズとしてニュープロダクションとして初演された東京バレエ団の『眠れる森の美女』。4月の再演に向けての準備が進んでいます。新制作同様、いえ、再演でのさらなる充実を目指していることがうかがわれる斎藤友佳理(東京バレエ団団長)の言葉をご紹介します。
一昨年に初演された『眠れる森の美女』の再演にあたり、新制作を担った東京バレエ団団長の斎藤友佳理に話を聞いた。インタビューの1週間前までベジャールの『くるみ割り人形』のことで、心と頭が"くるみに占領されていた"と笑う斎藤。ひとつのことに入り込むタイプで、マルチタスクが苦手だとも。このインタビューが『眠れる森の美女』への、良い意識の切り替えになると言う。「コンテンポラリーの演目が多かったイタリア公演から戻り、古典バレエである『眠れる森の美女』に皆で取り組むのにとても良いタイミングです。バレエの核にあるものは古典バレエです。ダンサーとしてより高いレベルを目指すためには、常にクラシックバレエ・ダンサーの身体を保つ必要があります」。この"身体"というのは、常にクラシックバレエに対応できる身体のことだ。「優れた表現者は、クラシックバレエの基礎ができていることが前提にあります。フィギュアスケートなどでも、演技を15秒ほど見ればその選手がバレエを学んでいるかどうかがわかります」。
『眠れる森の美女』の新制作について「実は、とても時間がない中での創作だった」という。通常であれば集中的にダンサーに振付を行う過程に2~3カ月はかけるところを、ひと月ほどでつくりあげたそうだ。今回の再演について「初演からさらなるブラッシュアップを施していきたい」と言う。作品の核となる確固たるコンセプトは完成しているので「大きく変えるという意味ではありません。初演を経たことで得た細かな気づきを、積極的に取り入れていきたい。少しでもいい作品にしたいと思っています」。
新たな作品を手掛けるには、本格的なクリエーションが始まる前に演出と構成がほぼ完成していることが必要だと言う斎藤。今回、もっとも頼りにしたのがステージング・アンド・プロダクション・コンセプトを担う、ニコライ・フョードロフ(もとボリショイ・バレエ プリンシパル、バレエ・プロデューサー)だった。「演出のコンセプトは大きな軸で、作品の世界観を決定づけます。それが定まることで次の作業に進むことができるのです。軸がなければ、修正が難しい大がかりな装置をつくることはできません」。上演する劇場の条件によっても、演出プランは変わってくる。「上野の東京文化会館なら幕をつるすために使用できるバトンの数は50本。別の劇場ではバトンの数が異なるので、それぞれの舞台のサイズに対応しなければなりません。このバトンの数で切り替えが可能な場面数も変わりますから、演出プランに直接影響します」。また、この『眠れる森の美女』では、第2幕の演出にプティパによる初演時の技法である動く背景画――パノラマを採用しているのも特筆すべき点だ。「長さが44mもあります。現在ではヨーロッパの劇場でも、採用している所はなかなかないでしょう」。そんな技法を、敢えて行う理由は「古典バレエにおいて、装置と衣裳が果たす役割は大きい。東京バレエ団において『白鳥』『くるみ』の新制作を手掛けた経験があったからこそ、チャイコフスキーの3大バレエのうち最も絢爛豪華な『眠れる森の美女』に取り組むことができたのです」。
「既存の作品に手を加えるとき、漠然とはつくれない」と斎藤は言う。先人たちが、長いバレエの歴史の中でつくっている作品をどう伝承していくのか。「バレエそのものが伝承の芸術です。時代にあわせて、バレエも変化していきます。その様子は書物などの媒体を介してではなく、人から人への伝承でしか残し伝えることはできません」。斎藤本人も大学での専攻はこの伝承学であり、自身は振付家でも演出家でもなく、専門は伝承だと自任している。「東京バレエ団の『眠れる森の美女』は、1968年の初演から少しずつ手を加えて上演を重ねてきましたが、それらは長い時を経るなかで、今の観客が求めるものとは異なるところがあるかもしれません。踊り方やテクニックも進化していますから」。専門家が見ても納得する歴史・文化背景の尊重と、現代の観客が楽しめるエンターテイメント性。オリジナリティを求めながらも、作品が本来持ちあわせる薫りを今に伝える。この相反する要素を両立させバランスをとることが最も難しく、かつ斎藤が追求し続けることである。
取材・文:野中紀宏(エディター)
【東京公演】
4月24日(木)18:30
4月25日(金)18:30
4月26日(土)12:30
4月26日(土)18:30
4月27日(日)14:00
4月28日(月)14:00
4月29日(火・祝)13:00
会場:東京文化会館
指揮:ベンジャミン・ポープ
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
【そのほかの公演】
【大分公演】
6月7日(土)14:00
会場:iichiko総合文化センター・iichikoグランシアタ
【岡山公演】
6月11日(水)18:30
会場:岡山芸術創造劇場 ハレノワ 大劇場
【大津公演】
6月14日(土)14:00
会場:滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール大ホール
指揮:井田 勝大
演奏:九州交響楽団(大分、岡山、大津)
【東京公演】
オーロラ姫:永久 メイ [ゲスト](4/24, 4/28)、秋山 瑛(4/25, 4/27昼)、沖 香菜子(4/26昼, 4/29)、金子 仁美(4/26夜)
デジレ王子:宮川 新大(4/24, 4/28)、大塚 卓(4/25, 4/27昼)、秋元 康臣 [ゲスト](4/26昼, 4/29)、柄本 弾(4/26夜)
【大分公演】
オーロラ姫:秋山 瑛
デジレ王子:大塚 卓
【岡山公演】
オーロラ姫:金子 仁美
デジレ王子:柄本 弾
【大津公演】
オーロラ姫:沖 香菜子
デジレ王子:宮川 新大
※東京公演
S=¥15,000 A=¥12,000 B=¥9,000
C=¥7,000 D=¥5,000 E=¥3,000
U25シート=¥2,000
※ペア割引あり(S、A、B席)
※親子割引あり(S、A、B席)