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2025/04/16(水)Vol.516

オーストラリア・バレエ団2025年日本公演
OBインタビュー エリザベス・トゥーヒー 
2025/04/16(水)
2025年04月16日号
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バレエ

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オーストラリア・バレエ団2025年日本公演
OBインタビュー エリザベス・トゥーヒー 

今回は、1980年代にオーストラリア・バレエ団(TAB)を代表するダンサーとして、世界中で活躍したエリザベス・トゥーヒーのインタビューをお贈りします。
トゥーヒーは『ドン・キホーテ』のキトリ役を十八番とし、同役でマリインスキー劇場やボリショイ劇場など、名だたる劇場に客演を重ねました。現在はシュツットガルト・バレエ団のバレエ・ミストレスとして後進の指導にあたるトゥーヒーが指導者、そしてダンサーとしての目線からヌレエフ版『ドン・キホーテ』の魅力を解き明かします。

ヌレエフ版は、世界で最高の『ドン・キ』!

――エリザベスさんはダンサーやコーチとして各国でご活躍後、現在はシュツットガルト・バレエ団でバレエミストレスを務めていらっしゃいますが、キャリアのスタートはオーストラリア・バレエ団(TAB)でした。

トゥーヒー:そうですね。オーストラリア・バレエ学校を卒業後、1980年にTABに入団し、10年ほど在籍していました。1991年にイングリッシュ・ナショナル・バレエ(ENB)に移りましたが、2016年にバレエミストレスとしてTABに復帰。それから7年間教えていました。

――ダンサーとして在籍されていたのは、リサ・パヴァーンさんと同じ頃でしょうか。

トゥーヒー:リサと私は、同じ町生まれの1歳違い。4歳から同じバレエ教室に通い、1977年に一緒にオーストラリア・バレエ学校に入学し、TABにも同時に入団しました。一時期はENBでも一緒でしたから、もう60年もの間、とても近しい友人関係にあります。

――お二人が在籍されていた頃にも、TABは何度か来日公演を行っています。

トゥーヒー:1987年の公演には、私も参加しています。フェルナンド・ブフォネスとヨーコ・モリシタ(森下洋子)が、『白鳥の湖』やヌレエフ版の『ドン・キホーテ』を踊った時ですね。

エリザベス・トゥーヒー
Photo: NBS

――ヌレエフ版の『ドン・キホーテ』は、今回の来日公演の演目にも入っています。一方、シュツットガルト・バレエ団がレパートリーに持つ『ドン・キ』はグエラ版。様々な『ドン・キ』をご存じのエリザベスさんからご覧になって、ヌレエフ版にはどのような特徴がありますか?

トゥーヒー:ヌレエフ版は、世界で最高の『ドン・キ』のひとつだと思います。私はヌレエフ本人と何度も組んでキトリを踊ったダンサー、ルセット・オルダスの指導を受けることができたのですが、彼女が言っていたのは、とにかくパワフルでエネルギーに満ち、ユーモアにもあふれたヴァージョンだということ。また、ドン・キホーテとサンチョ・パンサの旅路に重きが置かれ、二人の視点から物語が描かれていることも特徴と言えますね。そしてもちろん、キトリとバジルという全く性格の異なる二人が、なぜ恋に落ちたのかもしっかりと描かれています。

振付面での特徴は、キャラクター同士の関係や、各々の様々な感情を表現できる場面がふんだんに用意されていること。群舞の場面はダイナミックでパワフルで、リズミカルで激しさに満ちています。そしてソロの場面は、感情表現が要求されるだけに踊るのはとても難しいけれど、だからこそ観客の共感を呼ぶことができる。TABは、そんなヌレエフ版を同じセットで蘇らせ、新たな息を吹き込みました。素晴らしいことですよね。

ヌレエフ版『ドン・キホーテ』より
渡邉 綾、キャメロン・ホームス
Photo: Rainee Lantry

――ちなみにエリザベスさんは、これまで『ドン・キ』にはどんな役で出演してこられたのでしょう。

トゥーヒー:長くなりますよ(笑)。まずはTABで女性の役をひと通り経験し、キトリも踊りました。1985年にはデヴィッド・マッカリスターと組んで、インターナショナル・バレエ・コンペティションでもキトリを。それがきっかけで、マリインスキー・バレエやボリショイ・バレエ、エストニア・ナショナル・バレエ団の『ドン・キ』にもゲスト出演しました。ほかに、リトアニアやウクライナ、ノルウェーでもキトリを踊ったことがあります。世界各地で何度も、様々なカンパニーと共に様々なヴァージョンで踊ってきたキトリは、私にとって特別な役。そしてそれだけ様々なヴァージョンを踊ってきたなかでも、ヌレエフ版が一番好きなんです。

――ヌレエフ版は、キトリとドン・キホーテの関係がしっかりと描かれていることも特徴のひとつではないかと思います。

トゥーヒー:そうですね。とにかく、バランスがいいんですよ。ドン・キホーテとサンチョ・パンサ、キトリとバジル、ドン・キホーテとキトリの物語と、ほかのキャラクターの物語がバランス良く散りばめられて、すべての場面に特別のエネルギーがある。それがこのヴァージョンの最も優れたところだと思っています。

――ヌレエフ版のキトリにとって、ドン・キホーテはどんな存在だと思われますか?

トゥーヒー:最初に会った時は、夢見がちで少し忘れっぽくなっている変わり者の老人(笑)。でもやがて、彼が大いなる夢を持っていることを知り、美と善を追い求める彼は尊敬に値すると思い始めます。彼が大切にしているものの価値に気づき、共感を覚えるようになるんです。キトリはドン・キホーテを愛してはいませんが、その夢を尊敬しているのは確かですね。

ヌレエフ版『ドン・キホーテ』より
Matthew Solovieff
Photo: Rainee Lantry

――なるほど。では、そんなヌレエフ版『ドン・キ』とTABの相性について、エリザベスさんの思うところをお聞かせください。

トゥーヒー:ヌレエフ自身がTABで何度も踊っている演目ですから、相性が良いのは間違いないと思います。ダンサーたちが大きなエネルギーと、物語を伝えるという意識を持って取り組む必要があるのがヌレエフ版。特にキトリとバジルを踊るダンサーにとっては、本当に難しい作品です。TABには演技力に長けたダンサーが多く、各々が自分の役を全うしながら、群舞の場面ではひとつになれるから相性が良いのでしょうね。

ヌレエフ版『ドン・キホーテ』より
Grace Carroll、Jasmin Durham、Montana Rubin、Lilla Harvey
Photo: Rainee Lantry

――最後に改めて、TABに長く在籍され、今は客観的にご覧になっているお立場から、バレエ団の特徴や魅力を教えてください。

トゥーヒー:TABはこの60年間、大きくは変わっていないと思います。私が入団する前から、レパートリーは1/3が古典作品で、1/3は海外の気鋭の振付家によるコンテンポラリー作品でした。私が在籍していた頃ならイリ・キリアン、今ならクリスタル・パイト、ポール・ライトフット&ソル・レオンやヨハン・インガー、ジョン・ノイマイヤーといった面々ですね。そしてもう1/3がオーストラリアの作品である点も、ずっと変わっていないんです。創立以来、この三つの柱を通じて常に躍動し、努力し、挑戦し続けることによって成長してきたのがTAB。そこに海外からやってきた芸術監督、デヴィッド・ホールバーグの新たな視点が加わった今は、さらなる成長の時を迎えていると言えるのではないでしょうか。

文:町田麻子(フリーライター)

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オーストラリア・バレエ団2025年日本公演
「ドン・キホーテ」プロローグ付き全3幕

公演日

5月30日(金) 18:30
5月31日(土) 12:30
5月31日(土) 18:30
6月1日(日) 12:00

会場:東京文化会館(上野)

指揮:ジョナサン・ロー
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

入場料[税込]

S=¥24,000 A=¥21,000 B=¥18,000
C=¥15,000 D=¥12,000 E=¥9,000
U25シート=¥4,000

[予定される主な出演者]
キトリ:近藤 亜香(5/30, 6/1)、 ベネディクト・ベメ(5/31昼)、 ジル・オーガイ(5/31夜)
バジル:チェンウ・グオ(5/30, 6/1)、ジョセフ・ケイリー(5/31昼)、マーカス・モレリ(5/31夜)