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Photo: TOWA

NEW2025/05/07(水)Vol.517

東京バレエ団『ジゼル』
初役アルブレヒトに挑む 生方隆之介インタビュー
2025/05/07(水)
2025年05月07日号
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東京バレエ団『ジゼル』
初役アルブレヒトに挑む 生方隆之介インタビュー

2019年の入団以来、『白鳥の湖』、『くるみ割り人形』、『海賊』などの古典の大作で次々と主要な役に抜擢され、成功を収めている東京バレエ団のホープ、生方隆之介。生方が次に挑戦するのはロマンティック・バレエの金字塔『ジゼル』のアルブレヒト。満を持して本作に臨む生方の心境を舞踊評論家、高橋森彦さんがインタビュー。

「アルブレヒトについて、以前は"どうしようもない奴"だと思っていましたが、最近印象が変わってきました」

――2023年10月から本年2月まで創立60周年シリーズが続き、『くるみ割り人形』『白鳥の湖』では全幕主演も果たしました。最近のバレエ団での活動を振り返っていかがですか?

生方:忙しい日々ですが、自分自身と向き合う時間が増えています。大きな役を任される機会が多くなりましたが、パートナーや振付・指導の先生に恵まれました。とくに今年2月のベジャールの『くるみ割り人形』の指導に来られ、"プティ・ペール"を踊られたジル(・ロマン)さんから強いインスピレーションを受けました。プロ意識が高く、作品に対する思いの深さを感じました。ジルさんには、昨年秋のイタリアツアー(第36次海外公演)で踊った『春の祭典』(振付:モーリス・ベジャール)の2人の若者も指導いただきました。

――イタリアツアーでは『ラ・バヤデール』より第2幕"影の王国"(振付:ナタリア・マカロワ)のソロルも踊るなど大活躍されたそうですね。

生方:『ラ・バヤデール』『春の祭典』それに『小さな死』(振付:イリ・キリアン)を踊りました。ひと月近く海外で生活し、普段とは異なる環境に身を置き集中してバレエに取り組めたので、大きく成長できたように思います。

――外部では今年3月、秋山瑛さん、南江祐生さんとともにウィル・タケット演出・振付『イノック・アーデン』(原作:アルフレッド・テニスン、作曲:リヒャルト・シュトラウス、翻訳:原田宗典)に出演されました。音楽×バレエ×演劇が共鳴する感動的な舞台でした。小劇場で俳優の方々らと同じ板の上に立つのは貴重な体験ですね?

生方:毎日新鮮な気分でクリエーションを楽しめました。ウィルさんは想像力が豊かな方なので、舞台装置を使う演出のアイデアに驚いたりしました。本番では12回の公演を通して毎回毎回ニュアンスを細かく変えて表現したので、ここでも成長できました。良い作品に参加できてよかったというのが率直な思いです。

生方隆之介
Photo: TOWA

――このたび『ジゼル』全2幕の主役アルブレヒトに初挑戦します。今まではペザントの踊り(パ・ド・ユイット)を2023年のオーストラリアのメルボルン公演を含め何度も踊られています。第1幕で農村の若者たちが披露する、祝祭感に富んだ踊りです。2003年の第10回〈世界バレエフェスティバル〉全幕特別プロでの上演時、ウラジーミル・ワシーリエフが男女4組の踊りに改訂しました。踊る立場として、どのような印象をお持ちですか?

生方:ソリスト役の8人が同じ音楽で一緒に踊る機会はあまりないので、皆で楽しく踊っています。難しいのは、皆で揃えて踊ることと各々のキャラクターを出すことのバランスですね。自分勝手にはできないし、ただ揃えばいいわけでもなく塩梅が難しいです。

――アルブレヒトは貴族ですが、身分を隠して村娘ジゼルに近づきます。ですが、彼には同じ貴族の婚約者がいて、裏切られたジゼルは死んでウィリになります。そして、アルブレヒトは後悔します。『ジゼル』というバレエやアルブレヒトを意識したのはいつですか?

生方:コンクールに出ていた10代の頃、第2幕のヴァリエーションを何度か踊りました。音楽も好きなので、気持ちをこめて踊っていましたね。テクニックや観客へのアピールも大切ですが、もっと感情を大事にして演じる作品ではないかと感じていました。(レオニード・)サラファーノフと(ナタリア・)オシポワが踊る全幕のDVDをよく観ました。

リハーサル中の生方隆之介
Photo: Shoko Matsuhashi

――アルブレヒト像をどのように捉えていますか?

生方:以前は「どうしようもない奴」だと思っていました。婚約者がいるのにジゼルに手を出して死なせてしまい、その上まだ未練があるわけですから。でも、最近印象が変わってきました。貴族という階級に縛られ、そこから脱却したい、刺激がほしいと願ってジゼルへの愛に目覚めたのではないかと。人間って、自分には無いものをほしがる性質があるのかもしれません。寂しい人というか、結果的にそういう行動に出てしまった気がします。

――役作りでもその点を踏まえるのですか?

生方:アルブレヒトは貴族ですが、『白鳥の湖』のジークフリート王子や『眠れる森の美女』のデジレ王子とは違ってもう少し大人で、エモーショナルというか人間臭さを併せ持つと思います。僕は稽古の前に役を作り過ぎないタイプですが、もし役作りをするならば、そのあたりのニュアンスから進めていくことになりそうです。

リハーサル中の生方隆之介
Photo: Shoko Matsuhashi

――ジゼル役は足立真里亜さんです。初共演ですよね?

生方:はい。学生の頃に観たバレエ団の公演で『ドン・キホーテ』のキューピッドを踊るダンサーが輝いているので誰なんだろう?思ったら真里亜さんでした。身体能力が高く、柔軟性もありますが、演技の魅せ方が上手な方です。『ジゼル』には演技をする場面がたくさんあります。真里亜さんはすでにジゼルを踊られていますし、演技に対するご自分のお考えをお持ちでしょうから、初役の僕がどのように合わせるのかが課題になるでしょう。

――本番に向けての意気込みをお聞かせください。

生方:『ジゼル』はロマンティック・バレエなのでファンタジーではありますが、そこに人間らしさとリアリティが出てくると感じます。『白鳥の湖』のようなクラシック・バレエとは違った、そうした表現が難しいでしょうし、(団長の斎藤)友佳理さんもその部分を突き詰めるようにとおっしゃるでしょう。そこを大切に作品に取り組んで役を深めたいです。

取材・文:高橋森彦(舞踊評論家)

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東京バレエ団
『ジゼル』

公演日

5月16日(金)19:00
5月17日(土)14:00
5月18日(日)14:00

会場:東京文化会館(上野)

指揮:ベンジャミン・ポープ
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

入場料[税込]

S=¥15,000 A=¥12,000 B=¥9,000
C=¥7,000 D=¥5,000 E=¥3,000
U25シート=¥2,000
※ペア割引あり(S、A、B席)
※親子割引あり(S、A、B席)

[予定される主な出演者]
ジゼル:沖 香菜子(5/16)、秋山 瑛(5/17)、足立 真里亜(5/18)
アルブレヒト:柄本 弾(5/16)、宮川 新大(5/17)、生方 隆之介(5/18)