英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団(BRB)日本公演開幕まで1カ月となりました。『眠れる森の美女』でオーロラ姫を演じる栗原ゆうさんに、富永明子さんがインタビュー。昨年のオーロラ姫デビューについて、これまでの経験や今後への考えなどの言葉にはみずみずしさがあふれています。
――昨年、2024年にBRBでオーロラ姫を踊られました。それまでも、別の公演で踊った経験はあったのですか?
栗原:実はなかったんです。『眠れる森の美女』の全幕を主演したのも初めてなうえ、コンクールや発表会でも踊ったことがなくて、まったくの未経験でした。しかも、ピーター・ライト版の上演40周年という記念すべき公演だったので、光栄すぎて最初は少し心配でしたが、ダーシー・バッセル、マリオン・テイトにも指導していただき、成長できた1年になりました。
――ダーシー・バッセルからの指導では、どのようなことを学ばれたのでしょうか?
栗原:まず、オーロラ姫が備えている品格の表し方を教えてもらいました。お姫さまらしさを表現するには、顔のラインと人に向ける目線、アームスの保ち方が重要で、そこを心がけるだけでロイヤルらしい品格が出るんです。もうひとつ、面白かったのが「品格がベースにある限り、ワイルドに踊ってもいいのよ」というアドバイス。品格をなくしてしまうと別物になってしまいますが、それが守られているなら、お茶目にしてみたり、あえてラフにしてみたりしてもいいというのは面白い発見でした。
――実際の舞台でも試してみたのでしょうか?
栗原:私たちのカンパニーは公演回数が多くて、私は12回もオーロラを踊ることができました。最初はもちろん緊張しますが、それだけ回数があると心に余裕ができて、表現で遊ぶことを楽しめるようになります。「毎回こうしなきゃいけない」ではなく、「12回もあるから今日はこうしてみよう」と臨機応変に。たとえば、その日の気持ちに合わせて人格をぐっとオープンに出してみたり、逆に控えめにしてみたり..... 表現自体は同じなのですが、方法を変えることで、質感がちょっと変わってくるんです。
――今に至るまでのお話をお聞きしたいのですが、最初からゆくゆくは海外で踊りたいと思っていらしたのですか?
栗原:海外のダンサーに憧れがありました。舞台を観たあと、家に帰って「踊りたい」という気持ちにさせられるのが、いつも海外のダンサーだったんです。でも同時に、吉田都さんの『くるみ割り人形』のDVDを持っていて、観るたびに「こんなふうに美しくて品があって、海外でも評価されている日本人がいるんだ」と尊敬していました。
――高校生のときに英国ロイヤル・バレエ学校に入学されますね。
栗原:バレエ学校の講習会に誘われてたまたま行ってみたら、気に入っていただけて「来ない?」と。ユース・アメリカ・グランプリに出場して、そこでスカラシップをいただき(結果はNYファイナルシニア女子第1位受賞)、留学することになりました。
――自分から学校側にアピールされたのですか?
栗原:私は「こうしたい」という欲があまりなくて(笑)。昔から先生に「吸い取り紙みたい」と言われていたのですが、そのときに与えられたものや環境を精一杯吸収するだけで、自分からアピールするほうではなかったです。今もあまり性格は変わっていないのですが(笑)、イギリスでは自分の意見をしっかり持って発言することが必要なので、前よりは「私はどうしたいのか」を考えて、発するようになりました。とはいえ、まったく違う意見でも面白いと思ったものは柔軟に受け入れています。芯はあるけど強すぎず、やりたいことはあるけど頑固じゃない、という感じでしょうか。
――留学後の生活はいかがでしたか?
栗原:実は入学する1カ月前に前十字靭帯損傷と半月板を故障して、1年以上まるまる踊れない日が続いたんです。ありがたいことに学校が待っていてくださって、日本で手術をして治療していたのですが、治りきらなくて.....。最終的には学校側が「イギリスに来て治療したら」と言って、熱心にケアしてくださったおかげで治すことができました。
――これからというタイミングに、つらい思いをされたのですね。
栗原:そうですね、本当は3年間の留学だったはずが、2年ほどになってしまいました。それまで怪我なく来ていたので、踊れない日々はつらかったです。でも、途中で「踊れなきゃいけない」ではなく「踊れなくてもできることはたくさんあるよ」と気持ちを切り替えたんです。踊れないあいだに、たとえば踊るために必要な身体について学ぶなど、できることはたくさんあるって。そう受け入れてからは、メンタルが強くなりました。あと、1年のあいだ、友達と遊びに行ったり、親と過ごす時間ができたり、普通の高校生らしい生活ができたのは大切な経験だったと思います。
――今年で入団して7年目ですが、BRBはどんなカンパニーですか?
栗原:私たちは各地を回って公演するツアー・カンパニーで、一緒に過ごす時間が長いこともあってまるで家族のよう。それが舞台にも反映されて、一体感が出ていると思います。ツアー中は予期せぬことも起こりますが、みんなで団結して乗り切ろう!という気持ちが常にあります。それから「たくさんのお客さまによいものを届けたい」という気持ちが大きいところも、BRBの好きなところです。
――カルロス・アコスタ芸術監督になって、雰囲気はどのように変わりましたか?
栗原:向上心を大切にする芸術監督なので、若いダンサーにもたくさんのチャンスが与えられていて、前向きなエネルギーに満ちています。夢をふくらませながら頑張ることのできる環境ですね。
――栗原さん自身はこれから、どんなことにチャレンジしていきたいですか?
栗原:私はバレエダンサーですが、ひとりの人間でもあるので、生活のすべてがバレエになるのではなく、プライベートの時間も大切にしたいです。いろいろなことに興味を持って、たくさんのことを学んで、豊かな感性を育みたい。学びを通して一歩ずつ成長していけば、私自身の人間性も確立して、きっと踊りにも生きてくると思います。
――最後に、日本公演への意気込みをお聞かせください。
栗原:とても楽しみですが、今は緊張感もあります。でも、これまで私を支えてくれた人たちや応援してくださった方々に、恩返しする気持ちで踊りたいと思います。私が突き詰めているものや表現したいものを観て、楽しんでいただければ嬉しいです!
取材・文:富永明子(編集者・ライター)
6月20日(金) 18:30
6月21日(土) 14:00
6月22日(日) 14:00
[予定される主な出演者]
オーロラ姫:アリーナ・コジョカル[ゲスト・アーティスト](6/20, 6/22)、 栗原ゆう(6/21)
王子:マチアス・ディングマン(6/20, 6/22)、ラクラン・モナハン(6/21)
会場:東京文化会館(上野)
指揮:ギャヴィン・サザーランド
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
6月27日(金) 19:00
6月28日(土) 14:00
6月29日(日) 14:00
[予定される主な出演者]
シンデレラ:平田桃子(6/27, 6/29)、 ベアトリス・パルマ(6/28)
王子:ウィリアム・ブレイスウェル[ゲスト・アーティスト](6/27, 6/29)、マックス・マズレン(6/28)
会場:東京文化会館(上野)
指揮:ポール・マーフィー
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
―平日料金
S=¥26,000 A=¥23,000 B=¥20,000
C=¥17,000 D=¥14,000 E=¥10,000
U25シート=¥5,000
【堺公演】
7月2日(水) 18:30
会場:フェニーチェ堺 大ホール
オーロラ姫:セリーヌ・ギッテンス
王子:ヤシエル・ホデリン・ベロ
演奏:ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団
■入場料[税込]
S=¥22,000 A=¥18,500 B=¥15,000 C=¥9,000
【名古屋公演】
7月5日(土) 14:00
会場:愛知県芸術劇場 大ホール
オーロラ姫:セリーヌ・ギッテンス
王子:ヤシエル・ホデリン・ベロ
演奏:ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団
■入場料[税込]
S=¥22,000 A=¥19,000 B=¥15,000 C=¥10,000 D=¥7,000 U25シート=¥5,000