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Photo: TOWA

2025/06/18(水)Vol.520

東京バレエ団『ザ・カブキ』
宮川新大ロングインタビュー
2025/06/18(水)
2025年06月18日号
バレエ
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Photo: TOWA

東京バレエ団『ザ・カブキ』
宮川新大ロングインタビュー

いよいよ6月27日に初日を迎える東京バレエ団『ザ・カブキ』。
巨匠ベジャールが創作してから約40年、色褪せることなく魅力を放つ作品で、昨年に続き由良之助役をつとめる宮川新大が作品への思いを語ります。

向き合うまでに時間のかかった『ザ・カブキ』の由良之助役

――今年2月に上演されたベジャールの『くるみ割り人形』では、宮川さんは猫のフェリックスの役をつとめました。

宮川:ベジャール作品では『中国の不思議な役人』の娘もやっていますが、『くるみ割り人形』のフェリックスは自分の中でも好きな、特に思い入れのある役。今年2月の公演ではジルさん(元モーリス・ベジャール・バレエ団芸術監督のジル・ロマン)が来日してくれて、彼と一緒に舞台に立つことで、また違う作品になったと思います。

――『ザ・カブキ』の由良之助役は昨年に続き二度目となります。

宮川:実は由良之助の役は、お話をいただいてすぐに受けるか受けないかを決められなくて少し時間をもらったんです。東京バレエ団で歴代、由良之助を踊ってこられた先輩たちと比べたときに、自分はタイプではないのでは、と思ってしまって。東京バレエ団に入団して10年、色々な主役もやらせていただきましたが、由良之助には特別な重みもあり、生半可な気持ちで受けていい役ではない。僕はこれまで勘平をやってきて、自分に由良之助役が来るとは思っていなかったので、重圧も感じ、かなり悩みました。

宮川新大演じる由良之助(『ザ・カブキ』2024年公演より)
Photo: Shoko Matsuhashi

――実際に由良之助という役を演じ、踊ってみていかがでしたか?

宮川:幕が開くまで悩みながらの役づくりだったのですが、ダンサーとしての宮川新大の長所は崩さないようにしよう、と思って挑みました。歴代の由良之助役の方々とは体格も違うし、僕がこれまで踊ってきたのはパッションのある人物よりもノーブル系が多かったんです。由良之助としてという前に、ダンサーとしての自分の持ち味に納得した上で踊らないと、というのがありました。そんなときに指針となったのがジル(・ロマン)さんの存在です。僕はドイツ、ロシア、ニュージーランドで踊ってきて、東京バレエ団に入るまではベジャール作品との接点がなくて、最初は『春の祭典』のような男っぽいイメージを抱いていました。でもジルさんのM...(ベジャールの『くるみ割り人形』)を映像で見て、ベジャール作品への概念が変わったんです。しなやかで、シャープで、ノーブルで......。自分らしい由良之助を構築していくにあたっても力になりました。

歴代の由良之助にはない "等身大 "の人物像を

――文楽や歌舞伎の『仮名手本忠臣蔵』で描かれる由良之助は、日本人の多くが魅了される理想のリーダーです。

宮川:『ザ・カブキ』の由良之助は現代の若者が忠臣蔵の世界に迷い込むという設定なので、生まれついてのリーダーというより、運命に翻弄されてリーダーにならざるを得なかった人物と捉えてアプローチしました。目の前で塩谷判官や勘平が切腹し、重いものを託されて変わっていくわけですが、昨年の公演ではちょうど少し前に身内が亡くなったこともあり、自分と同じ目線の、等身大の由良之助でありたいと思いました。これまでの歴代の由良之助とは少し違ったのかもしれませんが、初日の舞台を終えた後で共演したダンサーが涙してくれたり、"いいじゃん!由良之助"とLINEをくれたりしたので、こんな由良之助もありなのかな、と少し自信になりましたね。前回は正直、みんなにパワーをもらい支えられての由良之助でしたが、今回は二度目である分、いい意味で力を抜くことができるかもしれません。役だけでなくダンサーとしても、少しでもみんなを引っ張る意思のある背中を見せられたらと思っています。

宮川新大演じる由良之助(『ザ・カブキ』2024年公演より)
Photo: Shoko Matsuhashi

――歌舞伎へのオマージュ的な作品ならではの振付は難しいのでしょうか。

宮川:そもそもベジャール作品は体の使い方が違うのですが、和の要素を取り入れた振付という意味では、これまでやってきた勘平の方が難しかったかもしれません。由良之助は割と、バレエらしい振りが多いです。でも、判官の切腹から城明け渡しの場面のとにかく力強くみんなを引っ張っていく感じ、そして「山崎街道」の場の終盤での7分半にわたる"決意のヴァリエーション"は、ベジャールさんならではの見せ場ですね。由良之助にはリーダー的な立場だからこその、恐怖や不安、孤独感もあると思うんです。僕の場合は不安の要素がメインかな。7分半の中でセンシティブに、デリケートに、でも最後は何かに奮い立たされて踊る姿を表現できたらいいなと思います。

宮川新大演じる由良之助(『ザ・カブキ』2024年公演より)
Photo: Shoko Matsuhashi

――1986年の初演から40年近く経っても色褪せない『ザ・カブキ』の魅力とは何でしょうか。

宮川:ベジャールさんの作品には、今見ても古くない、むしろ今の時代だからこそ面白かったりする部分がたくさんあります。歴史ってどうしても過去のものになって忘れられがちですが、たとえば『くるみ割り人形』のプティ・ペールが飯田先生(東京バレエ団前団長の故・飯田宗孝)からジルさんに受け継がれる中で進化したように、『ザ・カブキ』も時代とともにアップデートされていくんだろうなと思います。これから先も何十年と続いていく作品の一部になれるというだけで、踊っている意味があるなと思っています。

――最後に、『ザ・カブキ』は現代の青年が忠臣蔵の世界に迷い込む物語ですが、もし宮川さんがタイムスリップするとしたら?

宮川:過去に行くならベジャールさんにお会いして、自分の由良之助をどう受け取るか聞いてみたいですね。未来に行くなら60歳くらいになった自分がまだ踊っているのか見てみたい。後は100年後のバレエがどうなっているのかも知りたいですね。

宮川新大
Photo: TOWA

取材・文:清水井朋子(ライター)

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東京バレエ団
『ザ・カブキ』全2幕

公演日

【東京公演】
6月27日(金)19:00
6月28日(土)18:30
6月29日(日)14:00

会場:新国立劇場 オペラパレス(初台)

入場料[税込]

S=¥15,000 A=¥12,000 B=¥9,000
C=¥7,000 D=¥5,000
U25シート=¥2,000
※ペア割引あり(S、A、B席)
※親子割引あり(S、A、B席)

[予定される主な出演者]
由良之助:柄本 弾(6/27、6/29)、 宮川 新大(6/28)
顔世御前:上野 水香[ゲスト・プリンシパル](6/27)、金子 仁美(6/28)、榊 優美枝(6/29)
おかる:沖 香菜子(6/27)、秋山 瑛(6/28)、足立 真里亜(6/29)
勘平:池本 祥真(6/27)、大塚 卓(6/28)、樋口 祐輝(6/29)