バレエ界の頂点に君臨する2大バレエ団――パリ・オペラ座バレエ団と英国ロイヤル・バレエ団の選りすぐりのトップダンサーたちが集う〈バレエ・スプリーム〉。この8月、2020年のコロナ禍によるオンライン開催を経て、バレエファン待望、実に8年ぶりとなる舞台での開催が実現します。
パリ・オペラ座のエトワール、ポール・マルクにパリ在住のエディター大村真理子さんがインタビューしました。今シーズンの成果を振り返るとともに、〈バレエ・スプリーム〉への"楽しみ"についてもたっぷり!
7月上旬に行われるイタリアでのツアーで『イン・ザ・ナイト』の第1カップルと『ライモンダ』第3幕の抜粋を踊って、ポール・マルクはパリ・オペラ座での公演を終える。
「今シーズンは『眠れる森の美女』で2016年以来久々に怪我に見舞われたとはいえ、他のシーズン同様に良い年と言えます。踊るのが快適な『Blake Works I』でスタートし、故ピエール・ラコットにオマージュを捧げる『パキータ』を踊れ、新しいことがたくさん。多くを学び、仕事量もたっぷりあった素晴らしいシーズンでした」とうれし気に語る彼。マニュエル・ルグリの『シルヴィア』を初役で踊り、しかも創作者本人と仕事できるという幸運にも恵まれたのだ。
「ディテールに至るまできめ細かな指導を受けました。彼は常に優しく、思いやりがあって、時にはユーモアを交えながら、僕たちをプッシュしてくれて。彼自身が踊るならという思いで『シルヴィア』は創作されたように僕は感じます。ステージ上で気持ちよく踊りたいと願うダンサーによる作品。そのおかげで、舞台で最高の時間を過ごせました」
レパートリー入りする作品は通常はビデオなどで過去の舞台を見ることができるけれど、この作品については情報がなく、最初はいささか不安を感じたそうだ。でも、怪我をしたダンサーの2公演も任され、通常より多くステージで踊れたゆえに探求できることも多かった。
「踊るほどに理解が深まるものです。再演されることがあれば、また踊りたいですね。最終日に踊り終え、観客も喜び、振付けたマニュエルがとても満足してくれて。だから僕たちも満足(笑)。簡単な作品ではなかったので安堵感もありました」
ポールはこれまでヴァランティーヌ・コラサント、パク・セウンと組むことが多かったが、この作品のパートナーはブルーエン・バティストーニだった。
「何度もガラでは一緒に踊っているけれど、パリ・オペラ座ではこれが初めて。すごく嬉しかったですね。彼女と僕は仕事の進め方が同じ。言葉でやり取りを交わし、うまくゆかないことがあれば相手に率直に告げることができて、と理解しあえる関係です。彼女のクオリティは数え切れないほどです。仕事量についてすごいキャパシティの持ち主。謙虚でエゴが全くなく、これには幸福感がもたらされますね。踊りの繊細さも見事で、どんな複雑なテクニックの中にも正確さ、的確さがあって..... 着地もとてもきれい。彼女と踊るのが好きなのは、仕事で追求していることが僕と同じだからかもしれません」
そんなペアによるパフォーマンスが素晴らしくないはずがない。8月の〈バレエ・スプリーム〉のCプロでの演目は、マリウス・プティパの『エスメラルダ』。昨夏、パリ近郊のガラで踊って以来、二人のレパートリーの1つとなっているそうだ。さて、彼が英国ロイヤル・バレエ団と共演のガラに参加するのはこれが初めてである。
「他のバレエ団のダンサーたちと1つの公演を作り上げるというのは、過去に他所の土地で出会って仲良くなった人たちに再会できる良い機会ですね。国際的なガラに参加する喜びは、これです。すごくインスパイアーされるので、いつも舞台裏から他のダンサーたちのパフォーマンスを子供みたいに目を輝かせて見てしまうんですよ」
〈バレエ・スプリーム〉に参加するロイヤル・バレエ組は セザール・コラレス以外、全員が知り合いだという彼。パリ・オペラ座と英国ロイヤル・バレエ団の違いや、それぞれのアイデンティティについてどう見ているのだろうか。
「この2つのカンパニーはとてもよく似ている、って僕は思います。ダンサーのクオリティは同じ、でもレパートリーが同じではない。これが違いを生んでいるのでしょう。僕たちのベースはルドルフ・ヌレエフにあり、彼らのはケネス・マクミラン。僕たちが学校時代にすること、カンパニーの毎朝のクラスレッスン、午後のリハーサルでしていることはヌレエフ特有の振付を踊るための仕事です。ヌレエフの振付は子供の頃からやっているので一度みればすぐにできるのに、マクミランの『マノン』や『うたかたの恋』のリハーサルの時、''いかにこの動きをするのか'' を理解するのが難しかった。身体の重心を置く位置や、どこから腕を通すのか......動きの感覚が異なるんですね。リフトも全然違います。マクミランの振付の習慣が僕たちにはない。逆にロイヤルのダンサーたちがヌレエフ作品を踊るのが難しいのも、それゆえなんです」
〈バレエ・スプリーム〉Bプロの合同公演で最後に踊られるのは、マリウス・プティパの振付『ラ・バヤデール』からのハイライトだ。パリ・オペラ座ではヌレエフ版が、英国ロイヤルではナタリア・マカロワ版が踊られている作品である。同じ作品の2バージョンを同時に、というアイディアには彼も大いに興味をそそられている。ロイヤル組の仕事を観察するのはもちろん、「ビデオを撮らせてもらうかも!」と笑う。ちなみにポールは2020年12月に『ラ・バヤデール』のブロンズ・アイドルを踊って、エトワールに任命されている。学校時代は生徒として舞台に参加し、2022年の公演ではソロルを初役でと、これは彼のキャリアにおける進化を語れる作品の1つなのだ。
エトワール任命は到達ではなく、新しいことの始まりだと日々の研鑽を怠らない彼。毎日何かしらテクニックに訂正・調整することがあるのは素晴らしいと語る。ステージ上での美しいパフォーマンスだけでなく、彼のこうしたダンスに向き合う姿勢も日本のバレエファンの心に響くのだろう。
「日本で最後に踊ったのはそんなに前のことじゃないけれど、気持ちの中ではとても昔のことに感じています。外国なのに快適に感じられる国。日本の文化、街、そしていつも温かく迎えてくれる観客に再会するのが今からとても待ち遠しいです」
取材・文 大村真理子(パリ在住、エディター)
8月1日(金)18:30
8月2日(土)14:00
8月3日(日)14:00
8月5日(火)18:30
8月6日(水)18:30
8月7日(木)18:30
8月9日(土)14:00
8月10日(日)14:00
8月11日(月・祝)14:00
※音楽は特別録音による音源を使用します。
サラ・ラム(プリンシパル)
マシュー・ボール(プリンシパル)
ウィリアム・ブレイスウェル(プリンシパル)
セザール・コラレス(プリンシパル)
フランチェスカ・ヘイワード(プリンシパル)
金子 扶生(プリンシパル)
マヤラ・マグリ(プリンシパル)
ワディム・ムンタギロフ(プリンシパル)
五十嵐 大地(ソリスト)※Aプロのみ
ヴィオラ・パントゥーソ(ファースト・アーティスト)※Aプロのみ
ロベルト・ボッレ(ゲスト)
ブルーエン・バティストーニ(エトワール)
ポール・マルク(エトワール)
オニール八菜(エトワール)
パク・セウン(エトワール)
ロクサーヌ・ストヤノフ(エトワール) ※Cプロのみ
カン・ホヒョン(プルミエール・ダンスーズ) ※Cプロのみ
アントワーヌ・キルシェール(プルミ・ダンスール)※Cプロのみ
アントニオ・コンフォルティ(スジェ) ※Cプロのみ
ロレンツォ・レッリ(スジェ)
ミロ・アヴェック(コリフェ)
【A・Cプロ】
S=¥19,000 A=¥17,000 B=¥15,000
C=¥13,000 D=¥11,000 E=¥9,000
U25シート=¥4,500
*ペア割引[S,A,B席]あり
*親子割引[S,A,B席]あり
【Bプロ】
S=¥23,000 A=¥21,000 B=¥19,000
C=¥17,000 D=¥15,000 E=¥13,000
U25シート=¥5,000
*ペア割引[S,A,B席]あり
*親子割引[S,A,B席]あり