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Photo: Shoko Matsuhashi

2025/09/03(水)Vol.525

レポート
佐野志織&柄本弾出演 "『M』を語ろう"
2025/09/03(水)
2025年09月03日号
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バレエ
東京バレエ団

Photo: Shoko Matsuhashi

レポート
佐野志織&柄本弾出演 "『M』を語ろう"

目黒の夏の風物詩〈めぐろバレエ祭り〉。今年で13回目の開催をむかえたバレエファン注目のお祭りですが、今年のイベント中でも早々にソールド・アウトとなった人気企画がモーリス・ベジャールが戦後日本を代表する作家、三島由紀夫の人生と作品をバレエに仕立てた『M』に向けてのトークイベント"『M』を語ろう"。9月の東京バレエ団公演を控え、佐野志織(東京バレエ団芸術監督/バレエミストレス)と柄本弾(東京バレエ団プリンシパル)が、熱心な東京バレエ団ファンに語るトークイベントの様子をレポート!

まるでマジックのようなベジャールの稽古

8月の猛暑の中、めぐろパーシモンホールでは〈めぐろバレエ祭り〉の一環として佐野志織、柄本弾が出演するトークイベント"『M』を語ろう"が開催されました。佐野が芸術監督就任後、トークイベントに出演するのは初めてということもあり、期待に胸を膨らませた参加者の熱気であふれる中、トークイベントがはじまりました。
今回の〈めぐろバレエ祭り〉で初演した「はじめてのバレエ『白鳥の湖』~母のなみだ~」の3回目の公演終わりにかけつけた2人。柄本は「昨年からバレエ・スタッフとして指導にも関わるようになりましたが、今の立場になって先生方が"緊張した~"とおっしゃっていた意味がわかりました。稽古でうまくいかなかったところは緊張して見守っているので、2人とも結構疲れています」と話すと会場は一気に和やかな雰囲気に。
まずは『M』の初演の舞台に出演した佐野が当時のエピソードを語ります。

「初演時には鹿鳴館の場面に出演していました。モーリス・ベジャール・バレエ団からは小林十市君が振付助手として来日し、振付をすすめてくれました。ベジャールさんが来日してから本番までは1カ月くらいしかなかったのですが、当時は稽古場も狭く、近くの小学校の体育館を借りて練習したことも。
ベジャールさんはおそらく人が見ていないところでものすごく準備をしていたと思います。稽古場では迷うことなく次から次へとダンサーたちに振りをわたしていき、その様子はまるでマジックのようだと感じました。最初、鹿鳴館の場面は原作が『M』に取り上げられている作品の中で唯一の戯曲なので、ディヴェルティスマン*のように作られていると感じていました。初めて作品の指導に関わったのは2010年、東京バレエ学校の校長をしていた時。当時は子役の指導として、その後にミストレスとして作品全体の指導に関わるようになりましたが、『M』は三島の物語をそのままバレエにしているわけではないので、様々な要素をつないで一つの大きな作品になっていると感じています」

*ディヴェルティスマン...物語の本筋に関係ない、踊りだけの見せ場のこと。

1993年初演前のリハーサルの様子
Photo: Yoshihiro Kawaguchi

"バレエに説明は不要"

続いて今回が本作3回目の出演となる柄本弾。明確な物語のない作品をどのようにとらえているかを語ります。

「物語がある作品であれば登場人物の心境を自分なりに考え、それが観客にどう見えるかを意識して指導者と創り上げていくわけですが、僕が演じるⅠ - イチはとても難しい。先日、初演でこの役を演じた高岸直樹さんにも聞いてみたのですが『僕がベジャールさんに聞いた時も説明はなく、"バレエに説明は不要だ"と言われてしまった』という話を聞きました。ノイマイヤーの作品でもそうなのですが、振付をしっかりこなして形づくっていくしかないと思っています」

話がノイマイヤーに及んだところでノイマイヤーとベジャールの振付のスタイルの違いでひとしきり話が盛り上がり、実は2014年の『ロミオとジュリエット』上演の際、、稽古場でノイマイヤーが柄本の演技に感動して涙を流していたというエピソードが紹介されると「ええっ! 全然知らなかった!! もっと早く言ってくださいよ!!」と柄本が驚く場面も。

柄本弾
Photo: Shoko Matsuhashi

『M』の音楽はダンサー泣かせ?

そして『M』の特徴である音楽について。黛敏郎による20をこえるオリジナルの楽曲をはじめワーグナーのオペラのピアノ演奏や、シャンソン、わらべ歌など多彩な楽曲が登場する『M』はダンサー泣かせの作品のようです。

柄本は「明確な旋律がない場合、おそらく音を覚える方法はとことんリハーサルをして音楽全体を身体に叩き込むか、もしくは振りと音楽をセットにして覚えておくかのどちらかになるのではないかと思います。『M』の場合は本当に音がわからなくなるので......前回はパートナーの(上野)水香さんが同じ役を経験済みだったので合わせて踊ることも多かったのですが、今回は初役の(伝田)陽美さんとも踊るのでしっかり引っ張っていきたい」とその難しさを語ります。ちなみに柄本は現在日本人の男性ダンサーの中で唯一ベジャールの『ボレロ』を踊ることが許されていますが、同じ旋律が繰り返される『ボレロ』の場合は「同じ旋律が繰り返される中、振りがある種のパーツに分かれているので、慣れないうちは繰り返されるメロディの中で振付を間違えないようにするのが難しかった」と、その違いを語りました。

佐野志織
Photo: Shoko Matsuhashi

一方、佐野は指導者としての目線から「実は指導者よりもダンサーの方が音についてわかっていることもあるんです。音と振りの中で絶対にこの音の時はこの振り、という外せないポイントはあるのですが、音と音の間の余白のような部分についてはどのように踊るかダンサーの裁量に任されていることも。そこまで余裕をもって踊れるようにするためには何度も繰り返しリハーサルを重ねて、その段階まで音楽と振りを身体にいれておくことが必要です。そうすればある程度自由に踊ることができます」

観る、考えるというよりもまさに作品を"感じて"ほしい

その後、クラシック・バレエとベジャール作品の身体の使い方の違いや、同時に複数の作品を踊る際の切り替え方などについて話が交わされたあと、実は"海上の月"という役が当初は予定になく、初演時のプログラムに掲載された月のイラストにベジャールがインスピレーションを得て新たに加えた役というエピソードが紹介され、会場にはどよめきが走りました。

佐野は「初演で海上の月を演じた会津美紀さんは神秘的な雰囲気が魅力のダンサーでした。プログラムをヒントに、当時のダンサーとの科学反応で新たな役が生まれたのだと思います」とその背景を分析していました。

最後に改めて『M』の魅力を問われた2人。まずは柄本が「ダンサーや観客への明確な説明がない分、踊る側にとっても観る側にとっても自由度が高い作品だと思います。前回はⅠ - イチからⅣ - シ(死)まで、主要な男性4名が全員初役で、おそらくその前までの『M』とはだいぶ異なる印象になったのではと思います。今回はⅢ - サンが生方隆之介君に代わりますので、そこでまた新たな変化が生まれることを期待しています」

『M』(2020年公演より)
Photo: Kiyonori Hasegawa

「『M』については鹿鳴館、海上の月、そして指導者と立場と目線が変わってきたことで様々なものが見えてきました。題材こそ三島の作品ですが、振付はベジャールさんで、ベジャールさんが三島作品から感じたものがバレエとして表現されています。例えば作品冒頭に出てくるⅣ - シ(死)が演じる老婆は三島の祖母で、それが三島に大きな影響を及ぼしています。作品に描かれているのは確かに三島かもしれませんが、テーマとしては普遍的なもので、誰しもがこの作品から何かを感じることができるのではないでしょうか。観る、考えるというよりもまさに作品を"感じて"いただけたらと思います」と作品に長く関わってきた佐野ならではの深い洞察からの発言でトークを締めくくりました。

東京バレエ団にとって10作目のベジャール作品『M』。5年ぶりの上演に期待が高まります。

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東京バレエ団
『M』

公演日

9/20(土)14:00
9/21(日)14:00
9/23(火・祝)13:00

会場:東京文化会館(上野)

※音楽はピアノの生演奏、および特別録音による音源を使用します。
ピアノ:菊池洋子

入場料[税込] ※東京公演

S=¥15,000 A=¥12,000 B=¥9,000
C=¥7,000 D=¥5,000 E=¥3,000
三島由紀夫 生誕100年記念ミシマU39シート=¥4,000
U25シート=¥2,000
*ペア割引[S,A,B席]あり
*親子割引[S,A,B席]あり

[予定される主な配役]

Ⅰ‐イチ:柄本 弾
Ⅱ‐ニ:宮川 新大
Ⅲ‐サン:生方 隆之介
Ⅳ‐シ(死):池本 祥真
聖セバスチャン:樋口 祐輝(9/20, 9/21)、大塚 卓(9/23)
女:上野 水香(9/20, 9/21)、伝田 陽美(9/23)
海上の月:金子 仁美(9/20, 9/21)、長谷川 琴音(9/23)
ヴィオレット:伝田 陽美(9/20, 9/21)、榊 優美枝(9/23)
オレンジ:沖 香菜子(9/20, 9/21)、三雲 友里加(9/23)
ローズ:政本 絵美(9/20, 9/21)、二瓶 加奈子(9/23)