NBS News Web Magazine
NBS日本舞台芸術振興会
毎月第1水曜日と第3水曜日更新
Photo: Mizuho Hasegawa

2025/09/03(水)Vol.525

上野水香、最後の!?キトリ役にかける想い、
そしてベジャール振付『M』について
2025/09/03(水)
2025年09月03日号
バレエ
TOPニュース
インタビュー
バレエ
東京バレエ団

Photo: Mizuho Hasegawa

上野水香、最後の!?キトリ役にかける想い、
そしてベジャール振付『M』について

日本を代表するバレリーナの1人、上野水香(東京バレエ団ゲスト・プリンシパル)。年齢を重ねてもなお華やかな舞台姿で観客を魅了する上野ですが、この11月に主演する『ドン・キホーテ』が東京バレエ団における最後のキトリ役になることを発表しました。ミラノ・スカラ座をはじめ、世界各地への客演を重ねている上野の十八番ともいうべき役について、そして9月に上演する『M』の「女」役について、役柄に対する深い考察を語りました。

"最後"と決めた理由とキトリの思い出

『ドン・キホーテ』より
Photo: Hidemi Seto

――水香さんの大輪の花のようなキトリをもう観られなくなると思うと、寂しさもあります......。

上野:ワシーリエフ版の全幕は今回が最後ですが、一部抜粋やパ・ド・ドゥ、または別の版の全幕などで客演のお話があればまだやりたいと思うので、これ以降キトリを踊らないというわけではないです(笑)。それに、私はどの舞台でもこれが最後だと思って踊っているので、心持ちは変わりません。練習段階で消耗しすぎないよう、本番までに上手に体を仕上げていきたいと思います。

――これまで何度もキトリを踊っていると思いますが、最初に踊ったのはいつでしたか?

上野:中学2年生のとき、通っていたお教室の発表会で初めて『ドンキ』第3幕のグラン・パ・ド・ドゥを踊らせていただきました。そのときのパートナーが三谷恭三先生(現・牧阿佐美バレヱ団芸術監督)で、サポートがお上手でぐるぐる回してくださるから楽しくてたまらなかったですね。あと、そのとき私は片手リフトが全然できなくて、自宅で毎日、お父さんに持ち上げてもらって練習していました(笑)。当時、身長が143cmくらいしかなくて、小さかったんです。

上野水香
Photo: MIzuho Hasegawa

――かわいらしい思い出をありがとうございます。2004年に東京バレエ団に入団してすぐ、主役に抜擢されたのも『ドンキ』だったのですよね?

上野:入団直後のイタリア・ツアーでキトリを踊ったのが、バレエ団全幕主役デビューでした。まだ団員の皆さんの顔と名前も覚えきれていない時期だったのですが、舞台に出たら周りのダンサーたちのエネルギーがすごくて「この人たちのなかだったら私も力強く踊れそう」と思ったのを覚えています。ワシーリエフ版を踊り継いできたダンサー全員がこの作品の持つバイタリティを体現していて、とにかくパワフル! 入団直後で心細さもありましたが、この作品の力が助けてくれました。

キトリの人生に寄り添いながら演じる

――若いころに踊ったキトリと、キャリアを重ねた今踊るキトリとでは、どのような違いや変化がありますか?

上野:若いころはテクニックなどのフィジカル面を気にすることが多かったですが、次第に私が演じるキトリにはどこか、洒落っ気やカッコよさを加えたいと思うようになったんです。たとえば「怒る」演技の場合、指定された振付のなかでどういう表情や仕草をすれば私なりのキトリになるかを考え、作り込むようになりました。いろいろなビデオを観て、マカロワが踊るキトリの背中の見せ方が素敵で取り入れてみたこともあります。

――自分らしい味を加えていかれたのですね。

上野:ただ振付を追うのではなく、自分の感性を加えたいと考えるようになりました。そうして何年も試行錯誤をするうち、キトリの人生に寄り添いながら演じられるようになったんです。
全幕物って、登場人物の人生を演じるものなんですよね。全3幕の間に、キトリは大好きなバジルとの結婚に反対され、ドン・キホーテたちに助けてもらって、最後はひと芝居打って父親に許してもらう――そういう紆余曲折があります。そこに寄り添って踊れると、ひとつの困難を乗り越えた女性として最後のグラン・パ・ド・ドゥに出ていくことができ、格調や風格が生まれるんです。

『ドン・キホーテ』より
Photo: Shoko Matsuhashi

――確かに、キトリは第1幕と第3幕ではキャラクターが成長しますよね。

上野:自分のなかでキトリというキャラクターを咀嚼できていれば、第3幕になったときには親への感謝や結ばれた喜びなどの感情を背負ったひとりの人間として、役柄をクリアに表現することができます。そうやって、ひとりの人間として演じることの大切さに気づいたら、命の通った人物として物語に存在できるようになりました。

――今回はキム・キミンさんと踊られますが、どんなところが楽しみですか?

上野:キムさんも何度もバジルを踊られていると思うので、私の演じるキトリと彼のバジルが一緒になったとき、どんなドラマが生まれるかが楽しみですね。世界一級のダンサーであるキムさんの感性に触れたいと思います。

『M』の「女」役は三島にとっての理想の女性

――その前に、9月にはベジャール振付の『M』にも出演されますね。3回めの「女」役ですが、この役柄についてお聞かせください。

上野:『M』は作家・三島由紀夫の人生とその作品をベジャールさんがバレエとして描いた作品で、私の踊る「女」含めて抽象的な役柄ばかりです。資料によると、三島さんは小説のなかで自分をしっかりと持った強い女性を描いていたそうなんですね。彼にとっての理想は、芯がありながら、同時に性的な魅力、つまりフェロモンがあふれている女性。そんな女性像が、私が踊る「女」という役に集約されているのだと感じます。

『M』2020年公演より 上野水香(女)、柄本弾(I - イチ)
Photo: Kiyonori Hasegawa

――その女性像が振付でも表現されているのでしょうか?

上野:メカニックな音楽で、男性に歯向かうような強さがある振りなので、そのまま踊ると戦闘的で女性らしさは出ません。でもそのなかに潜む、女性の色香や柔らかさ、優しさを出していくことで、「女」という役がより魅力的に輝くのではないかと思います。私ならではの味わいを加えていきたいですね。

――最後に『M』のなかでお好きなシーンがあれば教えてください。

上野:私は三島さんが自害したとき、腸をあらわすリボンがお腹から出てきて、それを小説の人物たちが引っ張っていくシーンに惹かれます。取り出された腸は彼の人生そのもので、その人生を彩った人物たちが腸を通じてつながっていく......言葉にするとグロテスクなシーンなのですが、すごく爽やかなシャンソンが流れていて、シュールな世界です(笑)。そんな美しいような、驚くような場面がたくさんありますので、お客さまにはベジャールさんの目を通した三島の世界を感じていただければと思います。

取材・文:富永明子(編集者・ライター)

公式サイトへ チケット購入

東京バレエ団
『M』

公演日

9/20(土)14:00
9/21(日)14:00
9/23(火・祝)13:00

会場:東京文化会館(上野)

※音楽はピアノの生演奏、および特別録音による音源を使用します。
ピアノ:菊池洋子

入場料[税込] ※東京公演

S=¥15,000 A=¥12,000 B=¥9,000
C=¥7,000 D=¥5,000 E=¥3,000
三島由紀夫 生誕100年記念ミシマU39シート=¥4,000
U25シート=¥2,000
*ペア割引[S,A,B席]あり
*親子割引[S,A,B席]あり

[予定される主な配役]

Ⅰ‐イチ:柄本 弾
Ⅱ‐ニ:宮川 新大
Ⅲ‐サン:生方 隆之介
Ⅳ‐シ(死):池本 祥真
聖セバスチャン:樋口 祐輝(9/20, 9/21)、大塚 卓(9/23)
女:上野 水香(9/20, 9/21)、伝田 陽美(9/23)
海上の月:金子 仁美(9/20, 9/21)、長谷川 琴音(9/23)
ヴィオレット:伝田 陽美(9/20, 9/21)、榊 優美枝(9/23)
オレンジ:沖 香菜子(9/20, 9/21)、三雲 友里加(9/23)
ローズ:政本 絵美(9/20, 9/21)、二瓶 加奈子(9/23)

公式サイトへ チケット購入

東京バレエ団
『ドン・キホーテ』全2幕

公演日 【東京公演】

11/18(火)13:00 *
11/19(水)19:00
11/20(木)19:00
11/21(金)19:00
11/22(土)14:00
11/23(日・祝)14:00
11/24(月・振休)14:00
* 1階に学校団体が入ります。

会場:東京文化会館(上野)

演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

入場料[税込] ※東京公演

S=¥15,000 A=¥12,000 B=¥9,000
C=¥7,000 D=¥5,000 E=¥3,000
U25シート=¥2,000
*ペア割引[S,A,B席]あり
*親子割引[S,A,B席]あり

[予定される主な配役]

キトリ:涌田 美紀(11/18)、上野 水香(11/19)、秋山 瑛(11/20,11/23)、伝田 陽美(11/21, 11/24)、中島 映理子(11/22)
バジル:二山 治雄(11/18)、キム・キミン[ゲスト](11/19, 11/21)、池本 祥真(11/20,11/23)、宮川 新大(11/22)、柄本 弾(11/24)