まもなく開幕を迎える東京バレエ団『M』。バレエ団にとって10作目のベジャール作品であり、かつ『ザ・カブキ』に続くオリジナル作品となった『M』は1993年の初演から2010年まで、長く同じ出演者たちが踊り継いできました。そんな初演キャストの中から、木村和夫(現東京バレエ団バレエ・スタッフ)、高岸直樹(現東京バレエ団アーティスティック・アソシエイト)のインタビューをお送りします。
木村和夫
――『M』の初演時にはⅢ-サンを踊られていますが、当時は創作の過程をどのように受け止められていましたか?
木村:僕が最初にベジャールさんの作品を踊ったのは『ザ・カブキ』でした。当時は入団したばかりで、群舞の他に力弥も踊らせていただきました。1993年に『春の祭典』の上演許可がバレエ団に下りたと聞いた時はとても嬉しかったことをよく覚えています。同じ年に『M』も初演するわけですが、僕はベジャールさんが大好きで、お会いできるだけで本当に嬉しかったです。そのうえ、新しいクリエーションで、オリジナルの振りまでいただけて......ベジャールさんに求められたら、やったことがないテクニックでも、「できません」なんて言えませんでした(笑)。ましてや『M』はⅠ-イチからⅢ-サンまで当時の男性プリンシパルが全員配役され、さらにⅣ-シ(死)には小林十市くん。個性の強い4名ですからお互い心の中では"誰にも負けない‼"と思っていたと思います。特にパ・ド・カトルの場面(イチ、ニ、サン、シ(死)の踊り)ではみんなで静かに戦っている感じでした(笑)。
――そんな『M』に前回から指導者として関わっているわけですが、ダンサーから指導者に立場がかわり、作品に対する見方や感じ方に変化はありましたか?
木村:『M』は男性のメインロールにとっては出番も多く体力的に非常にきつい作品なんです。踊りこんでいくうちに、この作品はただの三島作品のオムニバスではなく、全てが最後の場面への伏線、"死"につながっているということに気がつきました。指導者としてはさらに全体を俯瞰して見なければならないわけですが、稽古の時から人の生死に関わるリアリティを感じてもらえるように、と思いながら指導しています。例えば楯の会の場面。楯の会は三島に人生を預けた人たちの集団です。この場面では舞台上の全ての出演者が三島の散り際の美学、命の重みを、一歩の重みを感じながら演じてほしいと思います。誰か1人でも気持ちがこもっていないとこの場面は成立しないんです。振りがシンプルであるからこそ、そこに向き合う精神的な面を引き出せたらと思っています。
――初演時のことで、今でも印象に残っていることはありますか?
木村:今でも印象に残っているのは、ベジャールさんが本番直前に僕たち全員にかけた言葉です。"我々はこの作品で、この戦いに勝利しよう!"。そう言ってくれたんですよ!
この言葉はベジャールさんにとって創作=戦いであったことを表していると思います。気鋭の芸術家として多くの新作を発表し、今までにない新しい表現で、これまでの表現に打ち勝っていかなければならない......そのくらいの覚悟で作品を創っていたのだと思います。ベジャールさんはこれほどの気概をもってバレエに取り組んでいたのかと圧倒される思いでした。
――『M』は他のベジャール作品と比べてどのような特徴があると思いますか?
木村:例えば『ザ・カブキ』であれば討ち入りへと向かうストーリー、起承転結がハッキリと描かれています。対して『M』では断片的、抽象的に三島の作品と人生が描かれます。
振付としてのベジャールさんのスタイルはありつつも、三島由紀夫の世界観に溢れていると思います。一見アングラのように感じるパ・ド・カトルのシーンも、ベジャールさんのスタイルを身体に入れて踊ることができれば、ある種の三島の狂気を表現できると思います。
――改めて、本作の魅力はどのような点にあると思いますか?
木村:ベジャールさんは日本人以上に三島を理解していたと思います。精神的な比重の大きい作品で、生命の象徴である海からはじまり、三島の聖(性)と美としての象徴の聖セバスチャンに導かれ、憂国の想い、楯の会の決起からノスタルジックなシャンソン、そして海に帰る......改めて、ベジャールさんの色彩感覚の凄さや演出の巧さに圧倒されます。そして、こんなスケールの大きなことができて、それが1つの作品としてまとまってしまう、まさに巨匠ですよね。巨匠しか生み出せない圧倒的な世界観をもつ作品だと思います。
今回も我々バレエ団の指導者に加え、小林十市くん、高岸さん、後藤晴雄くんら様々な『M』の初演メンバーに指導に加わっていただきました。この作品の中でベジャールさんや三島由紀夫が生き続けられるよう良い形で残していけたらと思います。今回の『M』の再演でも、我々東京バレエ団は勝利します!
高岸直樹
――高岸さんは入団以来ベジャールさんから多くの作品を直接指導されています。『M』の初演の際はどのように創作がすすめられていったのでしょうか?
高岸:僕は『ザ・カブキ』を皮切りに、『舞楽』、『火の鳥』、そして海外公演の最中に代役での『ボレロ』と多くの作品を踊る機会をいただきました。すぐに思い出せるのはベジャールさんがダンサーのことを非常によく見ていた、ということです。クラスレッスンもよくご覧になっていました。例えば、当時ゲストでいらしていたレッスンコーチに僕はあるパ(動き)を直してもらっていたのですが、それがどんどん良くなっているのをみて、ベジャールさんはⅠ-イチの振付にすぐ取り入れていました。創作の中でもダンサーを否定することはなく、常に「そうそう」と背中を押して、僕たちを前に前にと引っ張ってくれるエネルギーに溢れていましたね。
――当時はどのような想いで創作に取り組んでいらしたのでしょうか?
高岸:ノイマイヤーの『時節の色』もそうですが、『M』は明確な主人公がいない作品なんですよ。そして世界初演なわけですから全体が見えない。"どこで終わるんだろう?"と思いながらリハーサルをしていました。体力の配分なんて考えている場合ではありませんから、毎日全力でしたね。ベジャールさん自身にははっきとしたイメージはあると思いますが、役柄に関してはあえて明確にしないようにしていましたね。
――『M』は他のベジャール作品と比べてどのような特徴があると思いますか?
高岸:例えば『火の鳥』などの作品であれば男性と女性では振付が違うだけで表現の本質は同じです。『M』については三島の世界ですからあえて抽象的にしていますよね。『ザ・カブキ』にも通じる武士道や愛国心、忠誠心、そのような和の心とエネルギーに溢れていますが、僕たち出演者だけではなく、観客に対してもあえて正解を出さないようにしているところが特徴ではないでしょうか。例えば映画であれば映像で鮮明に表現されますよね? でも映画に原作がある場合、本の世界はもっと自由です。人によって思い浮かべるものは異なり、文字から生まれる表現の自由があります。
――先日リハーサルを拝見しましたが、『M』の複雑な音楽と振りの関係など、高岸さんの方が現役のダンサーより的確にとらえていらっしゃるとしみじみと感じました。
高岸:僕自身は指導者になって視野が広がったことを感じています。黛さんの創作された音楽は確かに難解でダンサー泣かせではあるのですが、実際に舞台で踊るダンサーたちには自由であってほしい。ただ音にあわせて振りを踊るだけだと平面的な表現にしかならないので、心と頭、全身で音楽と振りを感じて、リハーサルの過程で自分ならではの表現方法をつかんでいってほしいと思っています。そうすることで踊りがより立体的に見えてくると思います。
――改めて『M』という作品はどのような点が魅力だと思いますか?
高岸:繰り返しになってしまうのですが、この作品は踊る側、観る側、双方にとって非常に"自由"な作品だと感じています。明確な物語や設定がないからこそ、踊るからには自分を広げ、ダンサーとしてより広がりのある表現を目指してほしいと願っています。例え群舞の役であったとしても作品や歴史の中で1人の人間として生きていたわけですから、"個"としての役を生きて、生き抜いてほしい。お客様にも自らの感性に全てをゆだねて、自由な心で作品に触れていただきたいと思っています。
9/20(土)14:00
9/21(日)14:00
9/23(火・祝)13:00
会場:東京文化会館(上野)
※音楽はピアノの生演奏、および特別録音による音源を使用します。
ピアノ:菊池洋子
S=¥15,000 A=¥12,000 B=¥9,000
C=¥7,000 D=¥5,000 E=¥3,000
三島由紀夫 生誕100年記念ミシマU39シート=¥4,000
U25シート=¥2,000
*ペア割引[S,A,B席]あり
*親子割引[S,A,B席]あり
[予定される主な配役]
Ⅰ‐イチ:柄本 弾
Ⅱ‐ニ:宮川 新大
Ⅲ‐サン:生方 隆之介
Ⅳ‐シ(死):池本 祥真
聖セバスチャン:樋口 祐輝(9/20, 9/21)、大塚 卓(9/23)
女:上野 水香(9/20, 9/21)、伝田 陽美(9/23)
海上の月:金子 仁美(9/20, 9/21)、長谷川 琴音(9/23)
ヴィオレット:伝田 陽美(9/20, 9/21)、榊 優美枝(9/23)
オレンジ:沖 香菜子(9/20, 9/21)、三雲 友里加(9/23)
ローズ:政本 絵美(9/20, 9/21)、二瓶 加奈子(9/23)