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Photo: 平舘平

2025/10/01(水)Vol.527

リッカルド・ムーティ指揮 
オペラ『ドン・ジョヴァンニ』
2025/10/01(水)
2025年10月01日号
TOPニュース
オペラ

Photo: 平舘平

リッカルド・ムーティ指揮 
オペラ『ドン・ジョヴァンニ』

リッカルド・ムーティ指揮によるオペラ『ドン・ジョヴァンニ』の公演が来年春に行われることは、前号で開催記者会見のレポートでもご紹介しました。オペラ・ファンの間では、すでに期待が高まっています。『ドン・ジョヴァンニ』というオペラの持つ魅力、さらにそれをムーティが振るということの特別な"意味"について、マエストロとは長い交流を持ち、本公演のコーディネーターを務める演出家の田口道子さんに紹介してもらいます。

ムーティ納得のダ・ポンテ三部作完結へ

先週終わったばかりの〈リッカルド・ムーティ・イタリア・オペラ・アカデミー in 東京〉における素晴らしいという言葉では言い尽くせない『シモン・ボッカネグラ』がまだ頭の中で繰り返し鳴り響いている。ヴェルディのオペラはこう演奏するものだと思い知らされたコンサートだった。すべての音符に息を吹き込んでいく巨匠ムーティの楽譜に対する読みの深さは休符にまで意味を持たせる。ヴェルディがいかに場面場面の状況を音楽で表現したか、今まで聴き流していた部分も色とりどりの表情を持っていることに改めて気づかされた。
そのムーティが来年4月に『ドン・ジョヴァンニ』を指揮する。日本ではコンサート形式でのオペラ上演が続くマエストロにとって、ウィーン国立歌劇場日本公演の『フィガロの結婚』以来10年ぶりの本格的オペラ公演だ。ウィーン国立歌劇場とは『コジ・ファン・トゥッテ』も上演しているから、この『ドン・ジョヴァンニ』でムーティ指揮によるロレンツォ・ダ・ポンテとの三部作がすべて揃うことになる。

オペラ『ドン・ジョヴァンニ』2026年公演開催記者会見でのリッカルド・ムーティ
Photo: Toru Hiraiwa

今回は3年前にトリノ王立劇場で初演されたキアラ・ムーティ演出のプロダクションだ。舞台装置一式、小道具、衣裳などすべてトリノから輸送されてくる。
この10年来ムーティが手塩にかけて育ててきた春祭オーケストラが初めてピットに入るのも楽しみだ。合唱も日本の歌手たちが出演する。
「モーツァルトはヴェルディとともに私が最も敬愛し、探求を続けている作曲家です」。先日行われた記者会見でムーティはこう語った。「モーツァルトは完璧なまでにイタリア語を話し、理解していました。イタリア語を理解していない指揮者や演出家はレチタティーヴォを早口言葉のように流してしまう傾向がありますが、レチタティーヴォの一言一言は非情に大事なのです」。 演出を手掛けるキアラ・ムーティはマエストロの愛娘だ。彼女はマエストロが最も尊敬する演出家ジョルジョ・ストレーレルに師事して女優の道に進み、近年はオペラ演出家としてイタリアとフランスを中心に活躍している。言葉を大事にし、そして決して音楽を邪魔せず、音楽と共存する演出で観客を楽しませてくれるに違いない。

キアラ・ムーティ演出『ドン・ジョヴァンニ』
トリノ王立歌劇場公演より
Photo: Andrea Macchia / Teatro Regio Torino

稀代のイイ男、ドン・ジョヴァンニへの期待

『ドン・ジョヴァンニ』の副題は「罰せられた放蕩者」つまりドン・ジョヴァンニは『悪』の象徴として描かれている。確かにカトリックの宗教上の掟では男女の肉体関係は子孫を増やすためにのみ許された時代だ。その上、娘を凌辱から救おうと駆け付けた騎士長を殺すという大罪を犯している。悪は当然罰せられ、彼は地獄に落ちて行くのだ。

キアラ・ムーティ演出『ドン・ジョヴァンニ』
トリノ王立歌劇場公演より
Photo: Andrea Macchia / Teatro Regio Torino

それにしても、召使いのレポレッロの記録によるとイタリアでは640人、ドイツ230人、フランス100人、トルコ90人、スペイン1003人という女性をモノにしたドン・ジョヴァンニとはどれほど魅力的な男性であったことか。甘い言葉とは無縁、嫌がる女性を無理やり凌辱することに興奮すると言う『トスカ』のスカルピアとは正反対。その口説きで女性を夢中にさせ、その気にさせてしまうのだろう。モデルは17世紀のスペインの伝説上の人物ドン・ファンである。1665年にモリエールが書いた戯曲「ドン・ジュアン」のほかにもドン・ファンをモデルにした作品は数多い。しかし、イタリアには実在した人物がいる。ジャコモ・カサノヴァだ。『ドン・ジョヴァンニ』の初演にも立ち会ったという彼は、その2年後1789年に「わが生涯の物語」を書き上げた。それは12巻3500ページに及ぶ大作で、1000人を超える女性との遍歴が詳細に記されているのである。

ルカ・ミケレッティ
Photo: Fabio Anselmini

さて、この魅力あふれるドン・ジョヴァンニを演じるのはイタリアの若手バリトンでありながら第一線で活躍するルカ・ミケレッティだ。彼は俳優、演出家、オペラ歌手として多忙を極めている。貴公子然とした風貌は、まさにドン・ジョヴァンニにぴったりだ。
東京文化会館が改修で閉鎖される直前を飾る大プロジェクト。日本でムーティが指揮する本格的なオペラ上演を鑑賞する最後のチャンスになるかもしれない。

田口道子(演出家)

チケット購入

W.A.モーツァルト作曲
オペラ『ドン・ジョヴァンニ』

公演日

2026年
4月26日(日) 14:00 東京文化会館
4月29日(水・祝) 14:00  東京文化会館
5月1日(金) 14:00 東京文化会館

指揮:リッカルド・ムーティ
演出:キアラ・ムーティ

[予定される主な出演者]
ドン・ジョヴァンニ:ルカ・ミケレッティ
ドンナ・アンナ:マリア・グラツィア・スキアーヴォ
ドンナ・エルヴィーラ:マリアンジェラ・シチリア
ドン・オッターヴィオ:ジョヴァンニ・サラ
レポレッロ:アレッサンドロ・ルオンゴ
ツェルリーナ:フランチェスカ・ディ・サウロ
マゼット:レオン・コーシャヴィッチ
騎士長:ヴィットリオ・デ・カンポ

管弦楽:東京春祭オーケストラ
合唱:東京オペラシンガーズ

入場料[税込]

S=¥59,000 A=¥46,000 B=¥36,000
C=¥28,000 D=¥21,000 E=¥15,000
サポーターシート=¥109,000(寄付金付きのS席)
U39シート=¥13,000 U29シート=¥10,000 

主催:公益財団法人日本舞台芸術振興会 / 東京・春・音楽祭実行委員会 / 日本経済新聞社