東京バレエ団の公演が目前に迫ったロマンティック・バレエの名作『ラ・シルフィード』。
1832年にパリ・オペラ座バレエ団で初演された、現存するバレエの中ではもっとも古い作品の1つですが、妖精と人間の儚い恋の物語や舞台ならではのあっと驚くようなマジックは、現代の観客にも新鮮な驚きをもって受け入れられています。
『ラ・シルフィード』にはいくつかのヴァージョンがありますが、ここでは東京バレエ団が採用しているピエール・ラコット版の魅力を4つの視点から徹底的にご紹介します。
『ラ・シルフィード』の世界初演時の振付は現在失われてしまっています。そこで、現存する様々な資料を集め、初演時の薫りを現在に蘇らせたのが振付家ピエール・ラコットです。と言っても、当時と現代では舞台機構やダンサーの技術に大きな開きがありますので、いくつかの場面は今の観客が観ても違和感のないようにアップデートされています。
第1幕のラ・シルフィードは神出鬼没! 幕が開いたときは儚げにたたずんでいたラ・シルフィードが、軽やかなポワントワークで舞台中をまるで風のように飛び回り、椅子や暖炉などあらゆる場所から登場し、主人公のジェイムズを翻弄するのです。ラ・シルフィードを演じるダンサーの表現方法によって、いたずらっ子のこともあれば、ジェイムズをひたむきに愛するキャラクターのこともありますので、キャストごとに見比べても楽しいでしょう。
また、第2幕冒頭には宙乗りの場面もあり、妖精たちが舞台をふわふわと漂います。19世紀にすでに舞台で宙乗りの技法が確立されていたことにも驚きですが、そのおかげで人間の住む地上にはない、妖精が飛び交う幻想的な世界を感じることができるのです。
東京バレエ団では代々群舞のリハーサルの際に作品を色でイメージし、皆で共有したうえで取り組むという伝統があります。例えば『白鳥の湖』は純白、『ジゼル』の第2幕は青白さ、そして『ラ・シルフィード』はなんとサーモン・ピンク! なぜサーモン・ピンクか、お分かりになりますか? 空気の精であるシルフィードたちは、『ジゼル』のウィリたちが抱くような恨みの気持ちや、白鳥に姿を変えられた姫たちが感じるような悲しさとは無縁の存在。緑深い森の中で楽しく舞っている彼女たちの表情は、常に笑顔でやわらか。しかも、魔女に呪いをかけられたヴェールを素直に受け取ってしまう純粋な心をもっています。
そのため、シルフィードたちのイメージは温かくて優しいサーモン・ピンクなのです。
ラ・シルフィードの姿は人間には見えません。唯一、彼女が愛する人間の青年ジェイムズだけにその姿が見えています。そんなラ・シルフィード、ジェイムズ、そしてジェイムズの婚約者であるエフィーの3名が踊るパ・ド・トロワは通称"オンブル"(影)とも呼ばれ、本作の見どころの1つです。戸惑うジェイムズと、婚約者の心変わりを敏感に察知するエフィー、そして無邪気なラ・シルフィード――。姿が見える者、見えざる者の織りなす絶妙な三角関係が踊りで表現されます。観客は、登場人物に共感しながら(または反感を覚えながら)、その美しい踊りを固唾をのんで見守ることになるでしょう。
ちなみに、世界で広く上演されているブルノンヴィル版にはこの"オンブル"の場面はなく、現在ではラコット版でのみ観ることができます。
実は『ラ・シルフィード』はそれまでのバレエの概念を覆すような様々な変革を行った作品でした。特にヒロインを初演したマリー・タリオーニはこの作品で初めてトウシューズ(ポワント)の技巧を確立させ、さらに足首の見えるロマンティック・チュチュで軽やかに踊るタリオーニの姿はパリのみならずヨーロッパ中の評判になりました。当時のパリでは足はエロスの象徴のようにもとらえられていたため、女性が人前で足を出して踊るというのはとても画期的なことだったのです。『ラ・シルフィード』による"改革"はその後のバレエ史の流れを大きく変えることになり、後の『ジゼル』、『白鳥の湖』、『ラ・バヤデール』などへと、脈々と続く名作を生み出す礎となったのです。
ほかにもシルフィードの魅力は尽きないところですが、やはり舞台は生で観るのが一番。舞台上にはさまざまな仕掛けがあり、あっと驚くシーンも。また、ダンサーごとに⼯夫した演技を⾒せてくれますので、ぜひ劇場で⾃分だけの"お気に⼊りポイント"を⾒つけてみてください。
WEBメディア「バレエチャンネル」では『ラ・シルフィード』の上演の裏側に密着した詳細レポートが掲載されています。貴重な舞台裏の写真がタップリつまった充実のレポートです。(※2020年公演時のレポートです)
https://balletchannel.jp/6905
11月2日(日)14:00
11月3日(月・祝)14:00
会場:東京文化会館(上野)
演奏:シアターオーケストラトウキョウ
S=¥15,000 A=¥12,000 B=¥9,000
C=¥7,000 D=¥5,000 E=¥3,000
U25シート=¥2,000
*ペア割引[S,A,B席]あり
*親子割引[S,A,B席]あり
[予定される主な配役]
ラ・シルフィード:沖 香菜子(11/2)、秋山 瑛(11/3)
ジェイムズ:宮川 新大(11/2)、生方 隆之介(11/3)
エフィー:三雲 友里加(11/2)、足立 真理亜(11/3)