NEW2025/11/05(水)Vol.529
| 2025/11/05(水) | |
| 2025年11月05日号 | |
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| 「ドン・ジョヴァンニ」オペラリッカルド・ムーティ |
Photo: Fabio Anselmini
Photo: Francesca Errichiello
Photo: Ugo Car levaro e Ewa Lang
過酷な夏の暑さが一気に冬の様相を感じさせ、ウィーン国立歌劇場日本公演が幕を閉じましたが、日本のオペラ・ファンの皆さまのボルテージはすでに次へと向かって高まっているのではないでしょうか? 2026年春、リッカルド・ムーティ指揮のオペラ『ドン・ジョヴァンニ』は、東京文化会館の長期休館前の最後というだけでなく、リッカルド・ムーティが舞台つきのオペラを振る10年ぶりの機会なのですから! 出演歌手について、2回に分けてオペラ評論家の香原斗志さんにご紹介いただきます。
ムーティは若いころから、ヴェルディと並んでモーツァルトを敬愛し、特別に力を注いできた。その集大成がこの『ドン・ジョヴァンニ』だといえる。特に歌手陣の選定には、ムーティならではの強いこだわりが貫かれている。『ドン・ジョヴァンニ』の台本はイタリア語で書かれ、オーストリア人のモーツァルトは、イタリア語の意味と響きを最大限に活かして作曲している。ムーティはその原点に立ち返ったうえで、オペラを極限まで掘り下げようとする。そのために集められた究極の歌手たちを、2回にわたって紹介する。
ドン・ジョヴァンニ役は、あらゆる女性を虜にしてしまう貴族にふさわしい、ノーブルな美声が比類ないバリトンが選ばれた。ルカ・ミケレッティ。1985年に北イタリアのブレーシャで生まれたミケレッティは、カップッチッリ、ブルゾン、ヌッチの系譜に連なる、極めつきのイタリアン・バリトンで、その声にはとにかく圧倒される。2021年4月、東京・春・音楽祭のムーティ指揮『マクベス』でタイトルロールを歌い、強い印象を残したが、声も表現もそのときよりさらに磨かれている。
多彩な活動はオペラに留まらない。ミラノ大学とヴェネツィア大学で文学と演劇の学位を取得し、ローマ大学ではイタリア学の博士号を得ている。というのも、生まれた家の関係もあって幼少期から演劇に携わり、俳優および演出家としても権威ある賞を数々受賞しているのだ。一方、卓越した歌唱はムーティら名だたる指揮者の信頼がとても厚い。一般的な歌手の水準を大きく超えた演劇的理解が歌唱の深みにつながり、そのことでさらに高い評価を得るにいたっているのはいうまでもない。
ドン・ジョヴァンニに最愛の父を殺され、復讐を誓いながらも、どこかジョヴァンニに惹かれ続けるドンナ・アンナ。貴族であり、道徳的なのに、背徳につながりかねない情熱をいだくこの役は、一筋縄では表現できない。ソプラノのマリア・グラツィア・スキアーヴォは、温かみのある美声を万全のテクニックで縦横に操り、そこに載せる微妙な心情を刻々と変化させる。毅然としたレガートにも軽やかなコロラトゥーラにも漂う貴族的な香りも、この役には欠かせないものだ。
1975年、ナポリ生まれ。つまりムーティと同郷である。生地の伝統あるサン・ピエトロ・ア・マイエッラ音楽院で学んだのち、ローマのサンタ・チェチーリア国際アカデミーのコンクールや、クレル=モンフェラン国際コンクールで優勝。その後、バロック音楽やベルカント・オペラのレパートリーを中心にキャリアを重ねてきた。その精緻な歌唱はまさにムーティが求めるものだといえる。
どんなに裏切られてもドン・ジョヴァンニを愛し続けるドンナ・エルヴィーラ。その痛いほど一途な情熱は、絶対に曲げない信念と言い換えることもできる。モーツァルトはそうした彼女の性格を音楽に巧みに織り込んでいる。マリアンジェラ・シチリアの芯のある声は、まさにエルヴィーラを表現するために理想的である。しかも、芯でしっかり支えられた声を、やわらかく輝かせるテクニックがあり、すべての音に気品をみなぎらせる。
現在、イタリアでもっとも人気があるソプラノの一人で、南イタリアのコゼンツァの出身。地元の音楽院で声楽とピアノを学んだのち、エクサンプロヴァンス音楽祭のモーツァルト・アカデミーとペーザロのロッシーニ・アカデミーで研鑽を積んだ。実際、モーツァルトのオペラに問われる繊細な感情表現が抜群で、それがロッシーニのオペラに必要な装飾歌唱を緻密にこなすテクニックで裏づけられている。2014年、プラシド・ドミンゴ主宰のコンクール「オペラリア」で3位に入賞してから、名門歌劇場や音楽祭から引っ張りだこの状態に。高度な技巧を駆使しながら、盤石の安定感をもって歌えるのだから当然だ。
どちらかというと硬質な声だが、ジョヴァンニ・サラの歌はいつもかぎりなくやわらかく響く。声楽的に完璧な証で、声を変幻自在に操って聴かせる気品あふれる歌唱には、陶然とさせられる。また、やさしい声から硬さを活かした力強い声まで、表現の幅もテノール一般を大きく超える。それはまさに、優美である一方、力強さも欠かせないドン・オッターヴィオ役を歌うために理想的な特徴である。
1992年に北イタリアのコモ湖に面した町レッコで生まれた。コモのジュゼッペ・ヴェルディ音楽院でフィオレンツァ・チェドリンスに師事したのち、名門のミラノ・スカラ座アカデミーで学んだ。数々の受賞を経て現在、世界の名門歌劇場や音楽祭を中心に活躍している。とりわけモーツァルトの役は、ムーティとの数々の競演で磨き抜かれている。
香原斗志(オペラ評論家)
2026年
4月26日(日) 14:00 東京文化会館
4月29日(水・祝) 14:00 東京文化会館
5月1日(金) 14:00 東京文化会館
指揮:リッカルド・ムーティ
演出:キアラ・ムーティ
[予定される主な出演者]
ドン・ジョヴァンニ:ルカ・ミケレッティ
ドンナ・アンナ:マリア・グラツィア・スキアーヴォ
ドンナ・エルヴィーラ:マリアンジェラ・シチリア
ドン・オッターヴィオ:ジョヴァンニ・サラ
レポレッロ:アレッサンドロ・ルオンゴ
ツェルリーナ:フランチェスカ・ディ・サウロ
マゼット:レオン・コーシャヴィッチ
騎士長:ヴィットリオ・デ・カンポ
管弦楽:東京春祭オーケストラ
合唱:東京オペラシンガーズ
S=¥59,000 A=¥46,000 B=¥36,000
C=¥28,000 D=¥21,000 E=¥15,000
サポーターシート=¥109,000(寄付金付きのS席)
U39シート=¥13,000 U29シート=¥10,000
主催:公益財団法人日本舞台芸術振興会 / 東京・春・音楽祭実行委員会 / 日本経済新聞社