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NBS日本舞台芸術振興会
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リハーサルを指導するウラジーミル・ワシーリエフと齋藤友佳理(2014年公演より)<br>Photo Shinji Hosono

NEW2025/11/05(水)Vol.529

バレエ界のレジェンド、ウラジーミル・ワシーリエフが語る
『ドン・キホーテ』の変遷
2025/11/05(水)
2025年11月05日号
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バレエ
東京バレエ団

リハーサルを指導するウラジーミル・ワシーリエフと齋藤友佳理(2014年公演より)
Photo Shinji Hosono

バレエ界のレジェンド、ウラジーミル・ワシーリエフが語る
『ドン・キホーテ』の変遷

ロシア・バレエ界黄金期を代表するスターであり、かつてボリショイ劇場芸術総監督やローマ歌劇場バレエ団の芸術監督も歴任したウラジーミル・ワシーリエフ。ワシーリエフは古典作品の改訂振付・演出でも高評を得ており、彼の手がけた作品は今なお世界各地で上演されています。中でも、東京バレエ団が上演している『ドン・キホーテ』は数あるヴァージョンの中でも名版の誉れ高く、これまでに幾度となく再演を重ねてきました。振付家であるワシーリエフ本人の言葉とともに、そんな名作誕生の背景について、またその変遷を追ってみました。

ウラジーミル・ワシーリエフと柄本弾 (2014年の公演リハーサルより)
Photo: Shinji Hosono

ワシーリエフ版の特徴は"疾走感"

ワシーリエフ版最大の特徴は、全3幕構成だった『ドン・キホーテ』をプロローグ付きの全2幕に再構成したことです。さらに通称"夢の場"と"酒場"の場面を入れ替えることで物語のつながりがよりクリアになり、主役のキトリとバジルだけではなく、ドン・キホーテとサンチョ・パンサの物語も観客に伝わりやすくなりました。もともと『ドン・キホーテ』は踊りの見せ場の多い作品ですが、物語と踊りのバランスがよくなり、全編に疾走感があふれる一大スペクタクルとなりました。

星のような素晴らしい場面の連続、時代をへても変わらないマスターピース

また、ワシーリエフは『ドン・キホーテ』の魅力の1つに様々なスタイルのダンスが凝縮されていることをあげています。
「『ドン・キホーテ』にはコミカル、ドラマティック、悲劇など様々な要素が含まれています。あらゆるジャンルの要素が舞台上で渾然一体となり、ミンクスの音楽を通じて表現されるのです。颯爽とした闘牛士たち、華やかな踊り子、妖精たちの優美なクラシックダンス、街の喧騒の中で踊られる陽気なセギディーリャ、そしてフィナーレまで多彩なダンスが繰り広げられ息つくひまもないほどです」

"夢の場"より。ドゥルシネア姫は秋山瑛
Photo: Shoko Matsuhashi

そして『ドン・キホーテ』の中でも、初演以来変わらず受け継がれてきた場面の1つが闘牛士たちとメルセデスの踊りであると、ワシーリエフはその重要性を強調します。

エスパーダ役:柄本弾、メルセデス役:政本絵美
Photo: Shoko Matsuhashi

「闘牛士とメルセデスの踊りは屋外で踊られ、闘牛士ひとりひとりが自身の素晴らしさをアピールします。クラシック・バレエというのはどんな時代もつねに様々なダンサー、振付家たちが少しずつ従来の作品に変化を、新しい"色"を入れてきました。もちろん私が『ドン・キホーテ』を手がけたときも振付をいろいろと変えています。ただし、そこにはスタイルというものがあります。そのスタイルを残すということは非常に大切なことでした。現代的なものにするのではなく、独特の"色"を入れながらスタイルを残すことが重要なのです。メルセデスの踊りは時代が変わってもずっとそのまま残されてきた、真のマスターピースと言えます」

エスパーダ役:柄本弾、メルセデス役:政本絵美

ワシーリエフが確立させたバジルのヴァリエーション

「私がバジル役を踊り始めた頃、私を指導してくれたのはアレクセイ・エルモラーエフでした。男性のバレエは彼からはじまったと言われるほど素晴らしいダンサーで、彼はいつもこう言っていました『もう僕は皆と同じバジルは踊れない、何か変えなければいけない』。なぜ変えたいのかを聞いたら『日々のレッスンでは動きをいろいろと変えて踊っている。ではなぜ舞台では変えることができないんだ?』というのです。そのとき初めて分かったのです。これからの人生、クラシック・バレエに関わっていくのなら時代とともに変化させていくことが大切なのだと、ただしそのスタイルは残しつつ、登場人物の中に新しい遊びを入れ、今の時代の観客を感動させることが大切だと分かったのです。エルモラーエフは私がバジルを練習しはじめたとき、実に様々な変化を加えていきました。アダージオの部分はそのままでしたが、そのあとに続く部分はとにかくどんどん変えていったのです」

『ドン・キホーテ』グラン・パ・ド・ドゥより。
バジル役:柄本弾 キトリ役:上野水香 
Photo: Kiyonori Hasegawa

「私が初めてバジルを踊ったときにはいろいろな意味での覚悟がありました。特にヴァリエーション(ソロの踊り)はすっかり変えることになりました。バジルのキャラクターのスタイルは残していましたが、踊りを大きく変え、そのために観客が本当に怒ってしまったことを覚えています。その1年後、たまたまヴァルナ国際バレエコンクールに行ったときに『ドン・キホーテ』のグラン・パ・ド・ドゥを踊る若いダンサーたちを見ました。すると彼らは私とエルモラーエフが創りあげたヴァリエーションを踊ったのです。それからずっと世界中のバレエ・コンサートでは私たちがあのときに創ったヴァリエーションが踊られているのです。もとのゴールスキーからはすっかり変わっていますが、私が踊ったあともまたどんどん変わっています。たまに過去に戻り、昔のダンサーたちはどんなことを言っていたのか、知りたくなるときもありますが(笑)。本当にこのパ・ド・ドゥは大きな宝石のような輝きを放っていると思います」

キトリ役:沖香菜子、バジル役:宮川新大

文責:NBS

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東京バレエ団
『ドン・キホーテ』全2幕

公演日 【東京公演】

11/18(火)13:00 *
11/19(水)19:00
11/20(木)19:00
11/21(金)19:00
11/22(土)14:00
11/23(日・祝)14:00
11/24(月・振休)14:00
* 1階に学校団体が入ります。

会場:東京文化会館(上野)

演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

入場料[税込] ※東京公演

S=¥15,000 A=¥12,000 B=¥9,000
C=¥7,000 D=¥5,000 E=¥3,000
U25シート=¥2,000
*ペア割引[S,A,B席]あり
*親子割引[S,A,B席]あり

[予定される主な配役]

キトリ:涌田 美紀(11/18)、上野 水香(11/19)、秋山 瑛(11/20,11/23)、伝田 陽美(11/21, 11/24)、中島 映理子(11/22)
バジル:二山 治雄(11/18)、キム・キミン[ゲスト](11/19, 11/21)、池本 祥真(11/20,11/23)、宮川 新大(11/22)、柄本 弾(11/24)