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Photo: FMichele Monasta <br>Photo: Simona Aquino

2025/11/19(水)Vol.530

リッカルド・ムーティ指揮 オペラ『ドン・ジョヴァンニ』
究極の歌手たち(2)
2025/11/19(水)
2025年11月19日号
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オペラ

Photo: FMichele Monasta
Photo: Simona Aquino

リッカルド・ムーティ指揮 オペラ『ドン・ジョヴァンニ』
究極の歌手たち(2)

リッカルド・ムーティ指揮 オペラ『ドン・ジョヴァンニ』に登場する歌手の紹介2回目。役柄のキャラクターとそこに発揮される歌手の魅力をつぶさに紹介していただけるのはオペラ評論家の香原斗志さんならでは!

イタリア語の響きにこだわるマエストロが厳選した実力派

1787年10月29日、『ドン・ジョヴァンニ』が初演された都市はプラハだが、歌ったのはイタリア人歌手が中心だった。それは当時、イタリア語で書かれたオペラは、イタリア語の美しい響きと切り離せないと考えられていたからだ。そしていまムーティもまた、イタリア語の響きにこだわって、真に力がある歌手を厳選した。

抜群の滑稽味を醸しレポレッロの複雑な性格を描くルオンゴ

アレッサンドロ・ルオンゴ
Photo: FMichele Monasta

レポレッロという役は難しい。全体にコミカルな雰囲気を醸しつつ、主人のドン・ジョヴァンニを讃えながら軽蔑しているという複雑な性格を表わすのだから。その点でアレッサンドロ・ルオンゴは卓越している。暗さと明るさが同居した低声を柔軟に操り、無限の色彩を加えてシリアスな状況も、コミカルな状況も、的確に描き分けることができる。

1978年に斜塔で有名なトスカーナ州のピサに生まれ、アレッサンドロ・コルベッリ、レナート・ブルソン、ミレッラ・フレーニら錚々たる師匠のもとで学んだ。若いオペラ歌手のための国際AsLiCoコンクールのほか、数多くのコンクールで最優秀賞を獲得したのち、ミラノ・スカラ座、ローマ歌劇場、ウィーン国立歌劇場等々へ出演を重ねてきた。とりわけレポレッロに必要な喜劇的な表現は、冴えに冴えている。

ムーティの評価「ツェルリーナは難役」の答えがディ・サウロ

フランチェスカ・ディ・サウロ
Photo: Simona Aquino

ツェルリーナといえば素朴で愛らしいイメージが強いが、同時に、ドン・ジョヴァンニの誘惑に惹かれつつ婚約者のマゼットに言い繕うという、したたかさも秘めている。ムーティがフランチェスカ・ディ・サウロを起用したのは、この役がかわいらしいだけでは務まらないと考えるからだろう。というのも、ディ・サウロはかなりドラマティックな役も歌えるメゾ・ソプラノなのである。

艶やかな声を安定的に響かせ、バロックからロマン派まで見事に歌いこなすディ・サウロは、1994年にナポリに生まれた。生地の名門サン・ピエトロ・ア・マイエッラ音楽院で学んだのち、フィレンツェの五月音楽祭アカデミーを修了。若い歌手のための国際AsLiCoコンクールでカルメン役を射止め、25歳にしてムーティ指揮のもとで歌ったのは、『カヴァレリア・ルスティカーナ』のサントゥッツァだった。こうしたドラマティックな役からツェルリーナまで歌い分けることができるのは、もちろん、完璧なテクニックの支えがあればこそ、である。

コーシャヴィッチはマゼット役としては異例のハイレベル

レオン・コーシャヴィッチ

旋律を叙情的に美しく歌えれば務まる――。そう軽くあつかわれることもあるマゼット役だが、ムーティの答えは違う。そこにバリトンのレオン・コーシャヴィッチという、大いなる逸材を起用したのである。マゼットという役にコーシャヴィッチの水準の歌手が充てられることは珍しい。

あふれ出る美声を極めて音楽的に響かせ、端正かつ表現力豊かに歌うコーシャヴィッチは、1991年にクロアチアで生まれた。12歳で声楽をはじめ、ザグレブの音楽アカデミー修了後、ホセ(ジョゼ)・ヴァン・ダムに師事。早くも2011年には、クロアチア国立歌劇場でパパゲーノを歌ってプロデビューし、以後、モーツァルトやヴェルディから現代作品まで幅広いレパートリーで、世界の主要歌劇場を席巻している。今後、世界的に存在感をますます高めるのは確実で、この水準の歌手がマゼットを歌ってくれるとは、なんとも贅沢。ムーティの『ドン・ジョヴァンニ』の質が高いことの、ひとつの象徴といえる。

騎士長のデ・カンポは新時代を代表する力強く貴族的なバス

ヴィットリオ・デ・カンポ

ドン・ジョヴァンニを地獄へと引きずる騎士長だから、低く、力強く、威圧的な声が欠かせない。ヴィットリオ・デ・カンポは、1992年に北イタリアのティラーノに生まれた若いバスだが、貴族的な品位あるフォルムを、周囲を圧する地響きのような低声で満たす。しかも流麗なレガートはエレガントで、その点も貴族である騎士長には欠かせない要素だ。

デ・カンポはミラノ・ビコッカ大学で経済学と商学を学びながら、声楽を習得したという異才である。新型コロナ・ウイルス禍が下火になったころから、各地のコンクールを軒並み制覇するようになり、ラヴェンナでのムーティのアカデミーに参加した。2024年の東京・春・音楽祭『アイーダ』における格調高いランフィスは記憶に新しい。時代を代表するバスに成長するだろう。

一人ひとりの歌手のレベルが高いことはもちろんのこと、これほど適材適所が見事に貫かれたキャスティングは、なかなかない。それぞれの役が深掘りされつつ、アンサンブルも無上の水準になることだろう。

香原斗志(オペラ評論家)

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W.A.モーツァルト作曲
オペラ『ドン・ジョヴァンニ』

公演日

2026年
4月26日(日) 14:00 東京文化会館
4月29日(水・祝) 14:00  東京文化会館
5月1日(金) 14:00 東京文化会館

指揮:リッカルド・ムーティ
演出:キアラ・ムーティ

[予定される主な出演者]
ドン・ジョヴァンニ:ルカ・ミケレッティ
ドンナ・アンナ:マリア・グラツィア・スキアーヴォ
ドンナ・エルヴィーラ:マリアンジェラ・シチリア
ドン・オッターヴィオ:ジョヴァンニ・サラ
レポレッロ:アレッサンドロ・ルオンゴ
ツェルリーナ:フランチェスカ・ディ・サウロ
マゼット:レオン・コーシャヴィッチ
騎士長:ヴィットリオ・デ・カンポ

管弦楽:東京春祭オーケストラ
合唱:東京オペラシンガーズ

入場料[税込]

S=¥59,000 A=¥46,000 B=¥36,000
C=¥28,000 D=¥21,000 E=¥15,000
サポーターシート=¥109,000(寄付金付きのS席)
U39シート=¥13,000 U29シート=¥10,000 

主催:公益財団法人日本舞台芸術振興会 / 東京・春・音楽祭実行委員会 / 日本経済新聞社

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