本年の年末をかざる『くるみ割り人形』。東京バレエ団が上演している斎藤友佳理版では"クリスマスツリーの中に迷い込んでしまったマーシャの驚き"という独自のコンセプトで華やかな世界が描かれます。そんな『くるみ割り人形』を初演から支えているのが東京バレエ団を代表するプリンシパルの沖香菜子と宮川新大。2人が作品の魅力と今だから話せる初演の際の舞台裏を舞台ライターの高橋彩子さんが聞きました。
――斎藤友佳理改訂振付・演出版『くるみ割り人形』の初演は2019年。お二人がプリンシパルになられた翌年に迎えた新制作でした。
宮川:ツリーの中にマーシャが入っていくという設定で、ディヴェルティスマンのダンサーもツリーから出入りするので、初演の時はその動きやダンサーたちが顔を出すツリーの窓の開け閉めのタイミングなどに時間がかかって。振りが前のヴァージョンからそんなに変わらなかった主役の僕らは放置気味というか(笑)、自分たちで踊りを頑張ろう!という感じでしたね。しかも雪でシベリア鉄道が動かなくなって、舞台美術がギリギリまで届かなかったんです。友佳理さんから「もしかしたら前のヴァージョンの美術で上演することになるかもしれない」と言われて......。初日の2日前に無事に届いて客席から美術を見た時、みんなで感動したのを覚えています。
沖:私はマーシャの部屋がものすごく広かったのでびっくりしました(笑)。雪の場面の美術も、木の隙間からダンサーが見えてしまうので幕袖の奥に入るまで気が抜けなくて大変ですが、立体感がありますし、リアルなセットになりましたね。
――新たな演出・振付で特に印象深いところはどこでしょうか?
沖:リハーサルの途中で、第1幕で小ネズミが持っていったスリッパが第2幕のラストシーンへと繋がったことをよく覚えています。最後、マーシャが夢から覚めた時にスリッパが片方ないことから「ただの夢ではないかもしれない」と思わせる演出が加わり、マーシャがただ目覚めるだけよりも物語が深まった気がして。あと、マーシャがネズミとの戦いで倒れたくるみ割り人形の前で泣いていると、ドロッセルマイヤーが魔法を使って王子として起き上がらせる "目覚め"のシーン。ドロッセルマイヤーが王子にマーシャを託して、そこからマーシャと王子の物語に変わっていく感じになったのもすごく好きです。
宮川:そうそう、あの場面はドロッセルマイヤーと王子の動きが合わなければいけないので、初演ではずっとそこを練習していた記憶があります。
沖:マーシャはその前のパーティーのシーンでもフリッツにくるみ割り人形を壊されて泣くのですが、泣いている2つの場面でのドロッセルマイヤーの動きはほぼ一緒なんです。一方、マーシャの泣き方は、同じようでいて違うのが難しくて。私はパーティーで壊された時はおもちゃを壊された子供の泣き方、2度目に泣く時はもう少し大人というか、人が亡くなってしまったような感覚で演じています。
宮川:この『くるみ割り人形』って、マーシャだけでなく王子の成長もある気がするんです。王子が目覚めた当初のマーシャはお姫さまではなく、初めて手を繋ぐ時はお互いにためらいつつ恥じらいつつという感じ。つまりこちらもまだ最初は"ザ・王子"というわけでもないのではないかと僕はとらえていて。マーシャと一緒に変わっていき、最後は包容力をつけてグラン・パ・ド・ドゥを迎えるよう心がけています。
――初演から毎年上演を重ね、今回7回目にして初めてお二人が組んで踊ります。
沖:実は前のヴァージョンの『くるみ割り人形』で一回、一緒に踊ったんだよね。
宮川:そう。あの時は散々、迷惑をかけちゃって。
沖:いやいや、私のほうこそ。
宮川:僕は初めての主役だったのでリフトが全然できなくて。一回リハーサルで失敗したあと1週間、手が震えて持ち上げられなくなったんです。舞台で成功した時は、袖でダンサーたちが拍手してくれたのを思い出します。この『くるみ割り人形』はラブリーな世界ですが、女性の主役は出ずっぱりですし、男性の主役もリフトが多くてバレエ団のレパートリーの中で1、2を争う難しさ。グラン・パ・ド・ドゥの音楽も原曲に近く、アダージオの尺が長くなっていますし。王子が初めて登場する"目覚め"の場面の前、ツリーの後ろで待機している時は、6年踊ってきた今でもすごく緊張します。このヴァージョンでは舞台美術の都合で、けっこう早く待機しないといけないんですけど。
沖:マーシャがネズミを追って舞台裏に回ると、もう王子がスタンバイしているんです。私はいつもネズミだけを目で追って、待機している人のことはできるだけ見ないようにして(笑)。
――見えないところに沢山の工夫や苦労があって、あの素敵な世界ができているのですね。最後に、観客に向けてお誘いの言葉をいただけますか?
沖:クリスマスらしさが詰まっている舞台です。お子さんにはマーシャと同じような夢を見たいと思ってもらえたら嬉しいですし、大人の方にも、寒い中でクリスマスソングが聞こえて街にイルミネーションが灯るとワクワクするあの感覚を舞台で味わっていただけたら嬉しいです。
宮川:冬といえば、そしてクリスマスといえば、『くるみ割り人形』ですよね。僕はバレエを観たことがない友人にはまずこの作品においでと言っているくらいで、初めて観る人にも入りやすく楽しんでもらえる作品だと思います。踊りはもちろんですが美術も綺麗で、総合芸術としてでき上がっているし、6年間上演し続ける中で良い意味でみんな慣れて磨かれてきた、バレエ団の代表作の一つ。ぜひ観に来ていただきたいですね。
取材・文:高橋彩子(舞台芸術ライター)
12/11(木)19:00
12/12(金)12:30*
12/12(金)18:30
12/13(土)12:30
12/13(土)17:30*
12/14(日)14:00
* 12/12(金)12:30公演、12/13(土)17:30公演は、学校団体が入ります。
会場:東京文化会館(上野)
指揮:フィリップ・エリス
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
児童合唱:NHK東京児童合唱団
S=¥15,000 A=¥12,000 B=¥9,000
C=¥7,000 D=¥5,000 E=¥3,000
U25シート=¥2,000
*ペア割引[S,A,B席]あり
*親子割引[S,A,B席]あり
[予定される主な配役]
【東京公演】
マーシャ:沖 香菜子(12/11, 12/14)、足立 真里亜(12/12昼)、秋山 瑛(12/12)、金子 仁美(12/13昼)、涌田 美紀(12/13)
くるみ割り王子:宮川 新大(12/11, 12/14)、二山 治雄(12/12昼)、大塚 卓(12/12)、池本 祥真(12/13昼)、生方 隆之介(12/13)
12/24(水)18:30
会場:フェニーチェ堺 大ホール
マーシャ:足立 真里亜
くるみ割り王子:二山 治雄
指揮:井田 勝大
演奏:大阪フィルハーモニー交響楽団
12/26(金)17:30
会場:兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
マーシャ:秋山 瑛
くるみ割り王子:大塚 卓
指揮:井田 勝大
演奏:大阪フィルハーモニー交響楽団
12/28(日)15:00
会場:島根県民会館 大ホール
マーシャ:金子 仁美
くるみ割り王子:池本 祥真
*音楽は特別録音による音源を使用します。