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Photo: Andrea Macchia

2025/12/03(水)Vol.531

リッカルド・ムーティ指揮 オペラ『ドン・ジョヴァンニ』
ルカ・ミケレッティ インタビュー
2025/12/03(水)
2025年12月03日号
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オペラ

Photo: Andrea Macchia

リッカルド・ムーティ指揮 オペラ『ドン・ジョヴァンニ』
ルカ・ミケレッティ インタビュー

2026年4、5月に開催されるリッカルド・ムーティ指揮オペラ『ドン・ジョヴァンニ』でタイトルロールを演じるルカ・ミケレッティ。今年9月には大阪・関西万博のイタリアナショナルデーのコンサートに登場。オペラ評論家の香原斗志さんが大阪にてインタビューを行いました。

ムーティが「もっとも興味深いバリトン」と太鼓判を押すルカ・ミケレッティ

リッカルド・ムーティ指揮のもと、ドン・ジョヴァンニ役を歌うのは、ムーティが「もっとも興味深いバリトン」と太鼓判を押すルカ・ミケレッティである。事実、イタリアで一番旬なバリトンで、音楽的にも演劇的にも、ほかを寄せつけない高みに上りつつある。そのミケレッティに対面でインタビューした。

4世代にわたる演劇の家系

2021年、東京・春・音楽祭におけるリッカルド・ムーティ指揮『マクベス』が衝撃的な日本デビューだった。以後、欧米の主要な歌劇場でルカ・ミケレッティは、日増しに存在感を高め、拙著『魅惑のオペラ歌手50 歌声のカタログ』でも取り上げている。実際、聴けばその歌声にも、オペラ歌手の水準を超えた演技にも圧倒され、その際、周囲も必ずといっていいほど衝撃を受けている。

私はミケレッティがイタリアの傑出したバリトン、カップッチッリ、ブルゾン、ヌッチの流れに連なる唯一の存在と信じて疑わないが、ただ、このたび歌うのは、この3人があまり歌わなかった(ブルゾンは『ドン・ジョヴァンニ』も歌ったが)モーツァルトである。それについてミケレッティはどう語るか。
「私もこの偉大な3人からインスピレーションを受けましたが、彼らと違うのはモーツァルトが大事なレパートリーであること。マエストロ・ムーティのおかげです。2019年の『フィガロの結婚』を皮切りに、モーツァルトをよく歌ってきました。ヴェルディとモーツァルトでは時代もスタイルも違いますが、特にイタリア語で書かれたダ・ポンテ三部作は、イタリア・オペラの伝統上でヴェルディにつながります。私が最近、『ファルスタッフ』を歌ったのは偶然ではなく、このヴェルディには珍しい喜劇は、モーツァルトから継承された伝統を理解するための秘密の鍵です」

また、ミケレッティはこの2人の作曲家のオペラがともに「音楽のための演劇」だと語るが、演劇的側面を深めるのは、彼の血統によるともいえる。
「私の家族は19世紀初めから4代にわたって劇場で仕事をしており、私自身、俳優兼監督としてキャリアをスタートさせ、その活動はいまも歌と並行して続けています。歌手としては、マエストロ・ムーティとの出会いが決定的で、まさにムーティとともにキャリアを重ねています」
そのなかでも特別な経験が『ドン・ジョヴァンニ』での共演だという。

ドン・ジョヴァンニを演じるルカ・ミケレッティ
(トリノ王立劇場公演より)
Photo: Andrea Macchia

神への挑戦が音楽的かつ演劇的に描かれる

「『ドン・ジョヴァンニ』を私はよく歌い、ムーティとは東京が3回目です。この物語について、イタリアには『雷に打たれた無神論者』というテキストもあり、そこでは神を冒涜する者が天罰を受けます。ムーティと演出のキアラ・ムーティの解釈でも、ジョヴァンニには熱狂と一種の執着があり、女性に執着するだけでなく、無神論者として神に挑戦します。つまり超自然的なものに執拗に挑みます。こうした狂気や病的な側面が、マエストロの指揮で音楽的に、キアラの演出で演劇的に、それぞれ深く探求されます。この解釈は声楽面にも影響し、レチタティーヴォは歌うより話すように表現し、真実味を出すように求められ、アリアや重唱はスピーディに展開する物語のなかで、小休止の場のようです」
音楽が内包するものも含め、とても演劇的な『ドン・ジョヴァンニ』になりそうだ。

「行動が非難されるドン・ジョヴァンニからは、ある種の人間性も強く表出します。超自然的なものに対するジョヴァンニの戦いは、神の神秘が理解できない私たち自身の戦いでもあるのです。それはモーツァルトの音楽のなかに書き込まれ、ムーティが引き出します。そしてキアラの演出では、ジョヴァンニが超自然に執着する一方で、舞台上のほかの人たちは操り人形のようにジョヴァンニに執着し、ジョヴァンニが地獄に堕ちると、魂も良心も失ってしまいます。彼らはジョヴァンニなしでは存在しない、というのはとても示唆的です」
こうした状況が、オペラの「暗い部分、知的なアイロニーがあふれる部分、喜劇的な部分をムーティがそれぞれ際立たせる」ことで立体的に描かれるとミケレッティ。傾斜した舞台上でそれを表現するのは、「演劇的にも肉体的にも大変」だそうだが、すでに述べた解釈に応えるために、「大きな挑戦」として、この主役を歌い演じるという。

それはチームワークがあって生まれるものでもある。
「2022年11月にトリノ王立劇場でプレミエを迎えてから3年。直後に娘が生まれたので、この舞台は娘と同い年です。その間、私たちはおたがいをよく知り、尊敬し合い、いまや家族のようです。このチームワークによる賜物を、音楽や演劇に関し、世界でも特にすぐれた知性と能力がある日本のみなさんの前で披露できるのは、このうえないよろこびです」

ルカ・ミケレッティ
Photo: NBS

『ドン・ジョヴァンニ』というオペラのイメージがすっかり更新されるのは、まちがいなさそうだ。

香原斗志(オペラ評論家)

チケット購入

W.A.モーツァルト作曲
オペラ『ドン・ジョヴァンニ』

公演日

2026年
4月26日(日) 14:00 東京文化会館
4月29日(水・祝) 14:00  東京文化会館
5月1日(金) 14:00 東京文化会館

指揮:リッカルド・ムーティ
演出:キアラ・ムーティ

[予定される主な出演者]
ドン・ジョヴァンニ:ルカ・ミケレッティ
ドンナ・アンナ:マリア・グラツィア・スキアーヴォ
ドンナ・エルヴィーラ:マリアンジェラ・シチリア
ドン・オッターヴィオ:ジョヴァンニ・サラ
レポレッロ:アレッサンドロ・ルオンゴ
ツェルリーナ:フランチェスカ・ディ・サウロ
マゼット:レオン・コーシャヴィッチ
騎士長:ヴィットリオ・デ・カンポ

管弦楽:東京春祭オーケストラ
合唱:東京オペラシンガーズ

入場料[税込]

S=¥59,000 A=¥46,000 B=¥36,000
C=¥28,000 D=¥21,000 E=¥15,000
サポーターシート=¥109,000(寄付金付きのS席)
U39シート=¥13,000 U29シート=¥10,000 

主催:公益財団法人日本舞台芸術振興会 / 東京・春・音楽祭実行委員会 / 日本経済新聞社