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Photo: Yoshihiro Kawaguchi<br>Photo: Kiran West <br>Photo: Anton Corbijn

2025/12/03(水)Vol.531

東京バレエ団〈レジェンズ・ガラ〉
2025/12/03(水)
2025年12月03日号
TOPニュース
バレエ
東京バレエ団

Photo: Yoshihiro Kawaguchi
Photo: Kiran West
Photo: Anton Corbijn

東京バレエ団〈レジェンズ・ガラ〉

東京バレエ団が誇る多彩なレパートリーの中から、20世紀舞踊史に輝く珠玉の名作を集めたトリプル・ビルが上演される。 東京バレエ団は、世界の巨匠たちから直接指導を受け、さらにオリジナル作品を委嘱しレパートリーとして定着させてきた、日本でも稀有なカンパニーである。今回は、同団のために振付けられたオリジナル作品を含む、3人の巨匠による傑作を一挙に上演し、その真髄に迫る。

モーリス・ベジャール『春の祭典』 生命の根源が爆発する

数あるベジャール作品の中でも、彼の名声を決定づけた記念碑的傑作である。世界中の振付家がストラヴィンスキーの『春の祭典』に挑むたびに参照されるマスターピースと言ってよい。
ベジャールは、ニジンスキーのオリジナル版にある「神に捧げられる生贄の少女」という設定を軽々と飛び越え、「原始社会における生=性の謳歌」という、より普遍的で生命の根源に迫るテーマへと深めていった。 ベジャールが「鹿の発情の様に触発された」と語る通り、舞台上では男と女の集団が互いに挑発し、求め合う。男性の大きく湾曲した腕の野生的な動きと、女性の鋭く直線的な動きが交差し、ラストに向けて巨大なうねりとなっていく。
生命に直結した欲望は、やがて崇高な光を帯びていく。最後に選ばれた一組の男女が集団に囲まれて結ばれる光景は、本作の翌年に作られた『ボレロ』のクライマックスをも彷彿とさせる。 本作は2024年のイタリアツアーでも絶賛された。国内では7年ぶりとなる上演である。日本で最もベジャール作品を踊り続け、その精神を深く継承している東京バレエ団のダンサーたちが、エネルギーの奔流を舞台に解き放つだろう。

ベジャール振付『春の祭典』
Photo: Shoko Matsuhashi

ジョン・ノイマイヤー『月に寄せる七つの俳句』 東西の心が響き合う「目で見る俳句」

ジョン・ノイマイヤーは、今日的なテーマとともに複雑な感情や物語をバレエで描き切る名手だ。伝統を重んじつつ革新を続けてきた、稀代の振付家なのである。 本作は1989年、東京バレエ団の創立25周年記念公演のために、彼が特別に振付けたオリジナル作品である。
音楽はJ.S.バッハとアルヴォ・ペルト。青い照明の下、「月を見る人」が舟上から月を眺め、静寂の中に7つの俳句が朗読される。松尾芭蕉、小林一茶、正岡子規、与謝蕪村、山口素堂らが詠んだ「月」の世界が、舞台上に現出する。 ノイマイヤーといえば、普段は緻密に、時に濃密すぎるほどに物語を語る作風だ。しかし本作ではその表現を極限まで削ぎ落とし、重層的な意味を持つ俳句の奥深い世界を体現し、「目で見る俳句」と称されるほど清冽な傑作を生み出した。
今回は17年ぶりの再演となる。しかもノイマイヤー本人が来日してキャスティングを行うそうで、演出の細部へのアップデートも期待されるところだ。 西洋のバレエと日本の俳句が「月」を通して融合する、その透徹した美意識に浸りたい。

ノイマイヤー振付『月に寄せる7つの俳句』
Photo: Kiyonori Hasegawa

イリ・キリアン『小さな死』 モーツァルトの旋律に溶け合う官能とユーモア

イリ・キリアンは、オランダのNDT(ネザーランド・ダンス・シアター)を一躍世界的な存在へと押し上げた伝説的な振付家だ。日本でも熱狂的なファンが多く、キリアンの芸術監督時代のNDTは、かなりの頻度で来日公演が行われていた。 キリアンの特徴は、クラシック・バレエの確固たるテクニックをベースにしながらも、それを解体し、大胆かつ自由な身体言語へと昇華させる点にある。
本作『小さな死(Petite Mort)』は、キリアンの美学が凝縮された代表作の一つだ。 冒頭、6人の男性ダンサーがサーベル(剣)を操るスリリングなダンスで幕を開ける。やがて舞台を覆う大きな布の中から女性ダンサーたちが現れ、ちょっとしたシカケのある黒いドレスのシーンへと展開していく。
タイトルの「小さな死」とは、フランス語で「エクスタシー(オルガスム)」の隠語でもある。モーツァルトの至高の旋律に乗せて繰り広げられるのは、甘美で気だるく、しかし鋭利な大人のダンスだ。身体の軌跡は、男女が交わす視線のごとく複雑に絡み合う。 特筆すべきは、張り詰めた緊張感の中で、ふっと差し込まれる洗練されたユーモアだ。強くて元気なだけのダンスに飽きた大人のための小粋なダンスである。

キリアン振付『小さな死』
Photo: Marco Ciampelli

継承と発展がダンスの世界を深める

今回取り上げる3人の巨匠には、偶然ながら共通点がある。それは3人とも、母国とは異なる地でその才能を開花させたことだ。キリアンはチェコからオランダへ、ノイマイヤーはアメリカからドイツへ、そしてベジャールはフランスに生まれ、ベルギーとスイスを拠点とした。 彼らは異文化の中で自己を確立し、そして東京バレエ団とは浅からぬ絆で結ばれている。
来日公演の数が減少傾向にある昨今、東京バレエ団はクラシックとコンテンポラリーの両輪をつなぐ貴重な公演を続けている。ダンス界はとかく「新作偏重」になりがちだが、ヨーロッパでは継続性に基づいた発展性にこそ真の価値が置かれ、新作同様に巨匠たちの作品を踊り継いでいる。
スケールの大きさ、懐の深さ、そして時を超えても色褪せない発想の斬新さ。本公演は、彼らが巨匠と呼ばれる所以を一晩で堪能できる貴重な機会といえるだろう。

文:乗越たかお(舞踊評論家)

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東京バレエ団〈レジェンズ・ガラ〉
ベジャール『春の祭典』
ノイマイヤー『月に寄せる七つの俳句』
キリアン『小さな死』

公演日

2026年
2月27日(金) 19:00
2月28日(土) 14:00
3月1日(日) 14:00

会場:東京文化会館(上野)

※配役は12月末ごろの発表を見込んでおります。

入場料[税込]

S=¥15,000 A=¥12,000 B=¥9,000
C=¥7,000 D=¥5,000 E=¥3,000
U25シート=¥2,000 U39シート=¥4,000
*ペア割引[S,A,B席]あり
*親子割引[S,A,B席]あり